伊藤は良くある名前だと彼女ははにかんだ。
リハビリの合間に、喋る口を手で抑える。
その手は爪が見えない指だけで、一と四が
綺麗に組み去って、美しい感情を表している。
こういう人を子どものころ観た気がする。
目の前にかかった黒髪が、細く細くこの人の隠し切れない
感情の思いを乱す。
もちろんそれは美の面に光を当てて話しており、
実際には、仕事という面では、豆というか真面目というか
人の仕事にも良く心配して、自分のシフトでなくても
現れて、私達の不安を解消してくれる。
こういう人は、結婚の話など聞かなくても聞いても
どこかではぐらかし、言わないものだ。
中学校の理科の先生がまさにそれで、絶対結婚しないと
いっておいて、同じ学校付属の理科の小学校の先生と、
しあわせになった。
果たして彼女も突然結婚し、あ、やはりなと、
心の中で、我が慧眼を誉めた。