あさきゆめみし <前編> | シュンタスの台本置き場 兼 日記帳

シュンタスの台本置き場 兼 日記帳

自分の書いた声劇用台本を掲載していきます。
二次利用は許可なしでOKです(コメント・メッセージ等で感想など貰えるとすごく嬉しいです!)・・・たまに日記帳に化けます。

 


「あさきゆめみし」 著者:シュンタス


【比率】

♂:2 ♀:2


【役表】

浅喜・機械   ♂:
凛汰・魔王   ♂:
凜華      ♀:
飛鳥・勇者   ♀:


※1 アメブロの仕様上、2ページに分割し、前編・後編としていますが、
   この台本はもともと一本の台本です。前後で比率の変化もございません。
   お手数ですが、前編が終わったら後編のページに飛んでご使用ください。
   こちらが後編になります。  http://ameblo.jp/shun-daihon/entry-12092452159.html


※2 機械はScene7前半の1セリフのみです。見落としに注意してください。




【登場キャラ】

浅喜 現(あさき うつつ)♂

25歳。自らを<夢見師>と名乗る胡散臭い髭面の男。
本音が全く読めない天邪鬼。話し方は緩い。
凛汰の住む古アパートに1か月前に引っ越してきた。
今はなんやかんやで五葉家と交友関係?にある。


<夢見>の力:夢を見ている者の脳波と、自分の脳波を限りなく同調(シンクロ)させることで、
          見ている夢を覗いたり、介入(相手の脳波を乱す)することができるようになる。
          また、手を繋ぐことで自分以外の者にもイメージを共有することができる。
          しかし<夢見>を行うには、ある条件を満たさないといけないらしく・・・?



五葉 凛汰(ごよう りんた)♂

19歳の大学2年生。
浅喜 現に助けられたことがきっかけで交友関係?を持つように。
オカルトなど信じないステレオタイプな人間。ぶっちゃけ性格悪。
いつか浅喜の持つ力のネタを暴こうと今日も傍らに立つ。



五葉 凜華(ごよう りんか)♀

17歳の高校2年生。凛汰の妹。現の持つ力に救われた経験がある。
それ以来、同じ古アパートに住む現の世話を(兄弟で)見るようになる。
性格は活発で、正に竹を割ったような女性。両親が海外赴任で留守のため、
世話焼きスキル(笑)が日々上昇中。なお、色恋沙汰には疎い模様。



西園寺 飛鳥(さいおんじ あすか)♀

17歳の高校2年生。凛汰の妹である凜華のクラスメイト。大人しい良い子。
裕福な家の生れで、品行方正を地で行く現代では珍しいタイプのお嬢様。
周囲の人間からも人気があり、父親もその将来を期待しているらしい。
どうやら最近、お嬢様には悩み事ができたようで・・・?


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【Scene∞: アナタとユメの物語 】


浅喜N「かつて、かの有名なジークムント・フロイトは言った。
     <夢は現実の投影であり、現実は夢の投影である>と」


(古城の内部、大広間で対峙する勇者と魔王。)


勇者「……魔王めっ! お姫様を解放しなさいっ!」


魔王「……ふははっ! それは命令か、勇者よ。
    余は混沌を統べる魔界の王ぞ……頭が高い! 跪け!!」


勇者「う、ぐっ……なんて負の圧力っ! 動けないっ!」


浅喜N「かつて、フロイトは語った。
    <夢の解釈は、無意識の活動を熟知する王道である>と」


魔王「……滑稽だな。その程度の力で、余の混沌を抑え込もうなどと」


勇者「うっ……あぁ……!!(苦しむ)」


魔王「余につき従え。さすれば命だけは助けてやろう」


勇者「……断りっ……ますっ!!!」


魔王「こやつ、余の束縛を力ずくで解こうと言うのか……?
   ふっ、あっはっはっは! 良かろう! 抗って見せよ! 抗えれば、だがなっ!!」


勇者「貴方なんかに……屈してたまるものですかぁーっ……!」


魔王「受けて立とうぞ……勇者ぁあああああああ!!」


勇者「うぁあああああああああ!!」


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【Scene1: 夢をみたあとで】


(目覚まし時計のけたたましい音が部屋に鳴り響く。)
(ベットの上でゆっくりと上半身を起こし、伸びをする飛鳥。)


飛鳥「うーんっ……今日も魔王に勝てなかったなぁ」


(ベッドから降りる飛鳥。時計を確認する。)


飛鳥「大変っ、もうこんな時間っ!? 待ち合わせの時間に遅れちゃうっ!」


浅喜N「―――――そう、これは……アナタとユメの物語」


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【タイトルコール】


浅喜「あさきゆめみし」


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【Scene2: とある兄妹と<夢見師>の朝 】


凛汰「うー……むにゃむにゃ……」


凜華「おらーにいちゃーんっ!! 起ーきーろーっ!! 朝だぞーっ!!」


凛汰「ふあぁ……んだよ……いい夢見てたのに。
   (時計を見る)……まだ7時半じゃん。大学昼からなんだけど?」


凜華「早起きは三文の得って言うでしょー?」


凛汰「じゃあ俺は、その三文で睡眠時間を買うぜ……」


凜華「生憎だけど、時間はそんなに安くないし品切れだよ。
   朝ごはん作っちゃうからさ、浅喜さん起こしてきてよ!」


凛汰「なんで毎朝毎朝、隣人の世話を焼かなきゃならん」


凜華「私たちだってお世話になってるんだから当たり前でしょ! ほらっ行った行った!!」


凛汰「はぁ……ったく(ため息)」


(凛汰、ドアを開け隣の部屋の呼び鈴を鳴らそうとするが留まる。)


凛汰「……おーい、インチキ超能力者ー。朝だぞー。
   起きろー。寝ててもいいぞー。永眠しろー……いないのか?」


(反応がないので、今度こそ呼び鈴を鳴らそうとする。)
(すると、背後からいきなり浅喜が現れた。)


浅喜「おやぁ? 凛汰くん。私の部屋に何か御用で?」


凛汰「っ……いきなり背後に立つのを止めろ。死人が出るぞ」


浅喜「そんなぁ、どっかのスナイパーみたいなこと言わないでくださいよ。
   まったく凛汰くんは、朝から血の気が多いなぁ。低血圧とは無縁そうですね」


凛汰「誰のせいで血圧上がってると思ってんだよ。このイカレポンチが」


浅喜「目上の人間にイカレポンチはないでしょう。それで? なにか私に用があったのでは?」


凛汰「ふん。凜華にお前を起こすよう頼まれただけだ。起きてるなら用はない」


浅喜「そうでしたか。凜華さんにありがとうと伝えてください」


凛汰「自分で伝えろよ。あいつ、もうすぐ学校だから……って、いないし!!」


(部屋に戻る凛汰。)
(部屋では朝ごはんを用意し、支度を終えた凜華。)


凜華「あ、にーひゃん! 朝ごふぁんできへるよ!
   わたふぃ先に出るふぁら!(パンを加えて喋る)」


凛汰「とりあえず食ってから喋れよ。何言ってるか全然分からん」


凜華「(パンを飲み込む)……ご飯食べてね! 先出るから!」


凛汰「おう。早めに帰れよ。俺の飯のためにな」
   

凜華「たまには自分で作れー!(フェードアウト)」


凛汰「……朝からよくあれだけ走れるな。我が妹ながら、元気な奴だ」


(再び食卓に視線を落とす凛汰。)


凛汰「ん……飯がもう1人分? これってまさか……」


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【Scene3: 友達 】


凜華「……うーん。飛鳥っち遅いなぁ。
   遅刻するような子じゃないんだけど。なんかあったのかな」
  

浅喜「人を待っている時間というのは、どうも落ち着かないですよねぇ」


凜華「え……?」
   

浅喜「あ、それと。モーニングコールありがとうございました」
  

凜華「うわぁっ! あ、浅喜さん!? どっから湧いて出たの!?」
  

浅喜「そんな人をゴキブリみたいに……先ほどから後ろにいましたよ?」


凜華「嘘……全然気付かなかった」


浅喜「気配を消していましたからねぇ」


凜華「いやなんで消す必要が……というか、こんなとこで何してるの?」
  

浅喜「いえねぇ、ちょっと散歩ですよ。
   私もそろそろ歳ですから。今のうちに体を動かしておかないと」
  

凜華「歳って、浅喜さんまだ25でしょ?」


浅喜「つまり人生の4分の1が終了した人間です」
  

凜華「朝から沈むようなこと言わないでよ。てか100歳まで生きるの前提なんだ」
  

(飛鳥が走ってくる。)
  

飛鳥「はぁっ……はぁっ、り、凜華さんっ……遅れてっ……ごめんなさいっ!」
 

凜華「お、飛鳥っちおはようっ! 全然平気だよ。
  (時計確認)まだ遅刻するような時間じゃないし」
  

飛鳥「でも……凜華さんとの約束を、破ってしまってっ……」
  

凜華「そんなの誰にでもあるって!
   気にしない気にしない! ホント飛鳥っちは真面目だなぁ! このこのっ」
  

飛鳥「うー……ごめんね」
  

浅喜「あの、凜華さん。この方は?」
  

凜華「あぁ、浅喜さんは会うの初めてだっけ? では紹介してあげよう。
   私の自慢のお友達、お嬢様系美少女の西園寺 飛鳥ちゃんでーす!」


飛鳥「ちょ、ちょっと……凜華さん……」
  

浅喜「あぁ、そうですか。凜華さんの御学友で。初めまして。私は浅喜 現。
   凜華さんとは、いわゆるお隣さんです。どうぞよろしく(握手を求める)」


飛鳥「これはご丁寧に……(握手に応じる)
   西園寺 飛鳥と申します。こちらこそよろしくお願いします」


(飛鳥の手を握りながら、眉をひそめる浅喜。)


浅喜「……ふむ?」


凜華「じゃ、行ってきます! あんまりにーちゃんイジめないでね!」


浅喜「ちょっと待って下さい」


凜華「えっ……? どしたの?」


浅喜「西園寺さん。1つだけ質問を、よろしいですか?」
  

飛鳥「え? あ、はい……」


浅喜「今アナタが、一番大切にしているモノはなんですか?」
  

凜華「ちょっと浅喜さん! 私たち急いでるんだから――――」
  

飛鳥「<友達>、ですねっ! ……さぁ、急がないと! 凜華さんっ!」
  

凜華「へ?(照れ) あ、うんっ……って、待ってよー飛鳥っちー!!」


(走り去っていく2人を訝しげに見送りながら、ひとりごちる浅喜)


浅喜「ふーん……<友達>、ですかぁ」


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【Scene4: 犬猿の仲 】


(アパートの前をイライラしながら歩きまわる凛汰。)


凛汰「あのノータリンのインチキ超能力者め。何処行きやがったー!」


浅喜「なななんと! ノータリンのインチキ超能力者が近くにいるのですか!?
   最近はなにかと物騒ですし……今のうちに、警察を呼んだ方がいいのでは?」


凛汰「お前のことだバーカっ!」


浅喜「馬鹿とは失礼な。それに、私の力は決してインチキじゃありません。
   凛汰くんだって一度体験したじゃないですかぁ。もう忘れちゃいました?」
  

凛汰「あんときはっ……偶然だろ」
  

浅喜「偶然、ねぇ……まぁ頭の固い凛汰くんが言うなら、そうなんでしょうきっと」
  

凛汰「……インチキに決まってる。
   <人の夢の中に入れる>なんて、絶対にあり得ない。
   あんとき凜華が助かったのは……そう、俺の愛の力だ」
  

浅喜「ぶふっー! 愛の力ですか!? そっちの方が何倍もインチキ臭いですよ?」
  

凛汰「黙れっ! もういいや。学校行く前に無駄な体力使いたくないし。
 
   ……凜華がお前の分の朝飯も作ったみたいだから、
   さっさと食ってくれ。片づけないと俺も出られないんだよ」
  

浅喜「おやおや、それで待っていてくれたのですか?
   それは悪いことをしましたぁ。ありがたく頂きましょう。

あ、そうだ。では朝食のお礼に、と言ってはなんですが。
   ……学校が終わった後、少しだけ私に付き合いませんか?」
  

凛汰「お礼なってねーよ。罰ゲームだろそれ」
  

浅喜「まぁまぁ、そうおっしゃらずに。実は先ほど、とある発見をしまして」
 

凛汰「もしかして<夢>絡みか? まさかまた凜華がっ……」


浅喜「いえいえ。凜華さんの<中>にある問題は、すでに解決していますよ。
   安心してください。ただ今回も、凜華さんは無関係という訳ではなさそうなので」


凛汰「……どういうことだ?」


浅喜「まぁ、凛汰くんも学校の準備があるでしょうから。
   詳細はメールにしましょう。授業が終わったら連絡を下さい」


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【Scene5:揺れる心 】


(凜華の通う高校。昼休み。授業終わりで教室内は賑やか。)


凜華「はぁ……やっとお昼休みだぁ。お腹すいたー」


飛鳥「凜華さんは今日も手作りのお弁当ですか?」


凜華「そだよー。にーちゃんの分もまとめて作ってるんだ」


飛鳥「へぇ……ちょっと羨ましいな」


凜華「んー?……あぁ、そっか。飛鳥っちは毎日勝手に用意されちゃうから、
   気分で中身変えれないもんね。うんうん確かに。それは手作りの強みかな」


飛鳥「あ、いえ……そうですね。あははっ」


凜華「そうだ、飛鳥っち。今日の放課後空いてる?」


飛鳥「え、今日ですか?」


凜華「うん。どっか遊びに行こうよ! 久しぶりにさ」


飛鳥「で、でも……お兄さんのお食事はいいの?
   最近は、寄り道せずに帰っていましたけど……」


凜華「いーのいーの! 今日は大学行く日だから、たぶん帰ってくるの遅いし。
   ってゆーか、にーちゃんはもう少し私のいる<ありがたみ>を知るべきなんだよ。
   家事も全然手伝わないしさ。俺の飯のために早く帰ってこーいとか言うんだよ?」


飛鳥「それは何と言うか、酷いね……」


凜華「でしょー? だから今日くらい羽目外しても、罰は当たらないって」


飛鳥「で、でも私……今日は……」


凜華「あれ? もしかして何か用事あった?」


飛鳥「いえ、あの、そうではないというか、えっと……」


凜華「んー。そっかぁ、じゃあまた今度に……」


飛鳥「い、いえっ! (辛そうな笑顔で)
   ……やっぱり行きましょう! せっかくのお誘いですもの!」


凜華「え? 大丈夫なの?」


飛鳥「大丈夫です! へっちゃらです!」


凜華「そっか……じゃあいこ!」


飛鳥「はいっ!」


(窓を外を見ながら、不安げな顔をする飛鳥。)


飛鳥「私も、今日ぐらいは……いいですよね」


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【Scene6: 合流 】 


(駅のホーム。缶コーヒを飲みながら浅喜を待つ凛汰。)
(携帯に送られてきたメールの文面を確認している。)


凛汰「……西園寺 飛鳥、か(携帯を操作)」


浅喜『――――凜華さんのお友達の<西園寺 飛鳥>さん。ご存じでしょう?
   恐らく……いえ、私の中では、すでに確信に近いのですけれど。
   心に<なにか>を抱えています。そしてそれは、近いうちに<爆発>する。
   両親と離れた凜華さんが、寂しさのあまり倒れてしまったあの時のように。
   放っておけば、最悪の場合、心に重大な後遺症を残すことになりかねない。
   そこは凛汰くんも知っているとおりです。駅のホームで待ち合わせしましょう。
   私の見立てが正しければ、凛汰くんの力が必ず必要になる。それでは後ほど』


凛汰「……メールくらい簡潔に書けないのか。あやふやな言葉並べやがって」


(周囲を見渡す。下校途中の学生が多い。)


凛汰「そんな悩みを抱えてそうな子には見えなかったけどな。超金持ちだし」


(凛汰の背後に浅喜が現れる。)


浅喜「お金持ちな家柄であるからこそ、何かと不自由もあるのではぁ?」


凛汰「(ビク)っ……もう突っ込むのも面倒になってきたし。一発殴っとくか?」


浅喜「暴力はいけませんよぉ、凛汰くん。これは癖のようなものなのです」


凛汰「背後を取るのが癖って、忍者かお前は……で、どうするんだよ。
   メールの文面を見るに、西園寺 飛鳥と接触するんだろうけど、
   夢に入り込むには西園寺が寝てるときじゃないとダメなんだろ?」


浅喜「えぇ、そうですね」


凛汰「どうすんだよ」


浅喜「うーん……まぁ、とりあえず会いに行きましょうか?」


凛汰「いや会いに行くったって、西園寺がどこにいるのか知ってんのかよ?」


浅喜「いいえ、知りませんよぉ」


凛汰「はぁ?」


浅喜「なので、これから探すんです」


凛汰「……おいまさか。俺の力が必要になるってそういうことかぁ!?」


浅喜「<それも含め>ですかねぇ。まぁでも、たぶんすぐ見つかりますよ。
   心に問題を抱えた人間の行動パターンは、案外限られているものですから」



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【 Scene7: 悩み 】


(ゲームセンター。凜華はストレス発散と言わんばかりにハッチャケている。)
(その横で時計と携帯を交互に気にしながら、不安げな顔を浮かべている飛鳥。)


凜華「いくぞっ……にーちゃんっ!!(拳を強く握る)
   うおらぁああああー! ダイナマイトパーンチっ!!」


(メキャメキャと拳が食い込む音の後、パンチングマシンの計測機が140kgを示す。)


凜華「……どうだっ!!」


機械「こんぐらっちゅれーしょーーんっ!!」


凜華「やったー! デイリーランキング1位!♪」


飛鳥「す、すごいっ!140kgですって」


凜華「にーちゃんへの思いをぶつけてみたっ!(ガッツポーズ)」


飛鳥「<重かった>ってことなんでしょうか……あはは」


凜華「ふぃ~すっきりした! 飛鳥っちもやってみれば?」


飛鳥「え、わ、私ですかっ?」


凜華「誰かいないの? 殴りたいやつとかさ」


飛鳥「そ、そんな……いませんよ」


凜華「ホントぉ? 目が泳いでるけどぉ~?」


飛鳥「ほ、ほんとですからぁ! もう、からかわないでくださいっ!」


凜華「はぁ……飛鳥っちは真面目すぎるよー。
   こういうときくらい、ハッチャケても良いと思うんだけどなぁ」


飛鳥「……ごめんなさい」


凜華「別に謝ることじゃないけどさ。無理はしてほしくないなって言うか」


飛鳥「そ、そんなっ! 私、無理してるように見えますか……?」


凜華「見えるねー。うん……<何かを隠すこと>に必死、って感じ」


飛鳥「……っ!(咄嗟に視線をそらす)」


凜華「私は友達として、飛鳥っちが自分から話してくれるまでは聞かないつもりだけど。
   もしもこのまま、自分の中に<押し込めよう>って魂胆なら、見過ごせないなぁ」


飛鳥「凜華さん……」


凜華「悩みがあるなら聞かせてよ。力になれるかは分からないけどさ」


飛鳥「……」


凜華「……」


飛鳥「近頃、変な<夢>を見るようになったんです」


凜華「変な夢……? 夢ってあれだよね。寝てるときに見るやつ?」


飛鳥「はい。同じ夢を何度も、繰り返し……」


凜華「どんな夢なの?」


飛鳥「何故か世界を救う勇者になっていて、魔王に囚われた姫を救い出そうと戦うんです。
   魔王の力に倒れそうになりながらも、私は決死の思いで攻撃を仕掛けるのですが、
   それでも魔王に剣の切っ先は届かず……返り討ちにされる。大体このような夢です」


凜華「ふーん。なんか話だけ聞くと、ゲームみたいで面白そうだね」


飛鳥「そうなんです。実際面白いんです。勇者になっているときの私はすごく強くて。
   普段できないようなことも、言えないようなことも、堂々とできるから……」


凜華「その楽しい夢が、飛鳥っちの悩みとどう繋がるの?」


飛鳥「それが……丁度その夢を見るようになってから、体調が崩れ出したんです。
   どれだけ寝ても疲れが取れなかったり、日中なのに強い睡魔に襲われたり。
   朝も起きれなくなったりで……私も良くわかっていないんですけど。
   <夢を見るために、身体が眠りたがっている>ような。そんな感覚なんです」


凜華「今朝、待ち合わせに遅れたのも、それが原因ってことか……」


飛鳥「でもまだ、それだけなら……(やや暗い表情になる)
   ここまで悩む必要もなかったんですけど……私、気づいちゃったんです」


凜華「気づいたって、何に……?」


飛鳥「昨夜、父が珍しく早めに帰って来て、一緒に食事をしようって言ってくれたんです。
   ホントに久しぶりだったから、私も嬉しかった<はず>、なんですけど……」


凜華「けど……?」


飛鳥「何故か<断ります!>って言っちゃったんです。夢の中の私が魔王に歯向かうように」


凜華「つまり、夢の中の飛鳥っち……勇者が<現実に現れ始めてる>ってこと?」


飛鳥「実は今日も、習い事があったんですけど……
   悪いとは思いつつ、生まれて初めてサボっちゃいました」


凜華「えぇっ!?」


飛鳥「私っ……おかしいんですっ! (頭を抱える)
   どんどん歯止めが利かなくなって……自分が、自分じゃないみたいでっ!」
   

凜華「あ、飛鳥っち……落ち着いてっ!」


飛鳥「もう、もうっ……私、元に戻れない、のかもっ……(ふらふら)」


凜華「ちょっ、飛鳥っち!? どうしたの……!?」


飛鳥「はぁっ……はぁっ……眠い、んですっ……瞼が、重くてっ―――(倒れる)」


凜華「飛鳥っち……? しっかりして! 飛鳥っちー!!」


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【 Scene8: 夢見の力 】


浅喜「いやぁ……これは、一足遅かった感じですかねぇ」


凛汰「うわっ! 西園寺が、ぶっ倒れてるじゃねーかっ……おい凜華っ! 何があった!?」


凜華「にーちゃん、浅喜さん……なんでここにいるの……?」


凛汰「それはいいから。何があったか話せ」


凜華「あ、遊んでる間、ずっと飛鳥っちの表情が暗くて……
   私、何かあったのかと思って、話聞いてたら、急に眠いって……」


浅喜「ナルコレプシー……典型的なストレス性睡眠発作ですね」


凛汰「とりあえず救急車だ。凜華、西園寺を椅子に寝かせてやれ」


凜華「う、うんっ……」


浅喜「いえ、救急車は必要ありません。もう病院でどうこうなる次元を超えています」


凛汰「そこまで酷いのか……? 普通に寝てるようにしか見えないが」


浅喜「凜華さん……西園寺さんは、夢を見るのが楽しいと言っていませんでしたか?」


凜華「近いことは言ってた。普段できないことができるからって……」


浅喜「やはり」


凛汰「どういうことだ?」


浅喜「……我々の業界では、<入れ替わり>と呼ばれている、かなり珍しい症状です。
   夢世界への依存が強すぎて、次第に現実との境が曖昧になり、二度と戻れなくなる」


凛汰「このまま、一生目覚めないってことかよ……?」


浅喜「そうなるかもしれません」


凜華「浅喜さん、お願い……飛鳥っちを、助けてあげてよ」


浅喜「えぇ、もちろんですよ。私たちはそのために来たんです。それに……
   美味しい朝食を頂いたお礼を、まだ凜華さんにはしてなかったですから」


凛汰「……ここで始めんのか?」


浅喜「えぇ、ですがその前に。凛汰くんには1つ、確認をしておかなければいけない」


凛汰「なんだよ……?」


浅喜「西園寺さんを救うには……
   凜華さんも一緒に、<夢見>を行う必要があるということです」


凛汰「な、何ぃっ……!?」


浅喜「前にも一度話しましたよね? 夢見の力は、相手の脳波と自分の脳波を、
   限りなく同調させることで、見ている夢に侵入・干渉する催眠術の一種。
   下手をすれば、自分も相手の<夢>に飲み込まれる危険性があると……」


凛汰「あぁ。だからそうならないように、
   相手の<大切にしているモノ>を盾にする、とか言ってたっけ?」


浅喜「その通りです」


凛汰「西園寺の大切なモノって……まさか、それが凜華だっていうのか?」


浅喜「えぇ。厳密に言えば、<友達>だと、西園寺さんは言っていました」


凛汰「……(困惑した表情)」


凜華「……2人が何を言ってるのか、いまいち分からないけど……
   私にできることがあるならするよ! 協力させてよ、にーちゃん!」


凛汰「(西園寺を見つめながら)……ダメだ」


凜華「なんでよっ!」


凛汰「友達なら、凜華の他にもいるだろ……
   今から連れてくればいい。凜華がそのリスクを背負う必要はないはずだ」


浅喜「補足しておきますが……西園寺さんに残された時間は、
   多く見積もっても30分といったところです。早めの決断をお勧めしますよ」


凛汰「だって……死ぬかもしれないんだろっ!?」


凜華「それでもいいよっ!」


凛汰「……お前」


凜華「……飛鳥っちはさ、いっつもニコニコしてるけど、
   たまに凄く辛そうな顔するの。私、気づいてたのに、一度も力になれなかった。
   もう見て見ぬふりは嫌なの! 飛鳥っちは、友達だもん! 放っておけないよ!」


凛汰「……ちっ、震えた足で言われても説得力ないぜ」


凜華「に、にーちゃんが何と言おうと、私はやるよっ! ……お願い、浅喜さん!」


浅喜「……凛汰くんは、どうします?」


凛汰「……どうせ行くしかないんだろが。凜華の意識を繋ぎとめる
   楔(くさび)が必要なはずだ。それが俺を連れてきた本当の理由なんだろ」


浅喜「御明察です。夢世界への執着が微塵もない、リアリストな凛汰くんだからこそ」


凜華「……にーちゃん(すがるような表情)」


凛汰「くそっ、帰ったら……とびっきり美味い飯作れよな」


凜華「……うん。任せてよ」


浅喜「決まりですね? では心の準備ができたら、私の肩に手を乗せてください。
   
   ……3.2.1のカウントの後、西園寺さんの意識へと侵入します。
   若干視界が揺れますが、くれぐれも取り乱さないよう気を付けてください」


凛汰「仕方ない……柄じゃないが、いっちょ人助けするか(肩に手を乗せる)」


凜華「……飛鳥っち、今助けに行くから……待っててねっ!(肩に手を乗せる)」


浅喜「それでは、いきますよ。3……2……1……!」


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【 Scene9: 夢の世界へ 】


凛汰「……う、ぐっ……頭が、グラグラする……」


(凛汰、顔を上げて周囲を確認する。)


凛汰「ここが、西園寺の夢の中……? こりゃ随分と広い部屋だな。城、か……?」


(凛汰、浅喜と凜華がそばにいないことに気づき慌てる。)


凛汰「そういや、凜華と浅喜は……いない!?」


(広間にある巨大な扉が、音を立てて開かれる。)


飛鳥「……やっと、辿り着いた。貴方が姫をさらった魔王ですか……?」


凛汰「さ、西園寺……なのか……?」


飛鳥「……魔王めっ! お姫様を解放しなさいっ!!」


(凛汰、自分の姿が魔王に変わっていることに気づく。)


凛汰「はぁ? ま、魔王ってまさか……俺かよぉっ……!?」



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