2024/3/22

金曜日「登場人物」と言う物語 65

熱処理と言う仕事①

この物語は徹頭徹尾ノンフィクションである

 

国文学部金属工学出身の僕は、鋼の熱処理、或いは金型、工具の表面処理と言う仕事に嘘でも味噌でも約25年間働いた。嘘つきの僕ではあるが、これは事実である。ノンフィクションである。王様にとってこの事実を消す事は簡単で有ろう。僕の関わった全ての案件の書類を燃やせば良いのだから。この事実を無くす事は簡単で有ろう。僕が死ねば良いのだから。でも燃やしても、死んでも消せない事がある。それはこのカミングアウトに携わった人々の記憶だ。記憶は其れを有する人たちが生きている限り僕を思い出そうとした訳では無いのに、僕の事を手掛かりに思い出さなければならない事がある限り、僕に関わった全ての人がこの世から居なくならない限り存在する。しかも厄介な事に、この手の記憶は歳を経る毎に鮮明になり、歳を経る毎に其れを思い出す時間は増える。人は其れを亡霊と言う。全てが幻として忘れられれば良いのだが、どうやらそうも行かないらしい。守秘の綻びが少しずつ解けている様だ。これを某国の言葉で、フアチャイ マン マイヨームと言う。(心は嘘をつかない、心は従わない)

 

異材と言う嘘と誠

熱処理と言う仕事は、結構僕に合っている仕事だった。請け負い加工業。お客さんのあるプロセスをある日突然計画も無く請け負う仕事だった。しかも、それは、早い時で2日も掛からずお客さんに品物を処理して返し、平均的には一週間も掛からない。熱処理を出すのに慣れていない人には勿体無いほど感謝され、熱処理を利用し慣れている人には問題が無いのが当たり前の様に思われぞんざいに扱われる。そうゆう仕事だった。

 

色々なタイプの熱処理品がある中で典型的な物を例に見てみよう。SKD11と言う冷間工具鋼だ。

 

冷間工具鋼とは

「合金工具鋼(ごうきんこうぐこう、英語: alloy tool steel)とは、炭素工具鋼タングステンモリブデンクロシリコンバナジウムニッケル等を加えて性質を向上させた工具鋼の一種である。添加物の組成によって32種類の規格が存在する。現在の実用工具鋼のなかで主流をなしているため「工具鋼」といえば合金工具鋼を指すのが一般化している。

JIS(日本産業規格)では、耐衝撃用・冷間金型用・熱間金型用に分けている。主流は、冷間金型用・熱間金型用・切削工具用の材料で大量に使用され、これらのグループを高合金工具鋼、それ以外を低合金工具鋼と呼ぶ場合がある。最近では、金型以外のものを SKS、金型用を SKD と呼び、材料記号は左記アルファベットで始まる記号で表記される。なお、SKS は Steel Kogu Special の略で、SKD は Steel Kogu Dice の略。金型用鋼、またはダイス鋼と称する。」Wikipedia

 

上記の

①冷間金型用

②熱間金型用

③切削工具用

の内の①を指す。32種類あると言うが、実際には見た目は鉄であり、色分けしなければ違い分からない。また切断したり加工したりすればする程見た目では見分けが付かなくなり、混材異材などの混乱が生じる。或いは、其れを利用した不正行為も存在する。公園の逆上がりの鉄棒とは価格の桁が違うのだ。なのに普通の鉄も特殊鋼も見た目はそれ程変わらない。某国も僕のいた頃は常に異材との戦いだ。

 

この異材の見分け方はいくつかある。

①火花試験

問題の鋼そのものを、暗闇の中でグラインダーで削る。その時飛び散る火花を見る。これは熟練が必要であるが、ある程度の違いが分かる。JIS規格を添付する。白状すると僕はこれが苦手だ。火花でそこまで分かるなら線香花火の花火を何と読むか?と嘯いいた男だ。特殊鋼の工場では、火花試験に熟練した技術員が定期的に工場をパトロールし、抜き打ち的に異材を探す。それによりモチベーションと緊張感を持続する。

 

②鋼の成分検査機

異材は時に、大きな問題になる。この場合は、成分調査が行われる。この頃は某国で持っているところも少なかったが今はどうなのだろう?基本✖︎線の検査機だった。僕が一時期勤めて?いた某国国立大学でも機械があった。でもここまでして調べる先は、訴訟では無いか?ハンディの物もあれば、病院のx線の様な物もあった。

 

③熱処理

熱処理に関係なかろうが有ろうが、1番手軽なのは、熱処理してみる事である。それにより鋼は、その鋼特有の挙動をする。或いは金型の一部を切り取ってサンプル熱処理をする。熱処理は、仕上がっている金型には歪んでしまうので出来ない為だ。

 

熱処理には技術的にも、時間的にも様々な逃げ道がある、意外にラフな仕事である。でもそれは僕のいた会社に限った事かもしれない。そうで無ければ、責任者が週3回以上ゴルフラウンド⛳️をして、シングルプレイヤーになれるわけがない。

 

詳細は次回。

 

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