『会報 20181月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より


 

会社が、残業扱いとなる業務(増務)の割当てについて、組合員とその他の従業員との間で異なる扱いをしているとして、組合と組合員が増務割当て差別の禁止やバックペイの支払いなどの救済命令を申し立てた事案です。一部の成立を認めたところ、労使から救済命令の取消請求がなされたことによる訴訟です。

判決は、中労委の判断を是認して取消請求が棄却されました。会社が組合員に残業を命じないという行為がどうして不当労働行為に当たるとされたのかが、注目すべき点となります。

今回は、事案の解説です。

 

3.事案の解説

(1)残業差別と使用者の中立保持義務

本件では、残業扱いとなる増務割当てについて組合員とその他の従業員との間で異なる扱いをしていたことが不当労働行為に当たるかどうかという点が争われます。

使用者の中立保持義務を説示した判例としては、同一企業内に複数の労働組合が併存する場合にそれぞれの組合と団体交渉を行なった結果、組合間で残業に関して差異が生じてもこれは取引の自由のもとで組合が選択した結果であって不当労働行為の問題は生じません。しかし、使用者は各組合に対し中立的態度の保持、平等取扱が求められ、組合の性格や傾向、運動路線のいかんによって差別的な取扱いをすることは許されないとされています。

ただし使用者は、各組合との対応に関して平等取扱い、中立義務が課せられているとしても、各組合の組織力、交渉力に応じた合理的、合目的的な対応をすることが、このような義務に反するとは言えません。本件では、少数組合との間に残業に関する協定が成立しないことを理由として、組合員に残業を命じない会社の動機・原因は、組合員を長期間経済的に不利益を伴う状態に置くことにより組織の動揺や弱体化を生ぜしめんとの意図に基づくものであったと考えらえます。

二つの組合との間で残業に関する団体交渉を行なった結果として、一方の組合との間では協定の締結に至り、他方の組合との間では協定の締結に至らなかった結果、両組合の組合員の間で残業に関しての取扱いを異にするという、一方の組合の組合員には残業を命じ、他方の組合の組合員には残業を命じないという措置をとったことが問題となっています。使用者が敢えて、このような差異を作り出し、そのことによって他方組合の団結権を否認し、組織の弱体化を意図することにあったと認められる場合には、不当労働行為が成立することになります。

今回の事案は、団体交渉における使用者の対応、協定の締結の有無が問題となったものではありませんが、特定の組合員に対して残業を命じないという取扱いについて、その不当労働行為性が問題となります。

 



次回も引き続き、事案の解説についてまとめます。