昭和61年9月、関東地方の農村地帯に住む会社員N氏(48)は、 ある日右腰と太ももに痛みを感じ、針灸(しんきゅう)治療などを受けたが、病状は悪化するばかりで、 ついには腰が腫れ上がって動けなくなった。

昭和62年5月、N氏は日本でも10本の指に入る一流病院、×××病院に入院した。

病院のエックス線検査で肺に影が見つかり、同年9月、呼吸困難でN氏は死亡した。

同病院は当初炎症かガンの疑いを持っていたが、 病状の急激な悪化に疑問を持ち、病理解剖を行ったところ、 体内のあらゆる筋肉組織に体長1~3ミリの白っぽい半透明の

  「むし」

が、びっしりと付着していた。

標本を分析し、この寄生虫は「芽殖孤虫(がしょくこちゅう)」とわかった。

芽殖孤虫は、通常は蛇やミジンコなどに寄生していると見られているが、 人間の体内に入ると、植物が次々と芽を出すように急速に増殖し、 内臓や筋肉を喰い荒らす、恐ろしい寄生虫である。

致死率は100パーセント。

腰などの「しこり」は、この寄生虫の固まり(コロニー)だったのである。

私が見た新聞記事は、ごく小さな囲み記事であったが、 死因の気味悪さと、「芽殖孤虫」という、 まるで夢枕獏の小説に出てくるようなおどろおどろしい名前が強烈に印象に残った。

ビビリまくっている人のために言うと、この寄生虫で死亡した人は史上12例、日本ではこのN氏を含めて6例だけである