どもども…週末昔ばなしですよん口笛

今回は、笑い話ですウシシ

鳥取県の話です。
昔むかし、兵六(ひょうろく)という若者がおりましたそうな。

この兵六のおかみさんが大そうな美人で、兵六はおかみさんの顔ばかり見ていて、さっぱり仕事に行かなんだそうな。

困り果てたおかみさんは、自分の顔を絵に描いて、兵六どんに渡しましたそうな。

「はい、出来ましたよ」
「ほ〜〜こりゃよう描けとる。お前とそっくりじゃあ」
どうしてこんな貧しい兵六どんのところに、美しいおかみさんが来たかと申しますと…

それは半年ほど前の、ある春の日の事でした。

兵六どんはいつものように、自分の畑を耕しておりました。

その時でした…畑のそばに、美しい女の人が座っていたのです。

女の人は、兵六に向かってニコニコ笑いかけました。

「あら〜〜…恥ずかし…ありゃりゃ」

兵六は恥ずかしくて、俯きがちに畑を耕し続けました。

すると女の人は、兵六どんに呼びかけました。
「兵六さん」
「は…はい?」
「兵六さん…あたし、あなたのところにお嫁に来たのよ」
「へ…ええ〜〜っ?」

突然の不思議な出来事で、兵六は畑の中で呆然と突っ立ってしまいました。

「ねえ、聞こえないの〜〜? 嫌なの〜〜?」

そこで我に返った兵六どんは、慌てて女の人の前まで行って、お嫁さんになってもらうようお願いしました。

「いや…とんでもない…お願いします‼︎」

ところが兵六どん…おかみさんがあんまり美しいので、おかみさんの顔に見とれてばかりいる。

ご飯を食べればこの始末…
おかみさんが針仕事をしていると、そばへ来てベッタリへばりつく。

「行ってらっしゃい」

お弁当を作って、やっと仕事へ送り出したかと思うと…

「まぁ…」

戸口に座って、じ〜〜っと…
これには、ほとほとおかみさんも困ってしまい、自分の顔を絵に描いて、兵六に持たせる事にしたのです。

これなら、いつでもおかみさんと一緒です。

兵六は、おかみさんの絵姿を大事に懐にしまって、畑へ出かけました。

「どれ…ちょっと見てみようかな〜〜…あれぇ〜〜」
畑へ行った兵六は、おかみさんの絵を見ては、ちぃっと働き、ちぃっと働いてはまた、じぃ〜〜 っと眺めておりましたが…

その時です、強い風が吹いて来て、大事なおかみさんの絵が…ピュ〜〜っ台風

「あ〜〜っ‼︎ お〜〜い待て〜〜っ…待ってくれ〜〜っ‼︎」
兵六が慌てて追いかけましたが、絵は遠くへ飛んで行ってしまいました。

兵六は、もうガックリ…

さて、絵姿の飛んで行った方向に、お城がありました。

そこのお殿様が大の自惚れ屋で、自分の絵を描かせては悦に入っておりました。

その時、お城の外から紙が1枚舞い込んで来て、お殿様の顔に張り付いたのです。

「んっ? 無礼な…」

と言いながら、その紙に描かれた絵を見てみると…

「はぁ…すごい美人じゃあ…」

ひと目見るなり、すっかり気に入ってしまいました。

そして、城中の家来たちを呼び集めました。

「皆のもの、早速この紙に描かれた女を探して参れ。ワシの嫁さんにするのじゃ。このような美人は、ワシのような美男子にこそ、ふさわしいのじゃよ〜〜」

自惚れ屋の殿様の命令で、もう国中は大騒ぎ。

そしてとうとう、兵六の家にも…

「やあやあ…とうとう見つけたぞ。早速、城へ連れて参れ‼︎」

突然の事で、兵六もおかみさんも驚いてしまいました。

「何をなさいます?」
「これは俺の嫁さんじゃぞ〜〜?」

兵六の必死の抵抗も虚しく…

「あなた…」

兵六は、ぐるぐる巻きに縄で結わえられてしまいました。

おかみさんは、そんな兵六に袋をひとつ渡しました。

「この袋の中に、桃の種が入っております。この種を植えて実がなったら、どうぞお城へ売りに来てちょうだい…」
おかみさんの心は、どんなに悲しかったでしょう…泣く泣く引き立てられて行きました。

「お前〜〜っ…行かないでくれ〜〜っ‼︎」

兵六は、縄で結わえられたまま起き上がり、家来たちに必死に頼みました。

「どうか、連れて行かないでください…」

それでも、おかみさんは兵六の家の外に出されてしまいました。

「きっと3年経ったら、桃を売りに来ておくれ…」

兵六は家の外に出ても、必死に頼みます。

「ねえちょっと頼みますけ…芋でも何でもあげますけ…魚でも釣って来るけ…頼みますだ。オラの作った芋は国一番美味しいと、村の衆が褒めてくれるで〜〜…」

何度もそう言って頼みましたが、全く聞き入れてもらえず、おかみさんはだんだん姿が見えなくなって行きました。

そして、誰もいなくなった家の前で、兵六はひとりポツンと取り残されてしまいました。

「殿様のバカヤロ〜〜…」

兵六は、あれほど愛していたおかみさんを連れて行かれて、すっかり力を無くしてしまいました。

畑へ着いても、出るのはため息ばかり…

でもそのうち、おかみさんの置いて行った桃の種の事を思い出しました。
兵六は、桃の種を一粒、畑の中へ植えると、やはりため息をつきながら、ひとりぼっちの家へと帰って行きます。

そして、冬がやって来ました。

やはり、兵六の心に浮かぶのは…
春が来て、夏が過ぎ、そしてまた冬が来て…

とうとう3年目の夏…桃の木は、立派な桃の実をいっぱい実らせました。

「桃を売りに来いと言っとったなぁ…」

一方お城では…この3年間、奥方は一度も殿様の前で笑わなかったそうです。

その頃兵六は、おかみさんのいるお城の前までやって来ていました。
「桃〜〜や〜〜桃はいらんかね〜〜…3年越しの甘〜〜い桃〜〜」

その声は、奥方の耳にも届いたようです。

「あ…あの声は…」

外では相変わらず、桃売りの声がします。

「桃〜〜や〜〜桃〜〜…いちば〜〜ん…一番〜〜美味しい桃はいらんかね〜〜」

奥方は思わず、ニッコリと笑いました。

「あの人の声…」

その様子を見た殿様は…

「おおっ…奥が笑ったぞ‼︎ ははは〜〜奥が笑ったぞ‼︎ 奥が笑ったぞ〜〜ほほほ〜〜っ」
3年目にやっと奥方が笑ったというので、殿様は大喜び…早速、桃売りを中へ呼び寄せました。

「これ桃売り、ここでもう一度桃を売って見せよ〜〜」

兵六は、言われるままに部屋の中へ入って行きました。

「ははぁ…」

そして、殿様の前で桃を売って見せました。

「桃〜〜や〜〜桃〜〜…一番美味しい桃はいらんかね〜〜」

それを見て、奥方は喜んで笑いました。

「ほほほ…」

すると殿様は、兵六にこんな事を言いました。

「これ桃売り、ワシの着物と取り替えろ〜〜」

殿様は、自分が桃売りになって、もっと奥方を喜ばせてやろうと、兵六と着物を取り替えっこしました。
そして殿様は、気取った声で桃売りをやって見せました。

「桃や桃ぉ〜〜…一番美味しい桃の殿様ぁ〜〜…殿様桃ぉ〜〜」

それを見て、奥方は大喜び。

「ほっほっほ」

そして殿様は、桃売りの姿のままで、部屋を出て行きました。

部屋には、兵六と奥方の2人だけ…奥方は思わず、兵六に抱きつきました。

「あなた…」
「お前…」

そして2人は、3年振りの涙の再会を果たしたのでした。
一方の殿様は、すっかり調子に乗って、そのまま城の外まで出て行ってしまいました。

ところが門番は、その事に気がつきません…てっきり、兵六が出て行ったと思ったのです。

そんな事とはつゆ知らず、殿様は再び門の前まで戻って来ました。

「これ門番、門を開けい」

ところが門番は、これが兵六と信じて疑いません。

「何を申す? この桃売りの分際で‼︎」

そして、桃売りの殿様をコテンパンにやっつけてしまいました。

「わぁ〜〜やめてくれ…やめてぇ…」

そして桃売りの殿様は、とうとうお城から追い出されてしまいました。

こうして、兵六は殿様と入れ替わり、おかみさんと2人でいつまでもお城で、幸せに暮らしたという事です。

ところで、殿様のほうはというと…?
(語り 市原悦子)

バイバイウシシ音符