岡倉天心・著、大久保喬樹・訳
茶の本 第六章 花 より抜粋
人間がもっと人間的になるまでは
どうして花はこんなにも美しく生まれながら、かくも不運なのだろうか。虫なら
ば刺すことができるし、最もひ弱な動物ですら、追い詰められれば、戦うだろう。
ーーーなんと悲しい事か。
ーーー侵略者の前に、なんの助けもなくたたずむばかりである。
花たちが断末魔の叫びをあげても、私たちのかたくなな耳には届かない。
花は私たちを愛し、黙って奉仕してしてくれるのにーーー。
ーーー私たちはこの最良の友から見捨てられる時がくるだろう。野の花が年毎に
稀になってきているのに気がつかないだろうか。きっと、花の中の賢者が花たち
に、人間がもっと人間的になるまではどこかへ避難しているよう命じたのだろう。
それで、おそらく彼らは天国に移住してしまったのだ。
百年前の天心の願いとは逆行するような今の世の中。
花が戻るのはいつの事でしょう。