2024/6/28
金曜日「登場人物」と言う物語 75
応力除去
熱処理と言う仕事は、
安い割には責任の重い仕事である。
キロ当たりの単価で言えば、
100円、
200円の仕事であっても、
その仕事の責任の重さは、
時に人命にかかわる。
だからと言って単価を上げれば、
人命の責任を取りますと言うものでも無いだろう。
Wikipedia
前回説明したが、このトーションバーが問題のそれである。
白くペンキを塗っているが、当然熱処理に来るときは、
ペンキに熱をかける訳にはいかないので、
色など塗っていない平凡な鉄の棒だ。
では熱処理で何をするのか?
熱処理をするのは、
こうゆう形に加工された後である。
加工応力の除去をする。
元々真っ直ぐな鉄棒だった物を加工しているので、
このトーションバーには大きな応力が発生している。
応力で分かりにくいのならストレス(stress)と呼べば、
イメージが湧くだろうか?
あるいは、「疲れ」と言った方が分かりやすいだろうか?
本来の形状を無理矢理加工された彼等は疲れている。
ストレスとは?
「ストレス(英: stress)とは、生活上のプレッシャーや悪感および、
それを感じたときの感覚である[1]。 人間および殆どの哺乳類では、自律神経系と視床下部-下垂体-副 腎系 (HPA軸)がストレスに反応する2つの主要なシステムである[2]。」Wikipedia
Wikipediaで括ったら人間の「ストレス」が出てしまい、
工学的なストレスは「応力」を見ろと言う。
応力とは
「応力(おうりょく、ストレス、英: stress)とは、物体[注 1]の内部に生じる力の大きさや作用方向を表現するために用いら
れる物理量である。物体の変形や破壊などに対する負担の大きさを 検討するのに用いられる。」Wikipedia
僕は鋼の業界に20年以上いて、
いつも思っていたのは、
鋼のストレスって、
人のストレスみたいだと言うことだ。
温泉に入ったり、
お風呂に入ったり、
暖かい言葉を掛けたなら、
ストレス=応力は解れるのである。
残留ストレスのある鋼は、
悩める人間と何ら変わらない。
今回の仕事に限らず、
鋼が割れる、
鋼が壊れる時は、
大体何か鋼に無理な力をかけたからであって、
そうゆう問題の解決方法として、
よく応力除去と言う熱処理を行うと、
解決する場合が多かった。
鋼と言うものは通常加工した部位が硬くなる。
これをこのまま使うと割れるのだ。
だから、人と同じ様に熱をかけてやる。
そうすれば機嫌よく働いてくれる。
また材料によっては、
ある温度をかけることによって、
バネ性を持つ材料がある。
我らがトーションバーが正にそれだった。
処理温度は400℃ぐらいだったと思うが、
形状加工後にこの温度をかけると、
バネ性と応力除去が完成すると言う材料なのだ。
僕は例のボンネット事件の後、
自分の会社がこのトーションバーの処理をしているのを、
ボーっと眺めていた。
ボンネットの事件とトーションバーの危険性が、
結びつかなかった。
ボンネットの部品とトーションバーの部品が、
同じ製品とは思い浮かばなかった。
ボンネットの部品とトーションバーの部品が、
同じサミットの製品とは思い浮かばなかった。
バネの熱処理
「金属ばねの場合、成形後には熱処理が施される。
鋼材の熱間成形ばね(重ね板ばね、竹の子ばね、コイルばねなど) であれば成形後直ちに急冷して焼入れ、そして焼戻しを行う[21 2]。焼入れ焼戻しによって、 硬く粘り強い材質にすることができる[213]。 鋼材冷間成形ばね(薄板ばね、コイルばね、皿ばねなど) の成形後に熱処理する場合は、焼入れ焼戻しあるいは残留応力を除 去するために低温焼なましを行う[214]。 非鉄金属材料の場合は時効処理が施され、同じく強度を高める[2 15]。」Wikipedia
この品物は、サミットから何の取り決めも無く処理が来て、
日々何事も無く処理が行われた。
処理自体、それほど難しい処理ではない。
でも、考えてみればこれだけの部品、
当然打ち合わせがあって然るべきであった。
月に数千本の処理でも、
この部品ではそれ程ヴォリュームは無い。
工場の他の品物に紛れて、
下手すれば忘れられそうな部品。
でもそれがある日、
某自動車会社の品質管理部隊を招く事になり、
この工場初めての存亡の危機に陥る事になろうとは、
誰がこの時思うであろうか?
続く
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