<出会いは突然に>

ハナムラ楽器

 

 2012年の11月に事件は起こりました。いつものようにふらりと立ち寄ったハナムラ楽器、木材が無造作に積み上げられた見慣れた店内。ふと積み上げられた木材の一枚と目が合ってしまった・・・。

 

「これ何の木ですかぁ〜」
『アルダーだね、もうかれこれ40年くらい眠っている材だよ』
「ふ〜ん、なんかテレキャスもいいね」
『ナガイくんも年を取ったな〜、テレキャスターに興味を持つとは』
「いや、そうでもないけど・・。なんかいいなって思ってさ」

 

クラスの中にこんな可愛い娘がいたのか!みたいな(笑)妙な胸騒ぎをうっすらと感じながら帰宅しました。中坊かっ!

 


 

<妄想>

 

 帰宅後になに気なく見ていたロイ・ブキャナンの動画。ジェフ・ベックに愛されたギタリストでもあり、あの名曲「悲しみの恋人達」は、ロイ・ブキャナンに捧げる曲として発表されたと云われています。ブキャナンの演奏に見入ってしまった!すっかりテレキャスターに取り憑かれているではないか!微熱を伴った恋をしているようでなんか恥ずかしいぞオレ

 


 

<マディの赤>

マディウォーターズ

 

 ひと晩も経たないうちに、とんとんと話が(夢が)膨らんでしまい。ボディのカラーはマディの赤テレのような感じがいい!でもケミカル系だとどうしても派手な赤になっちゃうんだよね・・。マディの赤テレキャスターを調べてみると、仕様はピックガードのネジの数や、ボリュームノブをアンプのボリュームノブに変えていたりしますが、最大の特徴は図太いネックと、ヘヴィ・ゲージ(012~)、通常よりも弦高を高くセットしてあり、よりスムーズなスライド・プレイ・セッティングを実践していたといわれます。「厚いネックと分厚いサウンドには、密接な関係があるんだ」と、神様は言っておられました。ふむふむ

 


 

<発掘>

ハナムラ楽器

 

 ボディ材は、先日出会ってしまったアルダー材で決定!パーツも調達済み!て、ことでネック探しです。これまた40年以上もハナムラで眠らせてあった渋いネックを発掘したよ。メイルプ材/ローズウッド指板の無茶苦茶に乾燥したネック材です!とても状態もよく、樹液のシミが浮き出てますがな〜 ハカランダ指板のような木目がキレイでしょ(笑)

 


 

<墨運堂朱墨>

墨運堂朱墨

 

 さてさて、前回悩んでいた赤の着色ですが、選んだのは奈良県にある墨運堂さんの朱雀という墨です。墨は古いほど良いと言われます。人の成長と同じように幼年、少年、青年、壮年、老年期と成長し変化していくのだそうです。この朱雀も重く鈍い赤に変わっていくのでしょう。アルダー材のボディもそうであるように、経年変化によってその彩色や音の成長を楽しむのもハナムラギターの特徴のひとつかと思います。さて!あとはピックアップを探していよいよ製作だ!

 


 

<ピックアップは振動を拾う>

 

 VintageのSTR-1/STL-1Bのセットがいいと思ったんだけど、QuarterPoundのSTL-3/STR-3がとても気になる・・。”STL-3はハムバッカーやホットP-90に等しいパワーを持っています。1/4インチの太いポールピースと特別のコイルターンが相まって出力をアップさせており、パワフルな中域とはっきりとした高域を持っています。うん、それは理解している。実はパワーはそれほど要らないのだ、ボディの振動をどれだけ拾ってくれるのかを知りたいのだ!

 



 <ボディとネックの仮留め>

ハナムラ楽器

 

 良さげな黒ピックガードもあったし、何気にパーツをちょっと乗せてみました〜。ボリューム/トーン/3wayスイッチは通常の逆付けにしました。ステージで絶対に切り替えスイッチを壊しちゃいそうなのでこうなりました。懸案のピックアップは、Seymour DuncanのVintage STR-1/Broadcaster STL-1Bに決定しました。

 


 

<邪の道>

ハナムラ楽器

 

 テレキャスターは角が腰とかに当たって痛いので、コンターを施してもらいました。う〜ん・・またまた邪道なコトをしてしまった。(笑)

 


 

<ブラス>

ハナムラ楽器

 

 一日がかりで研磨されたボディは見違えるほどキレイになっていた、木目がさらに浮き出してきたことにびっくり!これをピックガードで隠してしまうのはもったいないな〜 。バックにはテレキャ独自の弦を通す穴にブラスが仕込まれていた。強度と鳴りに貢献するのだという。さらに邪の道を行く。

 


 

<完成>

ハナムラ楽器

 

 するりと店内に入ると製作されたギターが店の壁に掛けられている中に、何か妙なオーラを発しているギターがあった。横目でちらっと見たか見ないか記憶にないが、取りあえずハナさんにご挨拶。

 

ハナさーん、こんちは〜!起きてる?
いよぉ〜!ナガイくん。出来てるぜ!けっけっっけ

 

何が?出来てるの?数秒間、固まる・・・。もう一度、壁を見てみると
どわーーーーーーーーーーーーー!!!!!
赤キャスターが塗装されている!パーツもすべて取付けられて壁に掛かっているではないか!(この時、本当に夢を見ているのかと思った)

 

なんで?なんで?まだ、木曜日だよ!!
いやね、なーんか気持ちが入っちまってさ、夢中になって完成させたよ!どうだい”赤”いだろう。けっけっけ〜

 

 お見事だ!なんとも言えない風合いの赤キャスターになっている。ハナさんも早く音が聴きたくて、すべての予定を返上して製作してくれたらしい。

 

とにかく、鳴らしてみな!さっき弦を張ったばかりだけど、こいつはもう鳴ってるぜ!けっけっけ〜

 

 どんなギターでも一週間は、手術したての人間と同じで手加減してやらないとダメだと言っているハナさんだが、今回はどうも違うらしい。まずは、生音で・・。通常のテレキャとは違う、やはりハナムラ遺伝子の音だ、既にネックまで振動が伝わっている。そして、ハナムラ楽器名物のおんぼろアンプにシールドを直で突っ込む。

 

ジャラーーーーーーーーーーーーーーーーーーンンンン〜ンンンンンン〜

 

なんじゃ?このサスティーンは!アンプからの音が鳴り止まない。凄過ぎる。テレキャ特有の鳴りだけど、なんつーか音が太い!キャンキャンしていないのだ。今までに何本もハナムラでテレキャスターを弾いたけど、この音色は初めての感覚だ。とにかくこうして赤テレキャスターは完成しました!お次は。。。

 


 

<最終調整>

Fシュガー

 

 今回も生まれたての赤キャスターをFシュガーさんに持ち込んで”本番用調整”を行ってもらいました。サドル交換/オクターブ調整/ネック調整その他の作業でしたが、なんつーのかなぁ、コックピットのような作業場、年期のはいった道具、黙々と調整を行う姿はいつ来ても、安心できる後ろ姿なのです。そして何よりこの神ビルダーは、とても柔らかな感性の持ち主。こだわりはあるが決して”それを”押し付けない。彼がいつもいう口癖は「もっと、鳴らす事ができるよ。ふっふっふ」なんとも、頼もしい神リペアマンなのだ。

 


 

 <赤キャスター初登板>

化学反応

 

 ソロパートでのみ使用で持ち込んだ赤キャスターでしたが、SGのジャックトラブルでブルペンの慣らしもなく初登板!バンドでの使用はテストしていなかったんだけど、ん?ちゃんと使えるじゃん!音のイメージは変化球を一切投げない、ストレートど真ん中って感じでした(良かった〜、調整済みで)しか〜し!専用のストラップでは無かったので、高さは合わないし、ずれるし、落ちるし、なかなか華やかなデビューとはいきませんでした。が、とにかく赤テリーの元気な産声をみなさんに聴いてもらえました。

 


 

製作してから5年

朱墨の色が渋く経年変化してきました。

 

ハナムラ楽器

 

<ハナムラロゴとマッチヘッド>

ハナムラ楽器

 

おしまい