厚生年金保険 - 60歳の選択(4) - 続けて働く ②

 

60歳の選択」と題して、定年退職を迎えようとしている高年齢者の方に向けて老齢厚生年金を中心とした老齢給付と、それを受給する際に関係してくる雇用保険の求職者給付と雇用継続給付などについて解説しています

 

連載の4回目は、60歳以後も続けて働いた場合の年金カットについてまとめます。

 

2.在職老齢年金

(1)どんな年金か?

在職老齢年金とは、職に就いている人に支給される老齢年金です。もう少し正確に言うと、働いていて厚生年金保険の加入者である人が受け取る老齢給付です。60歳以上65歳未満では特別支給の老齢厚生年金が支給されますが、働いている人は給与や賞与もありますので、その金額に応じて、支給される年金を一部カットされます。つまり、減額された特別支給の老齢厚生年金を、「在職老齢年金」と呼んでいることになります。



(2)どれくらい減額されるのか?

カットされる年金の額は、「年金月額」と「総報酬月額相当額」から計算されます。「年金月額」は、自分の受け取れる特別支給の老齢厚生年金の額を12カ月で割り算した1カ月分の年金額です。「総報酬月額相当額」は、標準報酬給月額と標準賞与額を12カ月で割り算したものの合計です。

カットされる年金額(これを支給停止額と言います)は、「総報酬月額相当額」と「年金月額」の額によって4つのパターンで計算されます。



① 「総報酬月額相当額」≦48万円、 「年金月額」≦28万円 の場合

 (「総報酬月額相当額」+「年金月額」-28万円) の2分の1

② 「総報酬月額相当額」>48万円、 「年金月額」≦28万円 の場合

 (「総報酬月額相当額」-48万円) + (48万円+「年金月額」-28万円) の2分の1

③ 「総報酬月額相当額」≦48万円、 「年金月額」>28万円 の場合

 「総報酬月額相当額」 の2分の1

④ 「総報酬月額相当額」>48万円、 「年金月額」>28万円 の場合

 (「総報酬月額相当額」-48万円) + (48万円) の2分の1

 

判り難いですね。私も試験のときに苦労しました。でも実務上は①のパターンだけを覚えておけば大丈夫です。年金月額が28万円を超えることはまずありえません。総報酬月額相当額についても60歳以上にもなれば、役員とかでない限り48万円を超えることはないでしょう。

 

ということで、①の計算式をよく見ると、28万円を超えたら、超えた金額の半分をカットしますよ、ということを意味しています。言い換えると、給与・賞与のある人は必ず年金カットされるということではありません。28万円未満の人はカットはなく、年金は全額受け取れます。

 

(平成22年度より、基準となる48万円という金額が47万円に変更されています)

 

(3)実際に試算してみると...

計算しやすく、一般的にありそうな金額で計算してみます。

年金月額 10万円(年金額 120万円)の場合、

① 総報酬月額相当額 18万円では、

 18万円+10万円=28万円 なので年金カットはありません。

② 総報酬月額相当額 20万円では、

 (20万円+10万円 - 28万円) の2分の1 = 1万円 が、年金からカットされます。

2万円多く稼いだのに、手取総額は1万円しか増えないということです。

 

(4)まとめると...

在職老齢年金とは呼んでいるものの、実態は減額された特別支給の老齢厚生年金です。働いて収入があれば年金をカットされるという考え方は、なかなか馴染めるものではありません。年金は退職して収入がない人が生活するためのもの、という考えからだとは思いますが...本来なら65歳まで待たないと年金は支給されないのだから、減額されても60歳から受け取れるだけ幸せです、と言われるとそれまでですね。

 

収入があるといっても、60歳以後は現役の頃と比べてそんなにたくさんはもらえないし、さらに年金までカットされるのかとお嘆きの方に、次回は、60歳以後に給与が下がった場合に受け取れる高年齢雇用継続給付金について説明します(少しは良いこともあります)。

(*平成21年10月1日現在の法令を基準にしています)