難喋(なんちょう)
あのおばあちゃんの声は、
この秋、コロナが施設を襲った後、
一段と大きくなり、
1日中大声で、
先生を呼びつけ、
ご飯を食べさせろと、
ご飯の前で叫び、
ご飯の前で何度も、
オシッコが出ると言う。
職員に怒られると、
すいませんと塩らしくなり、
職員が離れると、
また大声になり、
関西弁でオシッコが出る。と。
日に日に声は大きくなり、
本人も、
どうしたらいいのか?
分からない様子であった。
「彼女の家族は自己責任だ。」
「おばあちゃんを引き取れ!」
流石に頭に来て、
同年代の友人と怒っていたら、
前に座っている、別のおばあちゃんが言う。
「言ってくれたら助けるんだけど」と言う。
「何が問題だかわからないものだから」と言う。
おばあちゃんには難聴で、
あのおばあちゃんの言っている事が分からない。
………?
ここにいる100人以上の患者の多くが難聴であれば、
このおばあちゃんの声は耳に涼しい。
これは、彼等の問題ではなく、
難聴ではない僕等の問題だったのだ。
00000
00000