金蹴り小説:青春の痛み<小学生編後> | 天使のピリ辛エッセイ

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 自称変態小説作家しゅんすけが送る「青春の痛み 小学生編」の続きです。主人公の俺(桐山大輔)が急所を蹴られてしまいます。時間も遅くなりましたので、それでは今夜も一気に書き進めます。

 

 <青春の痛み 小学生編後>

 

 今日も牛乳を2秒で飲み干し、パンと惣菜を口に放り込んでろくに咀嚼もしないでグランドへ出た。1番だ、この1番に価値がある。次々にクラスの主だった男子がやってきてた。つま先で砂に線を描いていく。ドッジボールのコートだ。6年生はグランドの中央に陣取ることができた。下級生はそんな上級生の目を盗みながらそっと近くに描いていく。

 

 俺は相棒の横田と2人で敵チームの全員にボールをぶつけた。楽勝だぜ。昼休み終了5分前のチャイムが鳴る。みんな今日の戦果を口々に教室へ戻る。汗をかいたというのに俺は尿意をもよおした。ひとり校舎に入らずに脇にある便所へ駆け込んだ。

 便所はごく簡易な造りで、一応は男子用と女子用に分かれてはいるが、男子用の小便器の前に立つと正面に窓があってグランドから戻るみんなと鉢合わせするような恰好になる。

 

 ズボンのチャックに手をかける。ファスナーを下す、それとほとんど同時に勢いよく小便が飛び出した。眼前に下級生の女子グループが飛び込んできた。目があった。俺のひときわ日焼けした顔は、女子にはどんな風に映ったのだろうか。

 

 俺がスカートめくりをした相手は5年生の宮口優子と木本里恵。宮口が赤いスカートの方で木本が水色。確か次の日に聴いた話では、宮口と木本は突然の嵐のようなスカートめくりに吃驚したようで暫く立ち上がれなかったそうだ。桐山がまた女子を泣かしてしまったのかと思われそうだが、あいつらは「キャー」と言って喜んでいたぞ。どうせブルマを穿いているいるのだからスカートが捲れ上がったとしてパンツは見えない。ブルマ姿は体育の授業でとっくに晒しているはずだろう。

 

 俺は女子という生き物がどれほど複雑怪奇なものか分かっていなかった。もちろん今でもわかっていない。男子とはDNA配列からすべて異なる異次元の生物なのだろうか。それは考えすぎかもしれないが、小学6年生の桐山大輔が少なくとも男女の差異など気にもかけなかったことは事実に相違ない。

 

 小便を終えた俺は腰を振った。そしてパンツにしまいこむと尿の最後の一滴が滲みた。ファスナーを上げて急いで手を洗う。濡れた手はケツで拭いて教室へ戻ろうと駆けだした。

 

 その俺を通せんぼしたヤツがいた。

 

 5年生の女子だ。ピンときた、さっき見た宮口と木本がそこにいた。そして2人よりもひときわ背が高くもう160㎝はあるのではないかと思う女子がいた。俺はまだ150㎝もなかったから見上げるような姿勢になる。常々あいつでかい女だなあと知っていた。うろ覚えだが名前は小田といったと思う。何が「小」だ、お前は「大」だ。他にも名前を知らない女子が2人。気が付いた時には計5人の女子に囲まれていた。

 

 正面に仁王立ちの小田の声が頭上から届く。

 

 「桐山」

 

 俺を呼び捨てにしている。こいつ何様だ、男子にケンカを売っているのか。

 

 「なんだ」

 

 俺は口を咎めてぐっと鋭く小田を見たが、10㎝以上の身長差があるので少し顎が上を向く。小田はチビを見透かしたような自信に満ちていた。

 

 「優子と里恵に謝りなよ、スカートめくったんでしょう!?」

 

 宮口と木本は小田に守られるように傍らにいたが、その瞳には復讐の色があった。背後からも矢継ぎ早に声がする。

 

「謝って、謝って」

 

 おいおいマジかよ、5年生女子に絡まれてしまったのかよ。うぜえ女だな。

 

「うっせえ、どけよ」

 

「謝って、スカートめくりしたの謝って」

 

押し問答になるのが面倒くさいので、敵軍のボスであろう小田を睨みつけた。

 

「お前ら女のくせにケンカ売ってんのかよ、黄金の右足が火を噴くぜ」

 

俺はどこかの漫画で読んだよう劇画調の声音で凄んでやった。そしてシュートを決めた時と同じ動作で右足を小田に繰り出した。

 しかしこの時の桐山大輔は明らかに手を抜いていたはずだ。力は半分くらいだった。5年生の女子を相手にするなら脅かしだけで十分すぎるはずだからだ。つま先が小田の胸元に届いた。スカートめくりがダメなら胸ならいいのかよ、小田。

 

 俺の右足が地面に戻って着地する。小田の顔色に一瞬だがたじろいだ。敵に対して攻撃体制を露わにしていたのだ。こいつは何かを仕掛けてくる、わかった、こいつは俺の股間を狙っているのだ、男子の唯一の弱点を蹴ってやろうとしているのだ、僅か1、2秒でそれを察したつもりだった。運動神経抜群の桐山大輔は後ろへ下がって股間を両手でガードしたはずだったが、小田のつま先が俺の股間に当たるのが分かると同時に、目の前の風景と女子達が混然となり眩暈に近いショックを覚えた。俺は尻もちをついた。

 

 金玉にヒットしたのは確実だった。金玉から脳天まで痛さが突き抜けた。痛かった。それまで経験したことのないような痛みだ。激しいけれど鈍い独特の内臓痛。勝負ありだった。

 

 「ううううう・・・いでででで」

 

地面に倒れてようやく股間を押さえることができた。女子達がどんな風にしているかなんかわからなかった。冷や汗がさーっと腰から下へ流れた気がした。金玉がズキズキ痛んだ。小田がしてやったりと俺を見下ろしているのがわかった。こんな屈辱があってたまるかよ。負けるな、俺。負けるな、桐山大輔!

 

 「ざ、ざ、ざけんなよ」

 

 2度目か3度目の「ざ」を出そうとした時、俺の声が1トーン上がった。自分では止めることができない内側からの感情と痛みがない交ぜになった。これはなんという状態なんだろう、自分でもまったくわからなかったと思う。この前は野原の吃音に飽いたような俺だったが、その時は野原どころの発音の悪さではなかった。女子達は俺の「ざ」を「あ」と聞き間違えたかもしれない。

 

 「あげんなおー」(ざけんなよ)

 

 俺はその場でワーンと泣き出した。

 

 授業に戻ってからも俺の金玉は痛かった。一番後ろの席で寝ているフリをして机にうつ伏せになって泣いていた。右手は拳を固くしていたが、左手で金玉を押さえていた。

 

 暫くして担任に指を差された俺は立ち上がることもできなかった。目撃者がいた。クラスの女子達だ。桐山君が5年生の女の子に蹴られて泣いたと言って笑いだした。俺はもう1度金玉を蹴られてしまったかのような錯覚がした。これが男のプライドなのだろうか。もうこの期に及んでカッコつけてもしょうがねえ。

 教室でありったけの声を出して「金玉いてー!」と騒いで、両手で押さえてピョンピョンとやったら、クラス中が大爆笑していた。