「かみそり狐」(初回放送1976年9月25日)
語り(市原悦子)
才造(常田富士男)
狐(市原悦子)
鳥取県の話です。
https://youtu.be/cXSqOnTbpgQ?si=cA_HNvAis9p5n3Jv
昔むかしむかし…ある野原に、イタズラな狐の一族が住んでおったそうな。
その狐どもは、人をたぶらかしては頭をツルツルに剃ってしまうのだそうな。
たとえば、こんなふうに…
「いやあ、気持ちがいいねえ…いやね、そこまで来たらね、急に頭が痒くなってきてね…何だかこう、無性にさっぱりしたくなってよ。そしたら、どうだ?お前さん…こんな野原の真ん中にあるじゃないの、床屋がさ…いや嬉しかったねえ。そいで、ポンと飛び込んだってわけ」
「はあ…狐にやられただな?オラもよ…」
とまあ、こんなあんばいだったそうな。
そんな訳で、このイタズラ狐どもには「かみそり狐」という呼び名がつけられとったそうな。
ある日の事…かみそり狐を退治するべと、村の衆が庄屋の家に集まった。
だが庄屋をはじめ、村の衆はみんな狐にツルツルにやられちまっているので、いい知恵が浮かんでこない。
ところが、村でただ1人、狐に頭を剃られていないのがおった。
これが、才造(さいぞう)という若者。
「フン…間抜けが、よくも揃ったもんだ。オラだって野っ原で何べん、かみそり狐の野郎に出くわしたか知れねえ。だが、そのたんびにオラ、ビシッと見破っただ。狐に騙されるようなカボチャ頭がいくつ揃ったって、狐退治の知恵は出めえ…」
「どうだ?みんながよ、オラに退治してくれろと頼むんなら、オラ一肌脱いでやってもいいんだがよ?」
という訳で、村の衆に頼まれて才造は、かみそり狐を退治する事になったそうな。
才造は、ちょっと知恵のあるのが自慢で、村の衆からも一目置かれておった。
だから村の衆も、才造ならかみそり狐を退治できるかもしんねえと思うた。
だが心のどこかで、やっぱり才造もたぶらかされて、ツルツルにされてしまうんじゃなかろうか?
とも思っておったそうな。
暫く行くと…
「おりゃ?」
見た事のない若い娘に出会い、声をかけられた。
「あら、これまた才造さんでねえだか?」
「おめえ、誰だ?」
「あら、忘れただか?隣村の、おこんだよ」
「知らねえ」
「そんな、忘れるたあ冷てえよう…」
才造は、娘をまじまじと見つめてみた。
が、やはり見覚えがなかった。
「フン…くせえぞ、くせえぞ?…よし、知恵使うんだ」
そこで才造は、ひと芝居打ってみる事にした。
「ああ…思い出した!おこんか?たいそうベッピンになっただな?いくつになっただ?」
「いやだ、18だよう…」
「ほう…そうきゃ?生まれは、狐年だったかな?」
「いやだ、狐年なんかじゃねえだよ…オラ戌年だよう…」
そこで才造、ピンときた。
「戌年…?戌年なら、今年は24だ!この嘘つき狐め…そのくれえの知恵で、この才造様が騙せると思っているのか?たあーーーっ!」
「こん♪」
「見ろ!オラ騙されねえ」
「見てろよ?悪タレ狐め…必ず仕留めてくれるからな」
第一の狐を見破った才造は鼻息も荒く、野道を進んだそうな。
さて…ここらが、イタズラ狐どもの本場。
見事才造、仕留めるか?
反対に、ツルツルにされるか?
すると道の向こうに、狐の姿が…
「はて…?」
才造が、暫く様子を窺っていると…
その狐は、堂々と道の真ん中で、姉さに姿を変えた。
「ぷっ…何たる不用心な女狐だ」
狐の化けた姉さは、才造が見ている事も知らずに、ひょこひょこ歩いていったそうな。
暫く行くと…姉さは道端にしゃがみ込んで、枯れ草を引っこ抜いては、何やらこしらえ始めたそうな。
「何をしているんだよ…?」
なんと、それは…
「おぎゃあ…おぎゃあ…」
姉さの作った枯れ草の人形は、赤ん坊に姿を変えた。
才造は、訝しげにその様子を見た。
「何を…始めるつもりだべ?」
才造は、狐の化けた姉さが、何をするつもりか分からないので…
暫くそっと、後をつけてみる事にした。
すると狐の姉さは、何素知らぬ顔して、道端の家の中へ入って行った。
「母さん、遅くなっただ…」
「あれま、帰っただか?どれどれ、オラに抱かせろ…あばば〜〜♪お前は、めんこい孫だやな?」
その様子を見て、才造は慌てて家の中へ入って、おばばに今見た事を話した。
「待った!おばば、騙されちゃなんねえ。この嫁さは狐が化けてるんだ。おばばが抱いている赤ん坊は、枯れ草の人形じゃ。オラ、この目でしっかり見てるんだ!」
おばばは、姉さに聞いた。
「知らね」
才造は、姉さに詰め寄った。
「フン…しらばっくれる気か?女狐め…オラ、さっきからずっとつけてきたんだ。何もかも、見て知ってるんだ。もう観念するんだ。おらおらっ!」
おばばは、慌てて止めた。
「何するだ。こんバカ!オラが大切な嫁ごを殺す気だか?」
「嫁っこでねえってば!狐だ!」
「嫁っこだって!」
「狐だってば!」
「狐ではねえよ!」
言い争ってもキリがない。
そこで才造は、持ち前の知恵を働かす事にしたそうな。
「あ〜〜っ?何するだ?」
才造は、姉さと赤ん坊を縄でぐるぐるに縛り上げると、表へ連れ出した。
「まあ、見てなって…化け狐は、青い杉の葉燻して煙攻めにすりゃ、正体現すっていうでねえけ?」
そう言いながら、集めた杉の葉に火をつけて、燻し始めた。
「こんだら事して…オラが嫁ごに、もしもの事があったら、どうしてくれる?」
「フン…今にシッポ出して、正体現す。そんだけのこった」
暫くすると、姉さと赤ん坊が咳き込み始めた。
「ケホッ…ケホッ…」
「かはっ…かはっ…」
「やめれ!これは狐でねえ!本物のオラが嫁ごだって!」
「狐だって」
「もうやめれ!こりゃ本物のオラが嫁ごと孫だや!」
「狐と枯れ草だって」
才造は、姉さが正体を現すまで、根気強く待った。
「ケホッ…ケホッ…」
「かはっ…かはっ…」
「やめれ!やめれってば!」
「いんや、今少しだ…」
ところが、なかなか正体を現さない。
「あらら…やめてけれ!まだやめねえか?死んでしまうよお…」
「もう少し…」
才造は、だんだん心配になってきた。
すると…
「あーーーっ⁉︎」
姉さと赤ん坊は、正体を現す事もなく、その場でパタリと倒れて動かなくなった。
「死んでしもうた…これでも、オラが嫁ごと孫が狐か!正体現しただか!」
才造はその時初めて、とんでもない事をしてしまったと思った。
「お…起きてけれ…これ、返事してくれろ…これ、生き返ってけれよ…」
「うわ〜〜ん!嫁ごが殺されたあ!孫が殺さ…あ〜〜あ〜〜…」
「どうすべ…どうすべ?オラ、とんだ事をしちまっただ…おばば、どうすべ?」
「知らねえ〜〜知らねえ!オラ知らねえってばや〜〜!」
「あ〜〜…オラ、人殺しちまっただ…オラ、人殺しだ…あ〜〜どうすべ…どうすべ…」
才造は、もうどうすればいいか分からず、ただすごすごとその場を離れていった。
すると、向こうから坊様が歩いてきた。
「こっほん…あ〜〜これこれ、何かお困りの事でもあったかな?」
才造は、坊様にすがりついて助けを求めた。
「坊様!助けてくれ…オラ大変な事をしちまっただ…助けてくれ…」
この坊様は、えらい坊様だとかで…
出来た事はしょうがないと、宥めてくだされたそうな。
それでは気が済まない才造は、死んだ嫁さと孫の菩提を弔いたいと、何べんも何べんも坊様に、弟子にしてくれるように頼んだそうな。
坊様は、根負けして…
それではと、才造の頭を丸める事にした。
「なんまいだ〜〜…ありがたや〜〜…」
坊様は、静かに才造の頭を剃り始めた。
ところが、暫くすると…
坊様も、おばばも…そして死んだはずの姉さも、みるみる狐の姿に変わっていった。
そして、そ〜〜っと…その場から去っていった。
暫くして…村の衆がやってきて、道の真ん中でひとり念仏を唱える才造の姿を見つけた。
「なんまいだ〜〜…ありがたや〜〜…」
村の衆は、才造の頭を見て…
「才造じゃ」
「ツルツル坊主じゃあ」
「ハハハ!」
「才造が、やられてるだよ!」
「ハハハ〜〜っ!」
見事、才造もツルツルに剃られてしもうたそうな。
おしまい。
お〜〜い…解決してないやんけ〜〜←騙されっぱなしで終わってもた🤣
ま…才造さんは、典型的な例かな〜〜
一番騙されないと豪語する人間ほど、騙されるってね
それとは関係ないけど、今ホンマ巧妙な手口で人を騙す輩が多いですからね〜〜
自信のある人ほど油断は禁物っちゅー事で
てゆーか、別に今のこの詐欺横行に合わせて、この話を選んだ訳ではないねんけどね
前にも話したけど、今年の昔ばなしの年間予定リストはもう半年も前に出来上がっているので、たまたまね😅
ところで、めっちゃ余談ですが
この話は初回放送から15年後の1991年に、リメイク版が放映されたんですけど
コレがまた…話の骨組みは、まあ旧作とほぼ同じなんですが
演出と絵柄が…おっそろしく豹変した描写に成り代わっていて
自ら「昔ばなしフリーク」と仰るタレントの伊集院光さんでさえ「恐ろしくて二度と見たくないトラウマ回」と話していたそうです
確かに、今思い出しても身の毛がよだつような…ホンマに、あのユルい旧作と同じ話かと疑いたくなるような、そんな話になっています
もし気になるという人は「三本枝のかみそり狐」で検索してみてね←怖くてリンクさえできひんから…けど責任は持てまへん悪しからず🤣
次回は
ある道具の名前の由来話
以上、本日ここまでどす🙇♂️
訪問が騙されるほど遅れております…毎度ゴメンやす
では〜〜明日もご安全に〜〜
おーきにです〜〜ほなね〜〜