2024/4/5

金曜日「登場人物」と言う物語 67

熱処理と言う仕事③保証された工場

この物語は徹頭徹尾ノンフィクションである

 

鉄の身元

鉄の材料は削ってしまったらどんなに高級な材料でも、身元が知れない。削って無くても怪しい。(これを黒皮状態と言う)その居住まいは皆一緒である。勿論、調べる手はある。熟練者が居れば火花試験があるし、もっと詳しく調べるには、切断し、埋め込み、顕微鏡で金属組織の写真を観れば良い。或いは大学で成分を観る事も出来る。センサーも僕が梅毒株式会社を出た後は買ったようだが、僕のいた時代には望むべくもない。「時間を下さい、ウチの潔白を証明します」と、加工業者は言う。でも、仕事と言うのは時間が無いのだ。予定が遅れているのだ。金属組織を調べるのに何日間もかける事は出来ない。僕は以前真剣に思っていたのは、金属の組織の炭化物の形状で、ブランドネームが出来たら良いのにと。金属組織の中にそんな形を刷り込む事は出来ないだろうかと。

 

熱処理工程指示書

材料の信ぴょう性は兎も角、金型の熱処理履歴もこの工場はいい加減だった。金型の工程作業上の🆔として、熱処理履歴を取る為に工程指示書にポンチ絵を使っていたが、これは日本人なら割とこなれた感じにいい加減に書くのだが、コッチの人は手加減を知らない。長い時間を掛けて美術のデッサンをする。1日数件の熱処理であれば問題は無いが、その頃で一日100件以上。その後もっと増えていったので作業がおっつかない。このデッサンは個人差によるバラツキも大きく、丁寧に描けば描くほど、その人の味が前面に出て、ますます金型の識別に悪影響がある。年中暑い工場の中で、作業員は蚊に刺されながら、工場用扇風機に吹かれながら、蜜柑箱📦の上で作業指示書を描いていくのだから、効率の悪いことこの上ない。あまり役に立たない事を、疑う事もせずに、ひたすらに続け、内心には生活の不満を囲っている。僕が嫌う最悪のパターンだ。

 

ファーストインファーストアウト

そして、もひとつの妄語は納期である。納期と言うのは、これこそが、妄語の幻である。SKD11の焼き入れは、まともにその材料だけ処理すれば納期は2日とかからない。でも必ず顧客には余裕を持って言うべきであり、大体プラス2日くらい余裕を見る。でも中に強引な顧客がおり、工場に直接来てまで催促をしてくる顧客もあった。こうゆう事を許すと、歯止めが効かなくなる。ファーストインファーストアウトが守られず、ごね得が蔓延する。人は、工場に来て目の前で納期を催促されると弱い。ファーストインファーストアウトが守られないと、逆に異常に納期が掛かって居る品物が出て来る。身元不明の品物が出て来る。そしてそれが不正の温床となる。工程作業指示書が無くても品物が動き、それが裏の売り上げとして計上され、工程作業指示書はゴミ箱か、彼らの家のガス台に焚べられる。今思えばあの工場はよくあれで潰れなかったものだ。この不正事件の事はリンクをご覧下さい。

 

 

 

カミングアウト迄の17年

さてここで気になるのは、カミングアウトの元にこの杜撰な事業が行われていたと言う事である。この頃は、未だ金型の熱処理で東南アジアに出る業者は少なく、いくら梅毒株式会社が、特殊鋼の専門商社として最大手だったとしても、毎月常に赤字であった。何故この不採算事業を続けるのか?と海外進出を主導する2代目の娘婿社長は、1代目の創業会長から散々嫌味を言われていると聞いた事がある。設備も高い。真空焼き入れ炉で1億円近くする。純粋な経営者の思いからしたら、あの杜撰な状況にメスを入れて当然なのに、何故か社長は某国に来たら、株主の名前だけ借りている台湾系タイ人の塩化ビニルパイプ業の社長とフカヒレスープと子豚の丸焼きと家鴨の背中ばかり食べている。そして僕も含めその頃7、8名いた駐在員は、常にパーティーと称してそのお零れに付き合って居る。バンコク市内の高級ホテルアンバサダーホテルか、スカラと言うフカヒレ屋の常連だ。更に社長は工場長の田中とゴルフばかりしている。今考えると全く持って不可解だ。危機感ゼロだ。

 

でも僕の不敬罪を考えた時全ての納得が行く。

この会社、工場、或いは事業所の未来が誰かに保証されたなら、日本人も現地の工員もそれを知ってやっているのなら、

何も頑張る必要はない。

工程の効率化など考える必要は無い。

そう言えば、

彼等が必死になってこの杜撰な状況を、

怒ったことも、

怒られた事も、

この17年間見た事が無い。

そんな事を必死に考えているのは、

「飛んで火に入る年中夏の虫」の、

不敬罪の僕1人だけだったのだ。

嗚呼僕はそれに気付いて、

目の前が暗くなり、

気がつけば眼前に閃輝暗点が舞っている。

あの閃輝暗点の歯車が⚙

そうだ、

そのとうりだと頷いて居る。

これは全てノンフィクションである。

 

合掌

 

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