橋本さん
この人は、手のリハビリを担当しているが、それにプラスして、
洋服を着たり、退院、転院に関わる予備知識をサポートしている。
人は人によくしてあげたいと思っている。出来れば誰からも好かれ、
出来れば誰にも良く思われたい。この人は、声を使ってそれを実現する人である。
所謂、猫撫で声というのがあり、人間間ではあまり良い使い方はされない。何かを得たい時、可能な限りの甘い声を出す。
逆に言えば可能な限りの甘い声を出さなくては、得たい物に
達しない。しかしこれは猫の人に物をもらうための数少ない方法である。猫が求めているものは、食べ物、が主であり、その強弱もあまり技があるわけではない。いや実際猫同士では、もっと意味が深いのかもしれない。
しかし橋本さんの場合、そもそも猫撫で声と一緒にしていいのか、
強弱、早さ、遅さ、音の美しさ、全てにおいて絶妙で、そして
相手からリハビリの喜びと、苦しみを引き出し、気が付けば、
相手に返してしまう。人と会話しながら、その美しい部分を、
エッセンスを返してしまう。
こんなことをあなたは言っていると、あなたは呟く。
ほら、あなたのこと、わかってる?
全てが自分に返って、豊かになっている。
あれはなんだ?
本人が無意識にやっているとは思えない。
しかし、何故?、痛いの?、苦しいの?、何が駄目なの?
何が嫌なの?
どうする?
そういう会話の組み合わせが絶妙で、いつしか彼女に色々と、
聞きたくなってくる。
美声に加えて、美顔で、小柄な体のどこにその力があるのか?
人とのコミニュケーションもうまい。
おばあさんに囲まれて、自由自在に歌っている。
年配の男性の怒っている姿をサラリと無視し、
くだらないことに拘泥し情け無いと泣く時もある。
でもそれでも、涼やかに、待っている。
全く、こんな人がいるのである。
ただ、勘違いをしてはいけない。
リハビリを受ける7割は、筋肉への刺激を快く感じ、
残り3割は、痛みと感じるらしい。
彼女がどちらかに誘っているのか
いやそれもまた、痛い、痛い、と聞かれ
豊かになって自分に帰るのだ。
あれは、何だ。
