一話にまとめようとしたお話の後半戦です。

前回から2日しか経ってないので、ここに書くことが思いつきませんの。


しいて言えば、あれですか。


月曜に忘年会があったわけですよ。

月曜から忘年会ですよこんちくしょう。


久しぶりにビール一気飲みとかしてました。

二日酔いにはならなかったけど、週初めの飲み会はきくね…うん。


今週、働きたくないですw



てなわけで、gdgdですが、どうぞ↓




樹も流石に耳を疑った。
「…事故ではなく、故意だったのか?」


まぁ、と銀子は悪びれる様子は無い。
元々感情が読み取りづらいせいかもしれないが、それでも飄々と言う。


「正確には、樹の食事に薬を混ぜて、

毒きのこは後から食事に混ぜたんですけどね。」


確かにあの感じは、薬品のような感覚だった。納得だ。

「…あの少年は?あれは演技だったのか?」


「いさみの力は本当です。確かに、いさみには事前に説明しましたけどね。

流石に自分の拾ってきたきのこが毒きのこだったなんて思ってしまえば、

あの子にとって酷い心の傷になるでしょうし。」


腕を組んでうなずく。

「そうか、それはよかった。それで、何故わざわざそんなまねをした?

殺すための毒じゃないな、あれは?」

銀子の表情が少し歪む。まいったな、という表情に見えなくもない。
「雫を、救って欲しかったからです。」



どうやら、悪意を持ってやったわけではなさそうであった。

無論、勘にすぎないが。
「何か事情がありそうだな。説明してくれないか?」

そうですね、と銀子は軽いため息をついた。
外で話しませんか、と言う銀子に従い、部屋の外に出る。


寝ている雫を一人部屋に残し、樹と銀子は外に出た。

銀子の表情が心なしか堅く見える。

ひょっとしたら彼女の内面は、もっと豊かな感情に溢れているのかもしれない。

推し量ることしか、今は出来ないけれども。


「紡が亡くなってから、雫自身はは隠していつもどおり振舞ってはいましたが、

私からすれば、もう抜け殻のようだったのです。」
「希望を失ったような?」

「そうですね、彼女が気持ちを打ち明ける相手が紡以外にいませんでしたから。」



そして、と銀子は改まる。

「事を思いついたきっかけは、

紡の息子であるあなたが、島に渡ることだったのですが。」


銀子は少し考え込んでいた。どう話すものか、整理しているのだろう。

窓の外を少し眺めてから、また口を開き始めた。
「とりあえず、雫はどこまで話しました?」
「火事で両親を失い、妹とも別れて居場所を無くしたこと、

その時母と出会って暮らしはじめたこと。大きくその二つかな。」



生徒の答えを聞く教師のように、うんうん、と銀子はうなずく。



「雫にとって紡は、生きる意味も同然でした。母親代わりでもあり、生きる居場所でもあり。」

「そして、唯一自分を打ち明けれる人物だったのか。」
「そうです。そして雫は、その紡を亡くしました。

先ほど言ったように、抜け殻、です。」
「成る程。それを救うのに、私に白羽の矢がたったと?」
「直感と独断でしたけどね。紡の肉親なら、と思ったのです。」
「おおよその意図はわかった。」




事情は納得した。しかし、行程は納得はいかない。
「何故君自身が、私の母の役割をしなかった?」
銀子は真剣なまなこですぐに返す。

「逆に聞きましょう。何故私に、その役割ができると思いました?」


少し返答には戸惑った。あくまで推測だからだ。
「単に、親しそうに見えたからだ。

最初に雫に会ったときに思ったが、ある程度の交友があったから、

チャイムも押さずに縁側から寝室に踏み込んだのだろう。

そして食事の時に手伝いをしていたところを見ると、

家の勝手まで知っている仲、そう考えただけだ。」



銀子は感心する。
「素晴らしいですね。確かに雫とは交友があります。しかしですね。」

その笑顔が少し、寂しげにも見えた。

「私には、人の感情を汲み取れる人間性は備わっていないのですよ。」



少し考え込む樹。
「私も偉そうには言えないけどな。
大切なのは出来るか、出来ないかじゃなくてやるか、やらないか、だとは思う。」
と、いうか思った。と、一瞬付け加えかけて、やめた。

そうですけどね、といぶかしる。
「ご立派ですが、実際には難しいものですよ。」
「そうだな、確かに。」
自分のさっきの行動は、随分勇気がいったよな、と少し前の記憶を反芻した。


そして、と樹は質問を続ける。
「薬を入れたのは、きっかけづくりか?」
「まぁ、そうです。早急かもしれませんでしたが、

ああいうきっかけが無いといつまでも進展しそうにありませんでしたし。」
「過激なやり方だな。」
「ええ、申し訳ありません。」

まぁ、と樹は言った。
「結果的には君の望むところだったんだな?」
「そう思っていただければ幸いです。むしろ」

銀子は仰々しくかしこまった。
「予期していた以上にしてくださり、この三河屋、感謝の言葉もありません。」

皮肉ととれなくもなかったが、樹は苦笑する。
「私も君と同じように、人の気持ちを汲むのは苦手だけどな。

たまたまうまくいっただけさ。」
「よかったですね、今日はついてる日で。」

銀子は変わらずに飄々としている。
「あ、ほら樹。」
銀子は窓の外を指差した。さっきまでの豪雨は、嘘みたいにやんでいる。
「雨があがりましたよ、雫が泣き止んだのですね。」
晴れやかに銀子が笑った。
作り物に見えた今までの笑顔ではなく、

この笑顔が銀子本来の表情なのかもしれない。


樹は、少しそれを眺めてから言った。
銀子の表情を、じっと観察しているように。


「ところでさ。」
「うん?なんでしょう。」
「雫の妹は、その後どうしたのだろう?」


少し迷ったように、間を開けた。
「さあ?それがどうかしましたか?」
「妹がその後どうなったかは君は知らないのか?」
「存じませんね、何か気になるのですか?」


知らないのか、とぼけたふりかは判断できない。
いや、と一呼吸置いて樹は続けた。
「雫がトラウマを抱えてるように、

同じ体験をしたその妹も同じ痛みを持っているんじゃないかな、そう思って。」
「心配なのです?」
「かもしれない。」


青空が見えはじめた窓の外の空を眺めて樹は言った。

「雫が雨を降らせるようになったのは、火事以降らしいな。

大切なものを守ろうと必死に火を消そうとして芽生えた、

本能的に身についた力なんだろう。

逆に言えばそんな力が芽生えるくらい、大きな出来事だったわけだ。」


「そうなのかもしれませんね、無論確証は無いですが。」
「そうだな。あくまで、推測だ。」
「案外いい線かもしれませんよ?名探偵さん。」

銀子は茶化したが、樹は、表情を変えない。
銀子も気にしない様子でそのまま続ける。
「それで、その妹がどうかしましたか?」


ああ、と樹は語る。その姿勢は変わらなくそびえている。
「その、同じ体験をした妹は、別の家に引き取られた後、どうしたんだろう?」

銀子の笑顔は変わらない。
「私は知りませんし、十年前のことですから、

島の人間でも知ってる者は少なくなってきてるんじゃないですか」

随分とご執心ですね、とやや呆れるように付け加えた銀子。


樹は銀子を見据えた。
「これも推測なんだ。間違ってたら否定してくれていい。」
「推測が好きな日ですね、まだ何か?」


銀子は腕組みをし、微笑んだままだ。
樹は自分の考えを続けた。




「君が雫を救えない、と思った本当の理由は、ここにあるんじゃないかと思って。」

「…どういうことでしょう?」



ふーっ、と息を吐き、真っ直ぐ銀子の黒い瞳を見る。




「君が、雫の妹なんじゃないか?銀子。」



銀子の笑顔が消え、確かに動揺を見せた。
少しだが、びくっと体が震えたように見えた。


銀子はうつむいて沈黙した。

少しした後、深くため息をつく。




「…何故、そう思われました?」



顔をあげて、ゆっくりと開いた彼女の瞳は、紅に染まっていた。

燃え上がるような、美しくも眩しい紅に。


大変なことがおきたのです。

この小説、普段は携帯で書いているのですが、

今回のお話を書いているうちに、文字数が制限数をオーバーしたのです…うん。


仕方ないので、本来ひとつのお話でまとめるはずだったものを分割することにしたのです。


ので、これと次は少し短めに感じてしまうかも…。

とはいえ、この次も出来上がっているということで、土曜を待たずにうpすると思われます。きっと、多分、恐らく。


しかし、寒くなってきましたねえ(´・ω・)

あんまんがおいしい季節になってきました。


先日、近くのファミマにあんまんを買いに行ったら、夜中なので既に引き上げてしまってたのですよ。

そのときはポテチか何かを買って飢えをしのいだわけで。

悲しい思いをして家路についたのです。


で、また最近深夜にあんまん食べたくなってコンビニに行ったらなんと二個も売ってたわけですよ。

つい、買い占めちゃいましたね、大人買いですYO☆


そして、二個のあんまんぱくぱく食べたら、胃もたれしたわけで。


いい歳して何してるんだかと。

そんな年の瀬、師走の出来事でした。


というわけで今回が11回目、終わるのは13回目になっちゃいましたね。予定では。

今回も一人でも暇を潰していただける方がいれば幸いです。


ではどぅぞ↓




三河屋銀子は一人外に出て煙草を取り出した。

特に好きなわけではないし、

あまり知られたくも無いので、滅多に吸うことは無かった。


そもそも、嗜好のために吸っているわけではない。

吸わなければいけない理由があるのだ。
自分が席を外して二人きりにしたのは、気をきかせたのもあるが、それ以上の理由があった。

雫の話を受け止めることができないからだ。
恐らくこれから話す内容は想像がつく。

雫《しずく》のその痛みを、銀子は受けとめたかった。
しかし、決して出来ない理由が銀子にはあった。

それを目の当たりにすると、感情が揺れてしまう。
ただ予想をしているに過ぎない今でさえ、耐え切れずに出てきたのに。

煙草に火をつけて煙を吸い、そして吐き出す。
誉められたことでは無いが、仕方がないある一種の儀式だと思っている。

トラックのサイドミラーに目を向け、ため息をつく。
その目は紅に輝いていた。


自問する。

過去の罪に、いつまで囚われいるんだ、私は。

自答する。

もう後は飛び立つだけ。それだけなんだ。


この瞳になるたびに思う。
一本目を早めに切り上げ、二本目に移る。

煙草の先端をにらみ、集中する。
火花が散り、燃えだした。
煙草をくわえた。

煙を吸って、気分は大分落ち着いた。
この程度で平気かな。タバコをねじるようにして消す。
鏡に映る銀子の瞳は、また元の黒い瞳に戻っていた。




雫はゆっくりと息を吸い、語りはじめた。

どこから話せばいいのかな、と最初は戸惑っていた彼女だが、

話しはじめると堰を切ったように次々と、吐き出すように語っていった。

「もう十年になるのかな、火事で家族を失ったこと。」
そう切り出した。


「火事か…。」
「火はあっという間に広がったみたい。私が寝てた間に、だけど。」
「眩しいものが苦手なのはその影響か?」
「うん、あの家族を一瞬で崩壊させた眩しい光。未だに苦手かな。」


心に傷が残っても仕方ないな、と思いつつ話を聞く。

「家族は、両親だけ?」


ううん、と首を振る。
「私には3つ下の妹がいてね。彼女だけは無事だったんだけど。」


辛そうだった。
大丈夫、といいながら、肩で息をしているようだった。
雫にとっては、忌むべき記憶なのだろう。見ていてそう思えるほどだった。


「当時の駐在さんが伝えてくれたのだけど、

妹の火の不始末が原因だったみたいなの。」
うん、と樹《いつき》は黙って聞く。

雫はうつむいて話している。まるで罪を告白するかのように。



「その時妹に、強くあたってしまったの。

少し考えれば、彼女も辛いのがあたりまえだったのに。

やり場のない悲しみを、怒りにして彼女にぶつけてしまったの。」


私は、自らの居場所と妹を、切り捨てた。

擦れた声だが、聞き取れないほどではなかった。

雫の悲しい告白だった。


「彼女は別の家に引き取られて、私達は離れ離れになった。」

声が悲痛さを増してくる。


「居場所はもうお互いしかいないと知ってて、私が妹を切り捨てたの。」

何かにすがりつくように、一心に語る。


「自分の居場所を失うと共に、彼女の居場所も奪った。

火事も辛かったけど、それはもっと辛かった。」
最後は、吐き出すように。



「そうだったのか。」
「そして、彼女は別の子供がいない家庭に引き取られて、

私は紡《つむぎ》さんに拾われた。」
そして…、と何か言い掛けたが、そこで止まった。

樹は黙って聞いていた。雫は知らずか口語口調になっている。
少しずつ、心を許してもらえているのだろうか。

「でも紡さん、いなくなっちゃって。」
死という言葉を避けた辺り、まだ完全に受け入れるに至っていないのかもしれない。

心の膿を、少しずつ出しているようにも見えた。
「優しい人だったな、紡さん。

そこにいるだけで、自然とみなを穏やかな気持ちにしてくれる人。」

「ことりが言っていたよ。私とは全く違う雰囲気だって。」
「ことりは、紡さんが大好きだったからね。

お葬式の時も一人離れたところでずっと泣いてたみたい。」

うつむいたまま、独り言のように語り続ける雫。

彼女は確かに、震えていた。

そこまで話し、顔を上げた雫の目には大粒の涙が溜まっている。
紡が亡くなってから、ずっと我慢し続けて来たのだろう。

誰にもいえず、想いを押し殺して。

「あれ、泣いてる。情けないね、あはは…。」

そんな雫を見ていて、なぜそうしようかと思ったかはわからない。

肩に手を回し、軽く抱き締める。
そっと囁いた。
泣いたって、いいんだ。
そう、一言。

一瞬、体を硬直させて戸惑っていたが、

張り詰めた糸が切れたように、雫は声をあげて泣きはじめた。

強く抱き締めたら消えてしまいそうな華奢な少女を腕に抱え、樹は目を閉じた。

一瞬が数時間にも感じられた。

私はこの人の痛みを、少しは分かち合えたんだろうか。



ひとしきり泣いて、急に力が抜けたかと思うと、雫は床に崩れ落ちた。

はっ、となる。
「雫!」

自分でも出した記憶が無い、うろたえた声を出した。
体を抱き起こす。
酷く衰弱しているようだった。
大分、無理をしていたのだろうか。

戸口から声がした。
「医者に診せましょう。車へ。」
そこには銀子が無表情のまま立っていた。

「銀子、頼む。」

雫を抱えて車に向かう。
外は、打って変わってひどいどしゃ降りだった。
さっきまで、晴れていたはずなのに。

察したか、銀子が独り言のように言う。
「雫の、涙雨ですね。」
雫の痛みが、雨となって七色に降り注いでいた。

足場がぬかるむ中、トラックで医療所まで運ぶ。

樹は、ただ祈っていた。
雫の無事を。
そして一方では、自分にこんな感情が残っていたのかと、

頭の片隅で考えてもいた。

診療所は、例の黒く焼けた家の近くにあった。
いま思えば、あれが雫の生家なのだろうか。


診療所の前に車を停め、強引とも言えるかのように押し開ける。

物音を聞いて出てきた医師は、白髪でしわの目立つ、

60はとうに過ぎていそうな老人であった。
「あなたが医師か?彼女を診てほしい。」

しかし老医は、雫を一目見てあっさりと言った。
「ただの疲労じゃ。そこへ寝かせておけ。」

そういい、医師はまた奥に引っ込んでいった。
あっけにとられたが、言われるがまま、診療所のベッドに寝かせた。


銀子が傍に腰掛け、雫の顔にかかった髪を払いながら、見つめている。

「…雫は、きちんと話せませたか?」
おもむろに口を開く銀子。
「…ああ。火事で家族を、居場所を失ったんだな。」
「そうです。そして、眩しいものから今だに逃れようとしています。」

「そうだな、一種のトラウマか。」

こくり、と銀子は頷く。
「日光も苦手で、日中に外に出ると必ず曇りか雨になるらしいですよ。」
「ある種、逃避か。自分で太陽を隠してしまっているのかな。」
「でしょうね。」

そして銀子は樹に向き直り、改まる。


「樹、感謝します。そして、申し訳ありませんでした。」

改まってどうしたのか、とそちらを向いた。
「感謝されるほどのことはしてないが、謝られることはもっとしていないな。」

「いえ、あなたのおかげで雫は大分楽になったのではないでしょうか。

そして、感謝すると同時に、私はあなたに謝らなければいけないのです。」

「…なぜだい?」

ふぅ、と銀子は一呼吸置いた。
そして、しれっと一言、言い放った。

「あなたが倒れた原因を作った毒きのこ、あれををいれたのは私です。」

…なんだって?


光と同時に遠雷の音が響いた。



12月になりました。今年もぼちぼち終わりですねぇ(´・ω・)


もういくつ寝るとクリスマス、大晦日、お正月。

イベント盛りだくさんでござる。

正月には実家帰ります、きっと…w


今回で記念すべき10回目のうp。

毎度読んでくださってる方(いるのかw)にとって、少しでも暇をつぶしていただければうれしいのです。



そうそう、順調にうpすれば再来週の土曜にいったん完結なのです。

もちろん、まだ続く予定ですが、一区切りがせまっているのです。


名前が読めないというご指摘をいただきました><

樹(いつき) 雫(しずく) 紡(つむぎ)の3名だけ覚えていただければ、あとはきっと…w



登場人物録はまだもう少し後のようで…。



では、第十回、今宵もよろしくお願いいたします。



徐々に意識が戻ると、そこは真っ暗な部屋であった。
頭も体も重いが五体満足ではあるようだ。

身体を起こそうとして、物理的な重さも感じた。

雫だ。
彼女が私の体に横たわっていた。
どうやら眠っているようだ。

雫を起こさないように体をずらし、布団から出る。

枕元の時計を見ると12時をさしていた。

雫はぐっすり寝てるようだったので、そのまま抱き抱えて布団に寝かせた。

よく見ると、頬には泣き跡があった。
自分が倒れたから?
今日初めて会った相手に涙を?

少なくとも献身的に付き添ってくれたであろうことはわかる。

ともかくしてから、蚊帳の外に出ると、どうやら重厚な黒いカーテンが敷き詰められている。

雫と最初に会った部屋だと、ようやく理解した。

手探りでドアノブらしきものを見付け、部屋を後にした。


瞬時に強い光が差し込んできた。
予想だにしなかったため、一瞬目がくらむ。

24時ではなく、翌日の正午まで意識を失っていたらしい。


光に目が慣れてくると、今度は見知った部屋に出た。
意識を失うまで食事をしていた部屋だ。

「おや、気づかれたのですね。」

扉を開けると同時に銀子の声がした。

御気分はいかがですか?と、読んでいた本を閉じ、グラスに冷えたお茶を淹れ、樹に差し出した。

大丈夫だ、と言ってそれを受け取る。

「雫はどうしました?」
「ぐっすり寝ていた。彼女はずっとああして?」
「ええ。先ほどお茶を持っていった時はかろうじて起きていたようですが、さすがに限界だったようですね」
「そうか、昼は寝る時間だったな。」

そうです、と銀子がうなずいて返す。

さてと、と卓について改めて見回す。
そこには3人の人物がいた。

一人は三河屋銀子、もう一人は昨日会った柴崎ことりだが、あと一人は見知らぬ少年だ。

日に真っ黒にやけた小柄な少年で、何故か申し訳なさそうに樹を見た。

「ほら、いさみ。」
ことりが少年に向かって睨むように言う。

いさみ、と言うのは名前なのか、と一呼吸あけて理解した。

「初めまして、布田いさみです。えっと…。」

いさみはことりをちらりと伺う。
助けを乞う目か、もしくは指示でも待っているのか、どちらにせよ、2人の上下関係は明らかだ。

「素直に言えばいいことじゃん。さっさと言えよ。」「あ…、うん。」

少年はまた樹の方を向き直った。

「本当に、ごめんなさい。僕が取ってきたきのこに毒きのこが混じってたみたいで。」

「毒きのこ…?」

流石に樹も目を丸くした。


少年はうまく説明ができず、ことりは終始何も言わなかった。

見かねた銀子が助け船を出した。


ことの顛末はこうだ。
まず食事の後、樹が急に倒れたため、医者を呼んだ。
医者の見方によると、病的なものではなく、恐らく夕食に何かが混入したのではないかということだった。

そこで呼ばれたのがこのいさみだった。

彼にはどうやら、本質を見抜く力、があるらしく、検証のために呼ばれたそうだ。

原因を究明しに来た少年は、いまここで小さくなっている。
「それで、何で君が謝っているんだい?」

「ええと、それは…。」

業を煮やした短気なことりが横槍をいれる。

「あんたが倒れた原因が、いさみの拾ってきた毒きのこなんだよ。」

どうやら少年は、本質を見抜く力を使って山で食べれるきのこを取り、それを売って生計を立てているらしい。

今日の食事ではそのきのこが使われていたが、わずかに毒性のあるきのこが含まれていたそうだ。

「いさみはずっときのこを売ってるけど、一度も毒きのこなんて混じってなかったんだけどな。」
と、不満顔のことり。

「しかも、樹だけでなく私も雫も食べていたんですよね。」
どちらかといえば興味が無さそうな銀子。

またどうして、といぶかしる二人であったが、樹にははっきり理由がわかる。

「運が悪いからだよ。」

たまたま樹だけが口にしたのが毒きのこであった、それだけのことだ。

「確かに、さっき残り物を見せて頂いたところ、毒のきのこはせいぜいひとつ、ふたつくらいでしたけど、それでも樹さんだけなんて…。」

「いや、そういう運命なんだよ。君が毒きのこを取ってきたのも、たまたま私だけが口にしたのも運が悪いからなんだ。」

銀子もいさみも全く納得顔とはいかなかったが、ことりがそれをさえぎる。

「じゃ、そーゆーことで。よかったじゃん、死ななかったし。万事解決、めでたし、めでたし。」

それだけ言い切ると、じゃ、帰るから、と言って部屋を出ていった。

いさみはおどおどとことりをフォローする。
「あの、ことり、悪気はないんです。今日ついてきてくれたのも、僕が心配で来てくれたんです。」

「そうなのか?」

「はい。僕、きのこを売れなくたったら、生活出来なくなっちゃうの、ことりは、知ってるから。」

「いさみの居場所が、無くなっちゃうからね。」

寝室のドアの方からだった。

雫だ。

「おはよう、樹。具合はどう?」

「少し頭が重いだけだ。大丈夫だ、問題ない。」

よかった、と言って雫は隣に座る。

「いさみは、両親がいないから、一人で住んでいるの。きのこが売れなくたったら、生きられなくなってしまうから。」

「そうなのか。」

「はい。困ったときはことりや他の近所の人がいますけど…。」

言葉をいったん切るようにぼそり、と雫が言う。
「居場所が無くなるのは、辛いよ。」

かすかだが、確かに樹の耳には届いた。

とにかくにも、確かに死んだわけでもなし、後遺症が残ったわけでもない。
反省をするいさみをこれ以上責める道理もなかった。

「大丈夫、もうなんともないしな。それより…。」

樹はちらりと玄関の方を見る。

「ことりが君を待っているみたいだし、行ってあげたほうがいいんじゃないか?」

え、と樹の指す先に視線が集まる。
扉の裏からがたっ、という物音がした。

いさみは嬉しそうに駆け出した。

ことりもいいとこあるじゃないか、と思った樹だが、「痛っ、痛いよ~」といさみの声がしたため、撤回することにした。


「まぁ、大事に至らなくて何よりですよ。」

銀子が再び口を開く。

「樹、本当にごめんなさい。大変なことになってしまって。」

「いや、さっきも言ったけど私は本当に運が悪いんだ。雫が気に病むことじゃないよ。」

「まぁ、よかったですよ。あのまま亡くなっていたら、雫まで後を追うかのような取り乱しっぷりでしたから。」

「え、あ、ちょっと、銀子」雫が慌てる。

「それは、有り難いな。」
そんな雫を見て苦笑した。
同じく笑っていた銀子だが、急に真剣な表情に変わる。
「雫、気になるんですが、なぜそこまで樹にこだわるのです?」

銀子の疑問はもっともだ。
世話になった女性の息子とはいえ、所詮初対面の他人だ。
自分にここまでしてくれる理由がわからない。

雫はまだ赤くなりながらうつむいている。

「だって。」
少しの間の後、蚊の鳴くような声で言った。
「樹も、寂しいんじゃないかなって、思ったから。」
一瞬思考が止まる。
「寂しいって、私が?」

こくり、とうなずく。

「母親を失ったのだから、もう、居場所がないんじゃないかって。」

「それで、自分がなろうとしたんですか?」

「うん、居場所が無くなるのは、辛いから。」

先ほどいさみに言った言葉を雫はそのまま繰り返した。
雫が極端にこだわっている言葉、[居場所]。
執着するような様相まで見せる彼女。

彼女は私と自分を重ねて、こう言ってるのだな、と想像はつく。
それを聞くのは簡単だが、私には受けとめることが出来ない。

空っぽだから。

いつもどおり、そこで話を切ろうと思った。

しかし、心の中で何かが鳴った。

人の心から、逃げるのか?
人の心を受けとめたことがないから、単に怖がっているんじゃないか?

お前がいま、目の前の人にしてやれることはなんだ。
自問自答などする以前に、もうわかっていた。

目の前の女性は、何事もない表情で、悲痛な心情を隠している。

その心情を少しでも言葉にさせてあげるべきなのだ。

昔の仕事仲間で、数少ない友人である男が言っていた。
「思いで通じあうなんて、嘘っぱちだ。言葉で伝えないと欠片も伝わらねえんだよ。」

それを体現するかのように常に喋ってばかりいる男だった。

そのときは、お前からは気持ちが伝わりすぎるから、もう少し思いだけでいいんじゃないか、と返した。

だが、今は言葉が必要だ。選ぶ必要はない。
彼女が想いを吐き出せさえすれば、それでいい。

それがたいした事じゃなくても、間違っていても、それでいいんじゃないだろうか。

樹は意を決した。

「雫、何かあったのか?君が、居場所を失うことが。」

びくっ、と雫が体を震わす。
聞かれることは、予想していなかったのだろうか。

「大丈夫、話してくれていい。」
「そう…かな。」


雫の唇がゆっくりと動く。

彼女は少しずつ、秘めた想いを語り始めた。