龗一族のお話。@.168


先日お話した《縞黒(しまこく)さん》についてのお話です。


彼は腕に木製の御数珠と、水晶のような御数珠をはめてらっしゃいました。


崇一朗兄さんと匂いが似ている彼の体からは木の香りと線香の香りがして、まるで木のぬくもりと薫りのある家、もしくは御神木、森、そんなイメージを抱きました。


髪の色は白より象牙色に僅かに薄緑が混ざった色に近く、手にはとてもうっすらと斑(まだら)の模様か痣のようなものがありました。


その斑の色は淡い苔緑色と茶褐色、象牙色でした。

首の周りは特に色味が濃く、お顔はぼんやりとしか覚えてませんが白く、指先も白かったように思います。


縞黒さんとは、その後またお話をしたはずですが、あまりハッキリと覚えていません。


彼との会話では、私が口を開けず、彼が私の考えている言葉を読み取って話をする、そんなやり取りをしました。



縞黒「光を使って現れれば、君は大いに敵対心と警戒心を持つ事は聞いている。だから、こうして暗い所から出入りしていたのだけど…彼の姿を借りたのは間違いだったかな?」


縞黒「今の君に敵対心と、さらに懐疑心を植え付けたのは誰なんだろうか…厄介だね。我々にとっては本当に要らないものなのだけど…どうすれば…いや、君が受け入れるか決めればいい。わたしを」


萬戒「お兄さん、良い木の匂いがするから好き」


縞黒さんは目をクリっとさせて、お笑いになりました。


縞黒「はは、はやいね。普段は木に宿しているけど、そんなに匂うかい?なんの木か分かるかな?」


私は首を振って答えました。


萬戒「わからない、ヒノキの匂いしかわからない」


縞黒「クスの木だよ。見たことはあるはずだ。私の宿す木ではないだろうけれど、沢山生えている大きな木だ。よく神木にもされている。」


縞黒「前の君は、もっと話が出来たはずだったのに…悲しいね。喋るのは嫌いになったかい?」


萬戒「うん…」


縞黒「フフ、生まれ変わったら木になりたいって考えたね?確かに喋らなくてもいい、それでいて神々の媒体にもなれる。日当たり競争はあるけれどね、のんびりしたもので、君にも合っていそうだね」


縞黒「ちなみに私は木でも神木でもない。神木に宿しながら川を眺める龍だ。気になっているだろう、この身体を。美しいとも言えない私の体を褒めてくれたのは、君で何人目だっただろう…」


バレた(笑)


縞黒「私と君は少し遠い所に居る。少し前に君に会ったのも呼ばれたからだ。呼んだのは…誰かわかるだろう?黒い女の子だ。女の子と言うには………いいや、この会話は彼女に届いている」


万寿さんが直ぐに思い浮かんだ。


縞黒「何故彼女に呼ばれたのかは分からなかったけれど、今ならわかる。君はたくさんのものを取り巻いて暮らしている、その一部に在ってはならないものもいる。それを遠ざけさせるためにも、私や他のものを寄越したようだ」


突如現れる母「今日満月やでー浴びたら?」


萬戒「浴びたー(皆既月食一瞬だけ)」


縞黒「浴びてないだろう」


萬戒「そら曇ってるわー」


縞黒「おいおい曇ってないよ、満月の前に出なさい」


縞黒「そう言えば石を持っていたね、裏(ベランダ)に持ってきたらどうだい?」


私はアクセサリーに使う天然石を全て運び出しました。


縞黒「君の水晶や腕輪も、忘れてないかい?」


忘れてました(笑)


私が満月を見ていると、縞黒さんが話を続けました。


縞黒「ほら、満月を見上げてごらん。私も満月の時には空を仰ぐ。さあ、祈りを込めるんだ。」


萬戒「祈り方が分からない…」


縞黒「手を合わせてもいい、ただ見上げて想うだけで祈りというものが君は出来る。何も祈ることが無い…??」


縞黒「ならば、純粋に君の気持ちを思い浮かべよう…」


萬戒『月が2個見える…』


縞黒「そう、月は1つだけれど、君には2つ見えるはずだ。右目と左目。まず両方で見て。右目だけで見て、次は左目だけで…。」


縞黒「最後にしっかり満月を見るんだ、光が漏れないようにね。満月から放たれた力を、目を通して全身に吸収し、深呼吸して、口から不要なものを吐く。それを想像して、やってみてごらん」



縞黒さんの言われた通りにすると、ずっと丸く構えていた背筋が良くなりました。


縞黒「今だけは雑念を捨てて、それらは今の君にとって負担になり追い込むものだから…」



縞黒さんと月を眺めて話をしていると、心配した母が来たのと、寒いのもあって家に戻りました。