穴吹家の日常 | シュンタスの台本置き場 兼 日記帳

シュンタスの台本置き場 兼 日記帳

自分の書いた声劇用台本を掲載していきます。
二次利用は許可なしでOKです(コメント・メッセージ等で感想など貰えるとすごく嬉しいです!)・・・たまに日記帳に化けます。




「穴吹家の日常」 著:シュンタス 



【比率】

♂:2 ♀:2



【役表】

麻緒 ♀:
勇生 ♂:
芙羽 ♀:
晃良 ♂:



【登場人物】

穴吹 麻緒(あなぶき まお)

大学1年生。18歳。12月9日。血液型B。穴吹家の長女。おバカ。
最年長だが一番落ち着きがない。家事全般が不得意で1人では料理も作れない。
弟の勇生におんぶだっこ状態。芙羽には姉らしく振舞おうと努力しているが、
妹の方が頭がよくしっかりしているため、何かと良いように利用されている。
驚異的なポジティブシンキングの持ち主で、へこたれるという言葉を知らない。
穴吹家のトラブルメーカー。しかし憎めない性格から、兄弟にも愛されている。



穴吹 勇生(あなぶき ゆう)

高校2年生。16歳。誕生日8月23日。血液型A。穴吹家の長男。
兄弟の中では比較的まともで、馬鹿な姉と妹に突っ込みを入れるのがお仕事。
両親が仕事で海外にいるため、しかたなく家事全般を引き受けている。
料理の腕はなかなかのもの。麻緒に対してはより厳しく当たるが、
それは姉の将来を思っての優しさである。芙羽は完全に子供扱い。
嫌そうな顔をしつつ、わがままを聞いてくれる勇生を、姉、妹ともに慕っている。



穴吹 芙羽(あなぶき ふう)

中学1年生。13歳。誕生日5月14日。血液型AB。穴吹家の次女。
末っ子ということもあり、姉、兄から可愛がられる。立場を利用する術を、
13歳にして心得ており、その狡猾さはもはや年相応とは言えないレベル。
良く嘘をつくので勇生からは二枚舌などと呼ばれるが、実際のところは、
嘘の中に本音を隠すタイプであり、これは芙羽なりの照れ隠しであると言える。
歳の離れた末っ子なので、2人から無償の寵愛を受ける。姉と兄が大好き。


梅ヶ枝 晃良(うめがや あきら)

高校2年生。17歳。誕生日4月28日。血液型O。今回の被害者。
勇生の同級生。成績優秀で、ちょっとやそっとじゃ動揺しない精神力の持ち主。
マイペースとも言う。初めて穴吹家を訪れるが、姉妹はちょっとした有名人で、
その噂は耳にしている(主に悪い噂)。一人っ子であるため仲のいい兄弟に、
強い憧れを抱く。勇生とは高校1年生からの付き合いだが、馬が合うらしく、
昔からの親友のように、何事も話せる間柄になっている。シリアスにボケる。



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【 Scene1: お腹が空いて力が出ない~ 】


(勇生、帰宅。)


勇生「……ただいまぁ」


(リビングから、麻緒の騒がしい声が聞こえてくる。)


麻緒「……はっ!!
      こ、この声はっ……弟っ!? (息を吸い込んで)……大変だぁー!!」


勇生「(靴を脱ぎながら)……はぁ、またか」


麻緒「大変だっ、大変なんだぁー!!」


(抱きつこうとする麻緒を足裏で食い止める勇生。)


勇生「帰宅早々うっさいんだよ。この馬鹿姉」


麻緒「あっ、おかえり弟! いやそんなことより、大変なんだよっ!」


勇生「一応聞いてやるけど、何が?」


麻緒「お腹が空いたんだ!」


勇生「あっそ、良かったな」


麻緒「良くないって! 全然良くないよ!
    お腹が空いて力が出ないよ! というか今にも倒れそうだよ!?」


勇生「安心しろ。骨くらいは拾ってやるから」


麻緒「ほら見てみなさい。この弱った姉の姿をっ……くはぁ!(床に倒れる)」


勇生「はははっ……ざまぁ」


麻緒「いいの……? このまま死んじゃったら私、食べ物を求めて彷徨う、
       <妖怪 摘まみ食い>になって、町中を徘徊することになるんだよ?」


勇生「はぁ?」


麻緒「ご近所さんの間では噂の的だよ……。
  
   <最近ねぇ……穴吹さん家のお姉ちゃんが、
    お台所に現れて摘まみ食いするのよぉ。
    きっと、ひもじい思いをして亡くなったのねぇ>。

   そしてみんな口を揃えて言うの。
   
   <弟さんが、お姉ちゃんに、
    もっと早く食べ物を与えてあげていれば……およょ>
  
   どう? それでも、この不憫な姉を助けようとは思わないのかな?」


勇生「全然」


麻緒「この冷酷サディストめっ! それでも人の子、いやさ弟かっ!!」


勇生「誰が冷酷サディストだ!
    大学生にもなって、飯も自分で作れない麻緒が悪いんだろ」


麻緒「グサッ……!!」


勇生「てか今時どうなんだ? 料理できない女って。
    あ……もしかして麻緒、女子力低いんじゃねぇの?」


麻緒「グサグサァッ……!!」


勇生「そういえば、家事も一切手伝わないよなぁ……(真剣な表情で)
    なぁ麻緒、ちゃんとお嫁に行けるのか? 弟としてはそっちのほうが心配だ」


麻緒「もう止めてっ……姉のライフはっ……ゼロよっ……!!」


勇生「……っていうか、そんなに腹減ってるなら、
    芙羽に頼めば良かったじゃん。もう帰ってきてるだろ?」


麻緒「そりゃぁ、いの一番に頼んだよぉ……?
    でも芙羽、なんだか忙しいみたいで……(やや涙目)」


(回想。)


麻緒「可っ愛い妹ぉー! 私にご飯を作ってくりゃさんせ♪」


芙羽「あ……ごめん、麻緒姉ちゃん。
    ウチこれから、パオク星人と交信しなきゃいけないんだよ」


麻緒「パ、パオクっ……星人っ……!?」


芙羽「地球の命運が掛かった重要な会議だから……
    いくら大好きな麻緒姉ちゃんの頼みでも、地球の未来には代えられないよ」


麻緒「あ、あのっ、芙羽っ……?」


芙羽「(遮って)そういうことだから、
    ウチが出てくるまで、部屋には来ないでね。パオク星人は人見知りなの」


麻緒「あっ……うん……パオク星人によろしく……地球を、守ってねっ!!」


(回想終了。)


麻緒「ってな具合で……」


勇生「(ボソッ)芙羽のやつ……上手く煙(けむ)に巻いたな」


麻緒「え……?(涙目)」


勇生「いや、なんでもない……」


麻緒「うわぁん……お腹空いたよぉ……もう動けないよ弟ぉ……!!」


勇生「わかったわかったっ……
    作ればいいんだろ。いいから座って大人しくしてろ」


麻緒「(一変して表情が明るくなる) えっ!? ホントにっ!?
    いやぁかたじけない……やっぱり持つべきものは、家庭的な弟だね!」


勇生「そうやって甘えたツケが、いつか自分に返ってくるぞ」


麻緒「なんのなんの。弟の料理スキルが上がっていくのは、姉として実に誇らしい。
    その代償に払うツケなどっ……微々たる対価よ。そうっ! 私は姉として……」


勇生「(遮って)うっさい。もう黙ってろ、馬鹿姉」


麻緒「イエッサー、シェフ」


勇生「シェフじゃねぇ」


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【 Scene2: お世辞じゃありませんからぁ 】


(食卓においしそうな料理が並べられていく。)


麻緒「良い匂い……もう我慢できないっ……早くぅ……」


勇生「気色悪い声を出すな……ほらよ。さっさと食え」


麻緒「うはぁ……おいしそー! いっただっきまーす! あむっ! もぐもぐ……」


勇生「あ……そうだ。明日、友達が家に来るから」


麻緒「(食べながら) ……ほほはひ?(訳:友達?)」


勇生「期末テストが近いから、一緒に勉強するんだよ。
    だからくれぐれも騒いだりするなよ……わかったな」


麻緒「(食べながら)むぐ、わはっはー!(訳:うん、わかったー!)」


勇生「最初と最後にサーをつけろ、麻緒2等兵」


麻緒「……サー、了解、サー!!(敬礼)」


勇生「よろしい……んじゃ、食い終わったら食器洗っとけよな」


麻緒「んー!(了解、の意)」


(勇生、リビングを出て階段を上がっていく。)


勇生「はぁ……全く世話のかかる姉だ。
    これじゃどっちが年上なのか、わかりゃしない」


(2階、自分の部屋へ向かう途中にある芙羽の部屋の前で、足を止める。)


勇生「さてと……おーい、芙羽。いるんだろ?」


(返事がない。ただの屍以下略)


勇生「……兄に居留守を使うとは、いい度胸だ妹。

    おーい、芙羽。お前がベットの下に隠してる<アレ>……
    麻緒に見せちゃうけど、良いのかぁ? あ、返事がないってことは」


(芙羽、勢いよくドアを開けて登場。)


芙羽「はいは~い!! って、うわっ! ウソでしょ……?
    なんでウチの部屋の前に、マツジュン似の超絶イケメンがいるわけ……?
    って!! なんだぁ~親愛なるお兄様じゃありませんか! ささっ、どうぞ中へ」


勇生「お世辞が上手いなぁ、芙羽」


芙羽「いやいや、お世辞だなんてトンデモナイ! この不肖、穴吹 芙羽。
    生まれて此の方お世辞を言ったことがない、というのが唯一の自慢です」


勇生「生涯を費やして、唯一自慢できるのがそれかよ。
    お前、自分のこともう少し見直した方がいいぞ」


芙羽「うんわかった! 勇生兄ちゃんが言うなら見直す!」


勇生「なんだ。今日はやけに従順な妹だな」


芙羽「だってウチ、お兄ちゃん大好きっ子だから」


勇生「……大好き?」


芙羽「っていうか……超好きっ……!?
    大好きとか、そんな稚拙な言葉じゃ足りないくらいの愛が、
    心のダムを決壊させんばかりに溢れてくるのが分かるよ!もぉー大変!!」


勇生「そうかそうか。まぁ、そこまで言わせた兄として、
    妹のささやかな秘密を黙っておいてやるのは、やぶさかじゃない」


芙羽「ああ、なんと慈悲深い……
    この愚妹(ぐまい)、いつ何時も兄さまのことを愛しております」


勇生「それじゃ、冷蔵庫にあるプリン貰っていいか? 愛する兄さまのためだし」


芙羽「まさか食べたのっ!? ……一生恨んでやるっ!!」


勇生「プリン1個で憎しみに変わる愛か。安いな」


芙羽「安い? それは聞き捨てならないよ……
    プリンっていうのはさぁ、勇生兄ちゃん。
    JCにとって、ときに愛を捨てられるほどの価値を持つんだよ」


勇生「要は食い意地はってるだけだろ。あと中学生がJCとか言うな」


芙羽「っていうかぁ、兄のことを愛してる妹なんているわけないじゃん。
    鼻の下を伸ばす兄を見て、ウチは心の中でそう呟くのを抑えられなかった」


勇生「心のダムから溢れてるぞ、二枚舌のモノローグが」


芙羽「でも好きって言うのは本当だよ? さすがに愛してはいないけどさ」


勇生「はいはい。どうせそれもウソなんだろ」


芙羽「むぅ……本当なのに」


勇生「あ、そうだ……明日、友達が家に来るから。それ伝えようと思ったんだ」


芙羽「もしかして彼女?」


勇生「友達だっつってんだろ。男だ男」


芙羽「うそっ……ウチの兄にそんな性癖がっ!?」


勇生「ねぇよ!!
    ……とにかく、来てる間は静かにしとけよ。勉強するんだから」


芙羽「わかったよー。パオク星人と交信でもしとく」


勇生「地球の命運をかけてか?」


芙羽「それが、ウチの使命だからね!(敬礼)」


勇生「……使命もいいけど、たまには麻緒の飯くらい作ってやれよ。
    あいつを野放しにしておいたら、それこそ世界がヤバイ」


芙羽「はーい……善処します」


(芙羽の部屋のドアが閉まる。)


勇生「……絶対やる気ねぇな。あいつ」


(勇生、自分の部屋へ戻る。)
(ベットに横たわり、携帯電話を広げる。)


勇生「晃良にメールしとくか……家族の、了解は、得たぞっと……」


(晃良、自宅で椅子に座りながら携帯電話をチェック。)


晃良「……<手土産持って、4時半に学校まで来い>、ね。
    了解了解……って、手土産?……なに持っていこう……」



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【 Scene3: 舐められっぱなしはいかんぜよ 】


(穴吹家のリビングで、馬鹿な姉<麻緒>と狡猾な妹<芙羽>が話している。)


麻緒「可っ愛い妹よ……この頃、私は思うの。
    勇生の私たちへの態度が、どーも最近気に食わないって」


芙羽「すごいよ麻緒姉ちゃん。
    ウチも今、同じこと言おうと思ってた。麻緒姉ちゃんはエスパーだね」


麻緒「そのエスパーであるところの私が、能力を駆使して掴んだ情報によると、
    その弟の友達なる人物が、もうすぐ我が穴吹家の敷居を跨ぐらしいのよね」


芙羽「何でかわからないけど、それウチも知ってたよ。でも麻緒姉ちゃんすごい」


麻緒「弟は私に言ったわ。騒ぐなと、静かにしていろと……何故だと思う?」


芙羽「ウチたちが<邪魔者>だから?」


麻緒「ウソっ……そんな風に思われてるのかなぁっ!?(涙目)」


芙羽「ううん。たぶん思ってないよ。きっとウチの勘違いだよ。麻緒姉ちゃん」


麻緒「だよねっ! ……きっと、勇生は試してるのよ」


芙羽「……試す?」

 
麻緒「騒ぐな、静かにしていろ……これは裏を返せば、
   <お前らの本気を見せてみろっ!>ってことだと思うの」


芙羽「全然意味が分からないよ。麻緒姉ちゃん」


麻緒「<言われた程度で、じっとしているようなお前らじゃないだろ?
    想像を超える何かをしてみせろヒャッハー!>って言いたいのよ」


芙羽「どういうことだってばよ」


麻緒「つまりこういうことよ……勇生は、私たちを完全に舐めきってる!
   姉として……否、年上の女性としてっ! ……そんな評価を、
   甘んじて受け続けるわけにはいかないの。勇生を見返すのよ、芙羽!」


芙羽「やば、麻緒姉ちゃん超かっこいい。男だったら危うくフォーリンラブだったよ。
    あ……でもウチ、自信ないな。もし失敗して、勇生兄ちゃんに怒られたら……」


麻緒「大丈夫。責任は全部、姉でありエスパーである私が取るわ!」


芙羽「(ケロっと)それで、なにをすればいいの?」


麻緒「ふふっ……私にいい作戦があるの……ごにょごにょ」


芙羽「にひひっ……その作戦、乗ったっ!(キリッ」


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【 Scene4: 不安でたまらないよ。 】


(穴吹家へと歩く勇生と晃良。)


勇生「なぁ晃良……
    もう一度確認しておきたいんだけど、ホントに俺ん家で勉強すんの?」


晃良「え? 勉強しようって言い出したのは勇生じゃないか……YOUじゃないか」


勇生「字面(じづら)でボケるのはよせ。音声にしたとき伝わりづらい」


晃良「僕の記憶では、<テストやばいから、マジで頼む!>
    って、昨日学校で言われた気がしたんだけど。勘違い?」


勇生「いや、それは勘違いじゃない。
    今回のテストはマジでやばいし、お前の力なくしては乗り切れない。
    俺が言いたいのは、え? ホントに今から勉強すんの?ってことじゃなくて、
    ホントに場所は俺ん家でいいのか?ってことだよ。そう言う意味では勘違いだ」


晃良「あぁ……なるほどね。
    僕はてっきり、勉強しようなんて言ったのは単なる口実なんだ、
    バイクを盗んで、行く先も分からぬまま走り出そうぜってことかと」


勇生「非行はまだしも、なんで尾崎ワールドだよ。昭和か」


晃良「勇生の家じゃ、なにか都合悪いの?」


勇生「都合が悪いというか……悪いことが起きそうな予感というか」


晃良「ふーん……とはいえ。僕の家は、勇生出入り禁止だしなぁ」


勇生「えっ……? 俺、出禁なのか!? なんでっ!?」


晃良「いや冗談だけど」


勇生「おまっ、真面目な顔してボケるのやめろ。心臓に悪いだろ!」


晃良「いやでも、あながち冗談じゃないよ。勇生に限った話じゃないけど、
    日曜は人を家に入れるなって言われてるんだ。父さんが寝てるからさ」


勇生「あぁそっか。お前の父さん、めちゃくちゃ働いてるもんな」


晃良「父さんの夢は、建国だからね」


勇生「あぁ、そりゃ休む暇ないわ……って、壮大な夢だなぁっ……」


晃良「勇生のご両親は、海外にいるんだっけ?」


勇生「……あぁ、今は夫婦仲良くインドネシアだ。
     なんか、貿易関係がどうのこうのって言ってたけど……忘れた(寂しい顔)」


晃良「(察して話題を変える)……まぁ、そういうことだから、
     僕の家は無理だよ。かといって、図書館も嫌なんでしょ?」


勇生「わかってる。だから最初に言ったろ? 確認だって……」


晃良「じゃあ、それも済んだし、そろそろ中に入らない?
   家に到着して、もう5分くらい立ち往生してるわけだけど」


勇生「待て、いいのか? 後悔しても知らんぞっ……」


晃良「覚悟は、できてる(キリッ」


勇生「そうか……って、なんの覚悟だ?」


晃良「穴吹家の美人姉妹って言えば、この界隈じゃ有名だからね。
    もちろん<悪い意味>で。ある程度の困難は、想定してきたさ」


勇生「有名になってんじゃねぇよ……あの馬鹿ども」


晃良「ま、そういうわけだから。勇生が気を揉む必要はないってこと」


勇生「……わかった。それじゃ、行くか!」


晃良「RPGで言う、ラストダンジョン前の勇者一行って感じだね」


勇生「あぁ、死ぬときは……一緒だぜっ!(ドアを開ける)」


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【 Scene5: 見せてあげる、私の真の力 】


(勇生、家のドアを開ける。)
(玄関には、和服を着て三つ指立てて出迎える麻緒と芙羽がいた。)


麻緒「お越しやすぅ」


芙羽「やすぅ」


勇生「……なぁお前ら、そんなとこで三つ指ついて、何してるんだ?」


麻緒「お出迎えでやんすぅ」


芙羽「やんすぅ」


勇生M「悪い予感が……的中したっ!」


芙羽「おやまぁ……麻緒姉はん、2人とも面喰ってるよ、どすえ?」


麻緒「ほんまに、そんなところに突っ立ってないで中にお入り、どすえ?」


晃良「あっ……お邪魔します。あのこれ、つまらない物ですが……」


麻緒「あらまぁ、おおきに。頂戴しますぅ」


芙羽「これはこれは……ホントにつまらない物を頂いてしもて」


麻緒「こら芙羽。本当のこと言って、失礼じゃおまへんの。謝り」


芙羽「おっとっと。ウチのお口は、正直者であきまへんなぁ。勘忍にんにん♪」


勇生「……お前らなぁっ! 今日はじっとしてろって言っただろっ!」


麻緒「変なこと言う弟やわぁ……私たち、別に何もしてへんじゃろ?」


芙羽「そうでんがな。お客人を丁重に持て成しただけでごわす」


勇生「もう方言ぐっちゃぐちゃじゃねえかっ!!」


晃良「まぁまぁ勇生、落ち着いて。歓迎して貰ってるんだから」


勇生「歓迎? どう見てもおちょくってるだろ!?」


麻緒「2人とも、これから勉強するんですって?
    偉いわねぇ……あ、勇生、お部屋掃除しておいたからね」


勇生「掃除? 麻緒が……?」


麻緒「あら、お姉ちゃんだって1年に1回くらいは掃除するわよぉ」


勇生「誇らしげに言うな! てかその喋り方止めろ。イライラする……」


芙羽「ささっ、麻緒姉ちゃん……後は若い2人に任せて」


勇生「お見合いかっ!」


麻緒「後でお茶持って行くからね……頑張るのよ(サムアップ)」


勇生「いらーんっ!」


(麻緒と芙羽、リビングの方へ消えていく。)


晃良「……あははっ! 面白い兄弟だね。一人っ子の僕としては羨ましいよ」


勇生「いや、これで終わりなわけがない……絶対なにか仕掛けてくるはずだ。
    そうだ、部屋っ……麻緒に掃除されて、無事なはずがないっ!」


(大急ぎで自分の部屋へ向かう勇生と晃良。)


勇生「あ、れ……?」


晃良「うーん(部屋を見渡す)……特に変わった様子はないけど?」


勇生「(箪笥の埃を確認)……部屋が、綺麗になってる」


晃良「やっぱり。勇生の思いすごしだって。気を使ってくれたんだよ」


勇生「……なのかも、な。ま、いいや。
    何もしてこないってならそれで。勉強始めようぜ」


晃良「何からやる?」


勇生「んー……日本史」


(そのころ、姉妹は……薄暗い芙羽の部屋にいた。)


芙羽「現状報告……麻緒指揮官。
    ターゲットはどうやら、苦手教科である日本史の勉強を始めたようです」


麻緒「ついに動き出したわね……

   芙羽、部屋の様子をモニターへ。
   どんな僅かな変化も、見逃しちゃダメよ」


芙羽「了解。モニター、映します」


(PCをカタカタと打ち始める芙羽。)
(モニターに、勇生の部屋の様子が映し出される。)


麻緒「音声を流して頂戴」


勇生『だから! 遣唐使と遣隋使って、ごっちゃになって分かりづらいんだよ』


晃良『隋も唐も中国の王朝名だから、隋、唐って順番で覚えれば……』


麻緒「ふふっ……見ていなさい、勇生。
    貴方の姉がどれだけ優れているか、教えてあげるっ……!」


芙羽「にひひっ……麻緒姉ちゃん、悪い顔」


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【 Scene6: 気のきいた姉妹だこと 】


勇生「ふぃ~……うん。日本史はなんとかなりそうだ」


晃良「付け焼刃にしては上々じゃないかな。次はどうする?」


勇生「英語かな……あ、でもその前に、少し休憩」


晃良「もう? まだ始めて1時間くらいだよ」


勇生「人間の集中力は、1時間を超えると急激に落ちるって言うだろ?
    疲れたと感じたら素直に休む。これも勉強には大切なことなんだよ」


晃良「まぁ、集中力の限界については諸説あるんだけどね。
    15分って言う説もあれば、2分しかもたないって説もあるし。
    でも、疲れたと感じたら休むっていうのは、体感的に真理だね。そうしようか」


勇生「俺、飲み物取ってくる。晃良は何がいい?」


晃良「なんでも良いよ。強いて言うなら、紅茶とかあると嬉しいかな」


勇生「分かった。それじゃ少し待って……」


芙羽「(遮って)お届け物でーすっ!」


勇生「おわっ……なんだよ芙羽っ!」


芙羽「いやぁ、そろそろ兄ちゃんたちの集中が切れて、
    紅茶でも飲みながら休憩したくなる頃合いかなぁと」


勇生「……まるで今の会話を聞いていたような口ぶりだな」


芙羽「そんなまさか、たまたまじゃない? ボールボール!」


勇生「お前は野球好きの親父か……まぁ、助かったよ。サンキュ」


芙羽「あ、そうそうっ! 紅茶が良いって言ったのは、麻緒姉ちゃんだからね」


勇生「麻緒が……? そうか。よくやったと伝えてくれ」


芙羽「うんっ! それじゃ、晃良さんも勉強頑張ってね~♪」


晃良「ありがとう、芙羽ちゃん」


(芙羽、ドアを閉める。)


晃良「うん……なんか。噂と違って、随分気の利いた良い人たちじゃないか?」


勇生「……うーん。
   いつもは気の利いたって言うより、気の触れたって感じなんだが。
   なんか引っかかるんだよな……(紅茶を一口飲む)……ぬるい?」


(芙羽、部屋に戻る。)


芙羽「……作戦成功だよ。麻緒姉ちゃん」!


麻緒「どう? 喜んでた!?」


芙羽「うん。明らかに不審がってたけど」


麻緒「ふふっ……監視カメラと盗聴器で、欲しがっているものを即座に察知!
   ジャストイン・ジャストタイムでお届けする<弟専用デリバリーシステム>。
   どうやら、無事機能してるみたいね……これで私たちの評価もウナギ昇りよ!」


芙羽「麻緒姉ちゃんはやっぱり天才だね。天才でありエスパーだね」


麻緒「えへへ、もっと褒めてぇ~♪」


芙羽「あ、待ってっ……」


麻緒「あぇ? どしたの?」


芙羽「兄ちゃんたちが、なんか話してるよ」


勇生『……そいや、お前が持ってきたあの紙袋、何が入ってたんだ?』


晃良『あぁ、父さんが京都で買ってきた八つ橋。結構美味しいらしいよ。
   芙羽ちゃんには、つまらない物って言われちゃったけど……あはは』


勇生『あいつは舌もお子ちゃまだからな。洋菓子しか食えんのだ』


芙羽「なにおうっ……!!」


晃良『年相応って言ってあげなよ』


芙羽「そうだそうだっ!!」


麻緒「しっ! ここは堪えるのよ、芙羽っ!」


勇生『……せっかく茶も淹れたし、持ってくるか?』


晃良『茶って言っても、紅茶だよ?』


勇生『たまにはいいじゃん。こういう和洋折衷(わようせっちゅう)もさ』


麻緒「……ターゲットの要求を確認。目標は八つ橋っ、準備にかかれっ!」


芙羽「了解っ!!……準備、できました。いつでも出せますっ!」


麻緒「よし、今度は私が出ようっ……芙羽はここで待機っ!」


芙羽「麻緒司令官……ご武運をっ!」


麻緒「へへっ……任せなさい!」


(勇生、ドアを開けようとする。)


勇生「……んじゃ、ちょっくら行って……」


麻緒「(遮って)お届け物でーっす!」


勇生「うおぁっ……って、今度は麻緒かよ、何しに来た!」


麻緒「いやぁ……なんとなく、本当になんとなくだけど、
   八つ橋が食べたいんじゃないかなぁと思って、持ってきたのっ!」


勇生「(疑いの目)……どういうことだ?」


麻緒「んー? なにが?」


勇生「……いや、なんでもない。
   丁度取りに行こうと思ってたんだ、サンキュ」


麻緒「私、えらい?」


勇生「偉い偉い。良くやったぞ、麻緒」


麻緒「うぇへへ……それじゃ、お勉強頑張ってね~♪」


(麻緒、ドアを閉める。)


晃良「うわぁ、兄弟ってすごいね。なんでも分かっちゃうんだ」


勇生「……うーん(部屋を見渡す)」


晃良「いいなぁ……僕もそんな、以心伝心な兄弟が欲しいよ」


勇生「う"ーん……(頭を抱える)」


晃良「勇生、どうしたの?」


勇生「晃良……ちょっとこっち来い」


(麻緒、芙羽の部屋に帰ってくる。)


麻緒「……麻緒、無事生還しましたっ!」


芙羽「お疲れ様、麻緒姉ちゃん。どうだった?」


麻緒「完、璧っ!」


芙羽「にひひっ……ちょろいね」


麻緒「きっと今頃、私たちのことを褒めちぎっているはず……!」


勇生『……(しーん)』


晃良『……(しーん)』


芙羽「ありゃりゃ……? 褒めるどころか、
    黙々とペンが動いてるよ、麻緒姉ちゃん」


麻緒「どうしてっ……さっきは偉いって言ってくれたのにっ!」


芙羽「もっ、もしかして、勘づかれた……とか?」


麻緒「ま、まさかぁ……そんな素振りは見せなかったよぉ……?」


勇生『いやぁ、それにしても……今日は勉強が捗るなー』


芙羽「あっ……」


勇生『それもこれも……ははっ、いつもは騒がしい癖に……
    今日に限って気遣ってくれる、麻緒と芙羽のお陰かな、うん(寂しい顔)』


晃良『あれ? ……なんか寂しそうだね、勇生』


勇生『……いや、嬉しいんだけどな。
    今まで、しっかりしたあいつらを見たことがなかったから、
    なんつーか……拍子抜けっつーの? 少し、安心したんだよ』


麻緒「勇生……」


晃良『手のかかる子ほど、可愛いっていうもんね。
    世話焼きの勇生としては、張り合いが無くなっちゃうわけだ』


勇生『張り合い、か……そうだな。いつまでも手のかかる兄弟じゃないんだよな。
    あいつらも、いつかお嫁に行って、子供とか育てたりするんだもんなぁ……
    そう思うと、例え今は手が掛かってもさ。そういう時間も大切だって思うよ』


晃良『……そうだね。僕もそう思う』


勇生『……さっ、無駄話はここまで。勉強だ、勉強っ!』


麻緒「……うっ、うあぁっ……弟ぉっ……(涙)」


芙羽「……兄ちゃああぁん(涙)」


麻緒「ひっくっ……芙羽」


芙羽「なぁに……麻緒姉ちゃん」


麻緒「作戦は、中止……それでいいよね?」


芙羽「う"ん……ひっく……映像と音声、切るね」


(PCを使って、監視カメラと盗聴器の電源を落とす芙羽。)


麻緒「……私たち、なにか勘違いしてたみたい。
   勇生は私たちのこと、こんなに大事に思ってくれてたんだね」


芙羽「それなのに、ウチたちは……こんな姑息な真似をして……」


麻緒「そうだ。これからは、もっと甘えよう? 勇生が……寂しがらないように」


芙羽「うんっ……そうだねっ! 麻緒姉ちゃん!」


(部屋のドアがキィ……と不気味な音を立てて開く。)


麻緒「ぎっ……」


芙羽「くぅ……」


勇生「やっぱりなぁ……そういうことか。なーんかおかしいと思ったんだ。
    そりゃわかるよなぁ? 部屋にこんなもん仕掛けて、コソコソ覗いてりゃ」


麻緒「ゆ、勇生……? あの……これはっ、そのっ……」


勇生「なるほど……飲み物はあらかじめ、タイミングを見て淹れておいて、
    取りに行こうとしたら届けるって寸法か。馬鹿にしちゃ良く考えたなぁ」


芙羽「あわっ……あわわわっ……(ガクブル)」


勇生「はぁ……良い話でした、で、済むと思ったか? あ"?」


麻緒「い……今はぁっ、手のかかる兄弟でもぉっ……
    ほらっ! そんな時間も、大切ぅ~じゃないっ?あははっ……」


勇生「済ますわけねぇだろっ……!! この馬鹿どもがーっ!!!」


芙羽「ひぇえええええぇっ……!」


麻緒「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、もうしませんっ、ごめんなさいっ!!」


晃良「……もうやめなよ。勇生」


勇生「……晃良、これは穴吹家の問題だ。いくらお前の頼みでもな、
    さすがに堪忍袋の緒が、ぱっつんぱっつんなんだよっ……!!!!」


晃良「勇生っ!!」


勇生「……っ!?」


晃良「いいじゃないか……監視カメラの一台や二台」


勇生「いや……良くないだろ。常識的に考えて」


晃良「それもこれも、勇生を思ってやったこと。
   ……そうなんでしょ? お姉さん、芙羽ちゃん」


麻緒「うん。喜んでもらおうと……思ってぇ(涙目)」


芙羽「私は……麻緒姉ちゃんに、そそのかされてぇ(涙目)」


晃良「ほら、ね? 2人に悪気はないんだよ。
    大切な兄弟なんでしょ。許してあげようよ……勇生」


勇生「……はぁ」


麻緒「……許してあげよう?」


勇生「お前が言うな、馬鹿姉」


芙羽「大好きだよ、勇生兄ちゃん」


勇生「黙れ、二枚舌め」


晃良「勇生……」


勇生「…………夕飯抜きだ」


麻緒「え……?」


勇生「お前ら、今日の夕飯抜きっ! ……それで、おあいこにしてやる」


晃良「あははっ……だってさ、良かったね。2人と……も?」


麻緒「……良くない」


芙羽「……全然良くないよ、晃良さん」


晃良「え……?」


麻緒「ご飯抜き!? そりゃあんまりだよ! あり得ないよ弟ぉっ!!」


芙羽「そうだそうだっ……乙女の肌には、いつだって栄養が必要なのにぃっ!」


晃良「えぇっ……!?」


麻緒「てか、そんなに怒ることかなぁ!?
    私たちは勇生のお世話をしてあげたのに。むしろ感謝してほしいね!」


芙羽「そうだそうだっ……勇生兄ちゃんの恩知らずー!!」


晃良「なんという逆ギレ……」


勇生「ははっ……あっはっははっはっは!!
    そうだっ、それでこそお前らだ。良かろう、ならば戦争だっー!!」


(勇生、麻緒、芙羽がぎゃーぎゃーと言い争いを続けている。)


晃良「はぁ……なーんだ、僕の取り越し苦労か。
    この兄弟、ただじゃれあってるだけだね。あははっ……アホくさ」


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【 Scene7: 終わり良ければすべて良し的な風潮 】


(午後7時を回った頃、晃良を見送る3兄弟。)


勇生「あの……晃良、すまんかったな」


晃良「え? なんで謝るの?」


勇生「勉強も結局、ほとんど進まなかったし、
    その上、馬鹿みたいな兄弟喧嘩に巻き込んじまって……」


晃良「ううん。すごく楽しかった。
    兄弟っていいなぁって……改めて思ったし。是非また、お呼ばれしたいよ」


勇生「晃良……ホントに良いのか?
    夕飯、一緒に食べいかなくて。腕によりをかけるぞ」


晃良「うん。僕も家族が、家で待ってるからさ」


勇生「……そっか。またいつでも遊びに来いよ。歓迎する」


晃良「あははっ……今度は勇生が三つ指ついてる姿が見られるのかなぁ?」


勇生「それだけはない」


晃良「それは残念。それじゃ、もう行かなきゃ。お邪魔しました」


麻緒「また来ておくんなましぃ……晃良くん」


芙羽「また遊ぼうねー。晃良兄ちゃん」


晃良「うん! あははっ……(ボソッ)晃良兄ちゃんか、いいね」


(晃良の姿が見えなくなる。)


勇生「さてと……馬鹿ども。
    続きやるか? 夕飯が食べたいなら、俺を負かせてみせろ」


芙羽「にひひっ……ウチらを甘く見たら」


麻緒「いかんぜよぉ?」


勇生「へっ……」


勇生・麻緒・芙羽「望むところだーー!!!」





FIN