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川口悠子が語るキャリアとロシア
「大きな決断ではなかった」国籍変更
スポーツナビ2015年4月24日 12:06
FS後に流した涙の理由
4月16日から東京・国立代々木競技場第一体育館で行われたフィギュアスケートの世界国別対抗戦。ロシアチームの一員としてペアのフリースケーティング(FS)に臨んだ川口悠子は、演技後に涙を流していた。
「大好きなFSのプログラム、しかも今季最後の演技で(トリプルトウループを)転倒してしまって悔しいです」
川口にとってFSの『マンフレッド交響曲』は特に思い入れのあるプログラムだ。本来は昨年のソチ五輪に向けて用意していたものだったが、ペアを組むアレクサンドル・スミルノフが2013年10月の試合中に負傷し、シーズンすべての試合を欠場することになってしまった。当初は昨季限りでの引退を予定していたが、「このプログラムを滑りたい一心で」今季も現役続行を決断した。
そんなプログラムを、シーズン最終戦でミスしてしまったのだから、その心中は想像に難くない。とはいえ演技後の取材対応では、声を詰まらせながらも今季をポジティブに振り返った。
「山あり谷ありでしたが、復帰戦としては良かったし、良いシーズンでした。滑りたかったプログラムを何度も滑ることができたので、満足しています。今大会はみんなの演技を見ることができたし、チームとして一致団結できたので、自分もロシアチームの一員なんだなと感じられたし、楽しかったです」
世界国別対抗戦に出場したペアの川口悠子が、自身のキャリアとロシアのフィギュア事情を語った【坂本清】
「山あり谷ありだった」シーズン
09年にロシア国籍を取得してから6年。昨年11月で33歳になった。その間にバンクーバー五輪出場(結果は4位)、欧州選手権での優勝、世界選手権での銅メダル獲得など実績を積み重ねてきた。しかし、前述のように昨季のソチ五輪出場はかなわず。川口は当時を「絶望的な気持ちだった」と振り返る。
「ソチ五輪を目指して練習していたので、その目標がなくなってすごくどうしようもない気分でした。彼(スミルノフ)はけがをしていたとはいえ、まったく滑っていなかったわけではないので、ショーにも出ていたし、ひたすら最後の最後まで五輪に出場できることを祈っていましたね」
現役続行を決断した今季、復帰戦のネーベルホルン杯で優勝。続くグランプリ(GP)シリーズのスケートアメリカではスロー4回転サルコウを決めるなど、FSの自己ベストを更新する圧巻の演技で勝利を飾った。3年ぶりの出場となったNHK杯では2位。「いかに自分が日本で集中できないかが分かりました。日本で滑れることはうれしいんですけど、周りの日本語をシャットアウトできていないということは集中できていない証拠」と、苦笑いを浮かべながら反省の弁を述べた。
GPファイナルは6位という失意の結果に終わったが、年が明けた1月の欧州選手権では5年ぶり2度目の優勝。しかし、本人が「山あり谷ありのシーズンだった」と語ったように、世界選手権では転倒するミスを犯すなど演技に精彩を欠き、5位に沈み表彰台を逃した。
シーズン最終戦となった世界国別対抗戦でも不調は続く。川口組はショートプログラムで3位、FSで4位に終わった。ロシアは同大会で初めて2位に入ったものの、チームのキャプテンを務めたスミルノフが「男子シングルとペアは点数を稼ぐ余地がある」とコメントするなど、川口組は本来の出来とは程遠かった。
世界国別対抗戦後に行われたインタビューでは、FSでの涙から一転、穏やかな表情を見せた【スポーツナビ】
復帰戦で優勝するなど幸先良くスタートした今季だったが、後半は不調が続き結果を残すことができず【坂本清】
復権を遂げた一方で生じた問題
その一方、世界国別対抗戦では女子シングルがロシアチームをけん引した。FSでエリザベータ・トゥクタミシェワが1位、エレーナ・ラジオノワが2位に輝くなど、相変わらずの強さを見せつけている。今季はトゥクタミシェワが、GPファイナル、欧州選手権、世界選手権で3冠を達成し、ラジオノワも3大会すべてで表彰台に乗った。今回初めてひと回り以上も年齢が違う彼女たちと同じチームで戦った川口は、頼もしい思いでこの10代の選手たちを見つめていたという。
「普段は普通のティーンエイジャー。でもやるときはやる。プロ意識がすごく高いなと思います」
川口がロシアに所属を移した06年当時(編注:まだこの時点では国籍は取得していない)、女子シングルは低迷期を迎えていた。しかし、07年にソチ五輪の開催が決まると、国を挙げて全種目の強化に乗り出した。08年のバンクーバー五輪では銀1個(男子シングル)、銅1個(アイスダンス)に終わったものの、ソチ五輪では金3個(女子シングル、ペア、団体戦)、銀1個(ペア)、銅1個(アイスダンス)と、その成果が一気に現れた。いまやロシアはフィギュアスケート大国として完全に復権を遂げている。
一見、競技を取り巻く状況は良くなっていると思われがちだが、川口はそうでもないと語る。
「昔の方が選手にとっては環境が良かったと思います。環境が良いと言うかみんなに対して平等だったんじゃないかと。エリートスポーツとまではまだいってないと思うんですけど、資本主義の影響もあり、当時よりすごくお金がかかるスポーツになってしまったんです。もちろん良くなっている部分もあるんですけど、多くの選手にとってみれば、やはり厳しくなった面はあるんです」
ソチ五輪でロシアは金3個を含む5個のメダル獲得。フィギュア大国として完全に復権を果たした【写真:ロイター/アフロ】
「ロシアでやっていて良かった」
ロシア国籍を取得してからかなりの時間が経過したとはいえ、日本で生まれ育った川口はいまだにコミュニケーション面で戸惑うこともあるようだ。それはペアを組むスミルノフとて例外ではない。
「人間だから普段のメンタルが違うのは当然だし、男と女というだけでも違いますよね。ただ育ってきた国も違うので、ときには『何でこうなるの?』というところが意識しない部分で出てきたりするんです。そういうときはパニックになったりもします。特にストレスがかかったとき、人間ってそういうのが出ますよね。そこで意外な反応をされると、こっちも『えっ?』となってしまう。でも試合のときはきれいにぴたりと合わせないといけないので、そういうのは難しいです」
国籍変更については今振り返ってみても、特別な出来事ではなかったという。何よりペアの選手としてトップを目指すためには、そうするより他なかった。そのため「そんなに大きな決断でもなかったし、ひとつの手段としてしか思っていなかったです」と、川口はあっけらかんと話す。
「ロシアはペア大国でもあるし、その中で試合をやっていくことは、下からの突き上げもあって、けっこうきついんですね。確かに厳しい環境だけど、やりがいもあるし、やっぱり競争相手がいないと、上達もしにくいので、ロシアでやっていて良かったなと思っています」
来季以降の去就は現在のところは未定。しかし、たとえどんな決断に至ったとしても「ただ滑ることが好きで仕方がない」という川口は、これからも銀盤の上で、多くのファンを魅了してくれることだろう。
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)
「滑ることが好きで仕方がない」と語る川口。今後も銀盤の上で多くのファンを魅了することだろう【坂本清】
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