栄枯盛衰は世の習いながら、旅館業界も時代の趨勢に翻弄されて悲哀こもごも。
「懐(なつかし)の宿」では廃業してしまった宿、リゾート会社に買収されてリニューアルされた宿などの中で、私が特に好きだった宿の在りし日の姿をお届けします。
 
訪問日:2008-02,25,26
 
*当施設は「緑霞山宿 藤井荘」(長野)、「瀬戸内リトリート青凪」(愛媛)などを展開するホテル・旅館再生・運営会社「温故知新」が買収、全面改装の上、「箱根リトリート villa 1/f(ワンバイエフ)」として新たに営業再開されました。
また隣接するリゾートホテル「ウェルテル俵石」も同じく「箱根リトリート Fore」として営業しています。
 
 
 
 
当館は1928年開業の歴史ある宿でしたが、バブル後は経営状態が芳しくなく2012年に廃業、2014年に企業再建投資会社「マイルストーンターンアラウンドマネジメント㈱」に全施設を売却、2016年には旧「ウェルテル俵石」エリアを第1期事業ホテルエリアとして「ネストイン箱根俵石閣」名でリニューアルオープンの開業の運びとなりました。
2019年には社名変更して「箱根リトリートvilla1/f」に、現在に至ります。
 
*以下、2002年2月訪問時の記事を掲載しています。
 
玄関
 
「俵石閣」はたいへん歴史のある宿で、建築家 島田藤吉(千歳座〔後の明治座〕・對龍山荘〔京都 南禅寺〕などを建てた名匠)の私宅を1928年に大森から移設し旅館として開業したのをのをその始とします。
 
宿の印象としては「深山幽玄の地に贅をつくした数寄屋造りの建物が、長い歳月を経ながらひっそりと佇んでいる」といった趣です。
こちらには五回目の宿泊になります。
 
歴史を感じさせる上がり口
 
玄関には火鉢が
 
畳敷きの廊下1
 
談話室
 
今回のお部屋「鶴」は最も奥まった離れで、二間続きの和室には外縁があって、どちらからも大きな池を眼下に俯瞰できるという風雅な立地。
1950年にはこちらのお部屋に今上天皇もお泊りになったということです。
部屋名に因んだの鶴の意匠の彫り物を始めとして、建物のそこかしこに名匠の技が残されています。

雪を残す枯れ木林に囲まれた池には愛らしい鴨が七羽、思い思いに遊んでいるのを見ることができました。
 
鶴の間1
 
鶴の間2
 
鶴の間3
 
部屋から池を望む
 
外縁から池を望む
 
この景色を独り占めに
 
外縁と池
 
愛らしい鴨が
 
内風呂は檜造り、すぐ表には昨年10月に造ったばかりという陶器の露天風呂が真っ白な濁り湯を湛えています。
大涌谷を源泉とするその泉質は 酸性ーナトリウム・カルシウム・マグネシウムー硫酸塩泉(旧名 酸性石膏泉)69.7度、PH2.6。
 
檜造りの内風呂
 
出来たばかりの部屋付き露天風呂
 
部屋名に因んだ鶴の意匠の彫り物
 
床の間の麻の透かし彫り
 
古き良き風情の建物
 
大浴場は古い木造の湯屋に石造りの浴槽、窓からは竹林を望む風趣溢れるもので、大きな窓を開ければ竹林を抜けてくる冷たい風が火照った顔に気持ちよく吹き付けます。
どちらも終夜入浴可能。
特に今回は他に宿泊客が皆無でしたので、貸切状態で大好きな濁り湯を堪能させて頂きました。
 
浴場入り口のホール
 
木造の湯屋
 
大浴場
 
濁り湯から竹林を望む
 
夕食は部屋に順番に運ばれて来ます。
量・質に応じて三段階の献立が選択できるのは年配者には嬉しい配慮です。
 
食前酒(梅酒)・先付け・前菜
 
旅館からサーヴィスの「一の蔵 すず音」(発泡性日本酒)を切子のグラスで
 
先付:帆立貝柱霙和(卸し和え)・味しめじ・クコの実
 
前菜:床伏大船煮(鶏松風)・茄子田楽・炙りからすみ・菜花サーモン・筍土佐煮
 
御椀:尼鯛焼霜・絹ごし豆腐・梅人参・蓮草
 
向付:虎河豚薄造り
 
 
 
 
 
焼物:寒鰤照焼・付合せ:蕗味噌
 
煮物:黒豚角煮・天蕪含ませ・ほうれん草・辛子味噌
 
強肴:虎河豚紙鍋
 
酢物:甘海老サラダ
 
留椀:合わせ味噌仕立てきのこ汁
御飯、香の物(自家製糠漬け)
 
デザート:豆乳豆腐・黒蜜かけ
 
朝の浴場
 
朝食膳
 
島田藤吉の像と業績
 
 
(箱根仙石原温泉「俵石閣」了)