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3月1日。 3月にしては暖かい、むしろ暑い初夏のような陽気が町を覆っていた。 夏雄は窓を半分だけ開けて、車を走らせていた。 セミでも鳴きだしそうだな、と窓から飛び込んでくる暖かい風に夏雄は思った。 途中、給油のためにガソリンスタンドに車を乗りいれた。 「いらっしゃいませー!」と、勢いよく挨拶しながら、ガソリンスタンドのスタッフは夏雄の車を給油機の前まで誘導した。 夏雄は「レギュラー、満タン」と半分開けた窓越しに、そのスタッフに声をかけた。 給油をしている最中に、「タイヤ交換、早期割引!」の旗が夏雄の目にとまった。 その様子に気づいたスタッフは「よろしかったら、夏タイヤへの交換いかがですか? お安くなっていますよ」と、話しかけてきた。 もう雪なんか降らないだろう、と夏雄は夏タイヤへの交換もしてもらった。 

 

3月14日、朝。 3月も半ばだというのに寒い日が続き、とうとう雪が降ってきた。 近所では雪かきをしている人たちがいた。 あぁ?なんだこりゃ? と、夏雄は家の外に降り積もっている雪をみて、にわかには信じられない様子だった。 「ああぁー、くそっ!」 先日、自分の車のタイヤを夏タイヤに履きかえたことを思い出した。 車に乗り込み、夏雄はタイヤ交換をしたガソリンスタンドへと向かった。 途中、何度も車をスリップさせながらも、慎重に運転した。 ようやくガソリンスタンドにたどり着いた夏雄は、 「いらっしゃいませー!」と、勢いよく挨拶しながら向かってくるスタッフに声を張り上げた。 「お前んとこが早くタイヤ替えたら安くするって急かすから、替えたら雪降ってんじゃん!! どうしてくれんの?! 」 と、本当ならばやり場のない怒りであるはずなのに、無理やりにそのスタッフに怒りをぶつけた。 突然怒鳴られたスタッフは豆鉄砲を食らった鳩のような顔になった。 「いかがされました?」と別なスタッフが、夏雄にどなられ硬直しているスタッフの後ろから小走りに飛んできた。 それは夏雄にタイヤ交換をすすめたスタッフだった。

 

「タイヤですね、お客様」と、小走りに飛んできたスタッフは状況を察した。 「了解しました、なんとかしましょう」と、そのスタッフは夏雄が何か言う前に、作業の準備にとりかかった。 夏雄は、先日交換したタイヤを戻してもらえるものだと思った。 しかし次の瞬間、「ぅおおおおおおおおおおおおおおおおお」と地鳴りのような声が響き渡った。 その声に自分の周りの空気がびりびりと震えるような感覚を、夏雄は感じた。 先ほどタイヤ交換の作業にとりかかるものと思われたスタッフが、少し離れた場所で、両手を上空に向けて叫んでいた。 「な、何だぁ?!」と、夏雄は面食らった。 まるで、新たな太陽がそのスタッフの体から出現したように見えた。 莫大なエネルギーの塊のような、その「太陽」はゆっくりと、しかし加速度を増しながらぐんぐんと上昇して、やがて地球から飛び去る流れ星のごとく消えていった。 しばらく唖然としていた夏雄がはっとして周りを見渡すと、辺りの雪が忽然と消えていた。 どんよりと雲の立ち込めていた冬の空からも、嘘のように雲が消え、青空が広がっていた。 

 

夏雄の車から離れた場所に、咆哮を上げていたスタッフらしき人が地面に倒れていた。 そこへ、別のスタッフが駆け寄った。 「無茶しやがって…」と、駆け寄ったスタッフが倒れていたスタッフを抱え起こしながら言った。 夏雄は我に返り 「えええええっ?! 雪のほう消しちゃう?! 普通タイヤのほう交換し直さない?!」と、誰へともなく、むしろ自分へ言い聞かせるように突込みをいれた。 (完)

 

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Inspired by: 

『 東北は広い範囲で雪が降っています。午前6時現在、青森で4センチ、盛岡で12センチ、山形で3センチ、福島で2センチなど、平地も積雪を観測しています。このところ雪解けが進み、東北の平地では先月の後半から広い範囲で積雪0センチとなっていたため、久しぶりの雪道、という所も多くなっています。また、福島県金山町で、一晩で約30センチ新たに雪が積もるなど、山沿いでは一気に積雪の増えた所があります。 』

【今朝 東北や北陸周辺で雪雲発達 風も強く荒れた天気 2019年03月14日06:18 tenki.jp】

https://tenki.jp/forecaster/deskpart/2019/03/14/3954.html