浅田真央の挑戦 | フィギュアスケート研究本

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20歳、もっと跳ぶ   2010年9月29日  asahi.com

中国・北京で行われたアイスショーの練習ではトリプルアクセルも成功させた
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「やっぱり、あのころの方が伸び伸びスケートしてたかな? 試合なのに、北京動物園へパンダを見に行ったりしてましたから」

――9月上旬、北京でのアイスショーに招かれた。15歳のとき、初めてシニアの国際大会を経験した街。もう一度、初々しい気持ちを確認することができた。

 「5年前は、テレビで見ていたスケーターと一緒に滑れるだけで楽しかった。今は、気持ちが全然違います。たくさんの試合でメダリストになることができ、トップとして追われる立場。5年前とは逆ですね。でも、気持ちだけは変わらない。スケートが好き、スケートが楽しいという気持ち。それだけは忘れたくない」

――昨季は序盤にジャンプを崩しながらも、バンクーバー五輪で銀メダル、世界選手権で2度目の女王になった。25日に20歳の誕生日を迎える。

 「本当に新しいスタート。20代最初のシーズンです。バンクーバー五輪が終わって一段落。五輪シーズンは、自分が目標としてきたことはほとんど達成できた。がんばれば、ちゃんと結果はついてくるんだと思えた。もちろん、決して満足はしていない。満足してしまったら、そこで終わりになるから」

――6月にはハワイで息抜き。5歳で本格的にスケートを始めてから、スケート靴を持たない旅は初めてだった。

 「バンクーバーが終わったら、ハワイに絶対行こうって決めてました。計画はすべて私が立てました。1日ショッピングに行ったり、プールへ行ったり、ハワイ人になった気分でずっと街を歩いたり、海を眺めたり――。スケートを始める前は、家族みんなでハワイに行って遊んだのが一番の思い出だったんです。前に行ったのは3歳とかそれぐらいかな。本当に久しぶりで、すごくのんびりできました」

――原点回帰。もう一度、得意のジャンプに磨きをかけていこうと、6月から長久保裕氏にジャンプ専門のレッスンを受けた。2006年トリノ五輪金メダルの荒川静香らを育てた指導者だ。

 「最初はジャンプの形や跳ぶ位置から。シングル(1回転)、ダブル(2回転)、トリプル(3回転)と回転を徐々に増やしながら、基礎から作り直しました。回転の速度が遅かったり、助走が遅かったり、全体的に『遅い』というのが先生の教えでした。始めた頃よりだいぶ形が固まってきたと思う。それでもまだ、自分の目指すレベルから言えば10段階の5ぐらい。でも、自分がジャンプをよりよくしたいと思って始めたことなので、このまま継続してやっていけば大丈夫」

――女子では自分しか跳べないトリプルアクセル(3回転半)という大技を持っているが、簡単とされるルッツやサルコーを苦手としてきた。

 「とりあえず今季はジャンプを全種類、プログラムに入れるつもりでやっています。アクセルだけじゃなくて、種類が増えればもっと自分が有利になる演技構成を考えることができる。(SP、フリーで計3度のアクセルを入れた)昨季の演技構成に悔いはないし、いま後悔してもしょうがない。昨季を経験して分かったことは、最後は絶対できる、大丈夫っていうこと。だから、来年、再来年を見据えながら、新しいことにチャレンジしていきたいんです」

――9月に入って新しいメーンコーチも決まった。世界殿堂入りをしている佐藤信夫氏。徹底的なスケーティングの基礎の指導で知られる。

 「信夫先生は選手としても全日本選手権10連覇を達成されていて、すごい経験を持っておられる方。今までの経験をたくさん聞いてみたいですね。フィギュアスケートはジャンプだけじゃないんで、スケーティングなどいろいろな部分を見てもらいたい」

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 14年ソチ五輪へ向け、新たなスタートを切った浅田真央。「挑戦」への思いを、特集面でお伝えしていきます。

■これからは休息も大切 佐藤信夫コーチ

 シーズン直前にお引き受けしたので、正直、今はどう指導していこうか考えながらレッスンをしています。2度も世界の頂点に立っている選手を教えることは、40年以上コーチをしていてもやはり「怖い」というのが本音です。

 彼女自身、とにかくいろいろなことを吸収したいという気持ちでいっぱい。だから僕の話をとてもよく聞いてくれます。ただ、彼女も今までのやり方があるので、いきなりジャンプがどうであるとか細かな指導をすることはできません。シーズンインまで時間はありませんし、練習を見ながら、気づいたところを少しずつ助言していっています。

 浅田さんには、週に1度は必ず休みを取ってくださいとお願いしました。10代なら疲れを知らずに滑り込むことができますが、20代になると休息も大切です。試合前には追い込んだ練習をしていくので、結局、練習量は同じになります。だから、練習のペースについては助言をしっかり聞いてください、と。まだ(自分が指導する小塚)崇彦と一緒に練習させる機会はありませんが、男子と一緒に練習することもいい刺激になると思います。

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 さとう・のぶお 1942年1月、大阪府生まれ。選手として2度の五輪に出場。引退後はコーチとして、娘の佐藤有香を世界選手権金メダルに導いたほか、安藤美姫や村主章枝らを指導した。

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北京ではアイスショーを終えると、大好きなショッピングも楽しんだ=いずれも坂上写す