雨の日
その日は 通常と違い、
朝は お客さま先に 直行で 行くことになっていた。
駅からバスで行かないといけない場所、
不便だ。
バスの時間も不正確で 読めない
急ぎ支度をし、 君に見送られて家を出た。
雨がやや強い。
いつもは 早歩きだが
足元が濡れてしまうので
小股で 歩幅を縮め、 その分、少し 急ぎ足で歩いた。
家を出てから 4分ほど
路地と路地を横断する 道路を渡り、少しした時だった
「まって」
それは 小さいけれども しっかりした それでいて 少し 切れかけた声だった。
振り返ると 君だった
「これ」
手にかざしたのは SUICAのカードだった。
玄関上に置き忘れたことを忘れていた。
「今日は これがないと 困るでしょ」
息切れしながら話す君は
見送るときは パジャマだったはずが
服に着替えていた。
しかし 靴は サンダルで
たぶん 足先は 濡れてしまっただろうと思った。
髪も 風呂上りのように 濡れていた。
その姿に 自分は 少し びっくりしてしまい、
ほんとうは ありがとう の言葉を言いたかったに違いないのだが
口から出た言葉は 「あっ ごめん」 だった。
何か 戸惑ってしまい
僕は すぐに 駅への道を 歩き始めた。
歩き始めたものの、
そこから 数歩 歩いたところで
すぐに後ろを振りむいてみた。
家路に戻る 君の姿があった。
振り返らないだろうかと 思いつつ・・・
君は 少しずつ 小さくなっていった。
ありがとうを いいたかった。
家に着いたころを見計らい、電話をかけた
「さっきは ありがとぅ」
電話を切って 思った。
自分は 幸せ者だ。
歩きながら想った。
僕らは この年になっても お互いだけを見つめて生きている。
心は 今でも まるで 恋人どうしのようだ。
子供はさずからなかったけれど それでもいい。
君と出会えただけでいい。
その日は 家に帰ってから 何回も 「ありがとぅ」を言った。
これから 夕飯後のコーヒーは2杯入れることにした。
まだ その誓いを果たしていない
僕を 呼び止めた声が今も聞こえる。
生きている間 後悔なく
どちらが先に死んでも、 死んでから 悔やんだりしないように
悲しみに暮れるよりも 感謝で包まれるように
生きている間 絶え間なく
君を
また フォトフェイシャルや 美容も 薦めよう。
おいしい店を探して 連れ出そう。
仕事や 仕事関連で やらないといけないことも たくさんあるけれど
何よりも 大切なもの
あなたの明日に幸せがありますように
あなたの明日にこそ 幸せがありますように