金曜日「登場人物」と言う物語 38
この物語はノンフィクションです。
38 エイズと言う束縛①
大阪と言う通過地点
大阪と言うところは、僕にとって通過地点に過ぎなかったのであるが、それなりに新鮮だった。最初に就職活動で行った夏は、蒸し蒸しした夏でビックリした。梅田の駅前で背中からなまぬるい水を浴びせられた様な、そんな夏。会社は駅から歩いて3分以内。通っていた予備校よりも更に小さく地味だった。でも僕にはそれが丁度良かった。これ以上大きかったら押し潰されそうだった。
例えば、僕が東京のど真ん中と言われる所を聞かれたとしよう。全く思い付かない。東京にいるといつ何処に居ても自分は東京の片隅にいる様な気がしていた。あの東京の所在する関東平野と言うところは、その平野の終端が見えずキリがない。あれだけ広いと、この地への愛情が小さくなる。生活が小さい所に向いて、萎みそうになる。
一方の大阪は親しむに手軽だ。例えばちょっと大阪の高層ビルに上がれば、窓の外に六甲山が見える。ちょっと電車に乗れば京都であり、神戸であり、宝塚だ。「大阪の中心は梅田です。」と言われても、有りの様な気がする。そうゆう街だ。東京<大阪<広島、僕の中での街の好感度のランクはこうだ。まあでも、東京以外の街は、僕に偽りの姿を見せていたのかも知れないが…。
愛の国際電話
僕は就職活動をして、某国に行きたいと希望しこの会社に入った訳であるが、いつ某国に行けると確約されたわけではない。結果的に入社したその年の10月1日に赴任になった訳であるが、熱処理工場にいた時は少し懐疑的になっていた。今思えばサラリーマンになった僕は、変に高層のオフィスビルなどに行かなくて良かった。早く赴任出来て良かった。そうしないと、クリスマス
まで大阪にいたら気の弱い僕の心は折れ、東京に帰ったかも知れなかった。図書館か、「江戸むらさき」に就職し直していたかも知れなかった。
日本での新生活とは裏腹に、A級戦犯①のベンジョムシと言う新しい家族が受話器の向こうで
、日々重く暗くのしかかった。通常はエアメールでやりとりしていたが、国際電話でのやりとりが増え、その請求書を見るのが憂鬱になっていた。熱処理の籠に
、工具を縛りつけながら、僕は思った。
「一体僕は何で此処に居るんだろう?」
「この縛り付けている工具は自分自身じゃないのか?」
「そもそも何で某国に行くんだろう?」
就職してこの方、ベンジョムシとのやりとりは国際電話だった。
それは一言目は「恋しい(キッツン)」だった。
そして二言目には如何にしてお金が不足しているかと言う浪花節だった。
そして三言目にはその送金の段取りだった。
そして、僕の心はその国際電話が来る度に心拍が高鳴り叫んだ。
「一体僕は、何をしにあの国に行くんだろう?」
DV猛々しい父の素を離れ大阪に来て、鋼の熱処理と言う畑違いの肉体労働に首を突っ込み、また更にこの後、東南アジアの某国に行こうとしている僕は何者か?僕は一体何者ですか?自問自答は途切れる事がなかったが、その時既に心の中にベンジョムシに対する「愛」は無かった。彼女もそうだったとは、後になって知った話である。これはノンフィクションだ。
浪花節とは①
「浪曲の起源は800年前とも言われ、古くから伝わる浄瑠璃や説経節、祭文語りなどが基礎になって、大道芸として始まった[3]。浪曲は主に七五調で演じられ「泣き」と「笑い」の感情を揺さぶる[4]。時代に翻弄されつつ、いつも人々の心に寄り添ってきた芸能[5]である。」Wikipedia
浪花節とは②
「日本国内では大衆に愛された浪曲であるが、知識人[11]による教養主義[注釈 3]から嫌われた[12]。特に文学者に浪花節嫌いを公言する者は多く、蛇蝎の如く嫌われる。尾崎紅葉[13]、泉鏡花[14]、夏目漱石、芥川龍之介[15]、永井荷風[注釈 4][16]、三好達治[17][18]、三島由紀夫[17]がいた。加えて演芸と関わりの深い久保田万太郎[19][20]の浪花節嫌いは有名であった。」Wikipedia
浪花節③
「物語の内容から、転じて「浪花節にでも出てきそうな」という意味で、言動や考え方が義理人情を重んじ[27]、通俗的で情緒的であることを俗に「浪花節的な」あるいは単に「浪花節」と比喩する」Wikipedia
東京弁の総務部長
僕の思いを察したのかは知れない。会社の研修旅行の露天風呂で僕に近寄ってきた総務部長は言った。「君ね君ね?もう赴任だよ。いいかい。もう赴任だよ?」このコテコテを標榜する大阪の会社にいて、東京慶應大学出身の彼は誰からも嫌われていて、「さあさあ」をこの本社で社員に連発し、僕から見てもやり過ぎ感のある総務部長だった。その人が言うではないか?
「赴任だよ!」
その時僕は、我に帰り、自分がどこに行くのかを思い出した。そしてその時の僕の課題を胸に秘めつつ、東京弁の総務部長に高らかにお礼を言ったのである。
「ありがとうございます
」
周りの同期は言ったものである。
「おめでとう
でも何故鯛なんだ?」
そう、それこそが僕の知りたい最大の疑問だった。
以上
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