最近寒いですね。

おかげで遅々として小説が進みません。え?関係ないって?HAHAHA☆


小説はほぼ最後の展開まで見えてはいます。

ただ、書いて見直して書き直してがエンドレスゲームで…うん。



さて続き。

ちょっと場面が変わります。





暗闇の中、雨宮雫(あめのみや しずく)は目を覚ます。

枕元のあかりをつけ、古い型の目覚まし時計で時間を確認した。



時刻は3時半を少し過ぎたあたり。



眠たい目をこすりながら、ゆっくりと体を起こす。



今日は来客の予定があったが、まだ恐らくはこないであろう。

どんな人なのだろう?

来るのが待ち遠しい。

でも会うのが少し怖い。




あの方、に息子がいることは聞いていた。

十年以上前に離れてはしまったが、唯一の血のつながった家族であること、そして、願わくば、成長した姿を一目見たいこと。そんなことを話してくれた。




でも、あの方は逝ってしまった。願いはかなうことのないまま。




今日はその息子が来る。こんな日が来るとは思っていないわけではなかった。
しかし、いざ来ると思うと戸惑いもある。



雫はふと、あの方、に出会った時のことを思い出す。


十年前のことだった。

雫は両親と妹、家族4人でこの島で過ごしていた。



穏やかな両親と、引っ込み思案の妹。

この島のみならず、世界を見渡しても、よくある一般的な家族であった。




そんな家庭の中、幸せに暮らしていた。


願わくば、永遠に続くことを無意識に願いながら。




しかし、崩壊は突如起こる。




深夜のことであった。


火の手が突然家からあがったのである。




今日は特に蒸し暑いなと思いながら、眠りが浅くなったところに、妹の声が聞こえた。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん」




妹は錯乱状態で雫の体を揺さぶってくる。


雫が目を覚ますと、回りには一面炎が立ち込めていた。




雫と妹の部屋は1階、両親の部屋は2階にあった。


2階に行く余裕はありそうには無かった。

両親は頼れない、なんとか逃げなければ。




妹を連れて、外に出る。


その思いが雫を動かした。




とにかく、煙や炎を吸ってはいけない。


妹にも息を止めるように伝え、まず身をかがめた。




枕もとに水差しがあったのは幸いだった。


気休めではあるが、中の水を被り、妹を抱きかかえるようにして炎の中へ進む。




十年以上、住み慣れた我が家は、まるで地獄のように赤い炎に包まれていた。


冷や汗ともとれない汗が溢れてくる。
この炎の中を突き進まなければ行けないのだ。

しかし、目をつぶってでもある程度は進める。


腕のなかで妹が不安そうに見つめてくる。
せめて、この子は私が守らないと。
「お姉ちゃん、お父さんとお母さんは?」
その言葉が胸を突く。

私だって、知りたいよと言いたいのをぐっとこらえて代わりにこう告げる。
「大丈夫、きっと先に外に出てるよ」
雫は、わかっていた。
先に外に出てるわけが無い。何故なら、外に出るより真っ先に私達を助けてくれる。
それが無いということは…。
嫌な想像を断ち切る。
私のすべきことを、まずしないといけない。

家の南側にある、縁側まで来た。
サーカスでライオンがくぐる火の輪のように、炎が囲っている。
しかし、飛び込めないことはなさそうだった。
ここを抜けさえすれば、すぐ表に出れるはず。

妹が怯えながら雫を見つめる。
「大丈夫、怖くない」
妹に言ったつもりが、自分を鼓舞していることに気付く。
怖いし、足も震えている。でも、やらないと。

雫は意を決して、炎の中に飛び込む。
真紅の光がぱっとまぶたの中に広がり、間もなく消える。土のうえに身を投げだすように、二人は倒れこんだ。





振り返るとごうごうと音を立てて家は燃えている。



為す術もなく雫は心の悲鳴をあげる。

やめて、壊さないで。


やめて、お父さんを、お母さんを、奪わないで。


やめて、やめて、やめて…。





その時であった。

祈りが天に通じるとはこういうものなのか、空が急にくもり、怒涛のように雨がふりだす。


勢いのついた火はそう簡単にはおさまらなかったが、確実に勢力を弱め、そこに火事を目撃してきた近所の住民が、消火活動を始めてくれた。










「この規模の火事にしては早く消火できたと思う。」


消火活動をしてくれた地域住民は後日、そう言った。






だいぶ落ち着いてはいたものの、その言葉は雫にとっては何の慰めにもならなかった。


両親の亡骸が立派な黒い棺おけの中におさまっている。


奇跡的に、早い鎮火ではあったが、炎ではなく煙にやられたらしい。一酸化炭素中毒だった。


遺体はきれいで、うっすら笑みを浮かべているようにすら見えた。




「お前たちだけでも生きていてよかった」


まるで、今にも起き上がって頭をなでてくれながら、そう言いそうな表情で、両親は眠っていた。


別れも、告げられなかった。最後の夕飯は何だったっけ。そんなことをふと考える。
さっきまでそこにあった、ありふれた日常は、もう永遠に見れない光景であった。

火葬場の煙突から煙があがる。


「これ以上、お父さんたちに熱い思いさせないでよ。」


雫はぼそりとつぶやいた。






葬儀を終えて、親しい人以外は去ったときだった。


火事の検分を終えた駐在が、雫のところに来る。


「えーと、雫ちゃん、火事の原因なんだけど…」




駐在は言いよどんでいる。事情があるのだろうと察した。


しかし、両親が死んだというのに、秘密ですよ、では納得もいかなかった。


「いいですよ、私も事情は知りたいですから。」




駐在は、生来のいい人、なのだろう。


嘘がつけない駐在は、残酷な事実を雫に告げた。




「実はね…」


雫の顔色が変わる。

足が無意識に床を蹴る。




雫は、我を忘れ、部屋の隅で泣いていた妹に歩み寄る。


座り込んでうつむいていた妹の袖をつかみ、その場に引き倒した。


妹は呆然と雫のほうを見つめる。


しばしの後、妹は事情を察したか、泣き顔でごめんなさい、とぼそりと言う。




それがさらに雫を苛立たせた。


胸倉をつかみ、ほおをはたく。恐ろしいほど小気味いい音が響いた。




周りの大人が雫を止める。


どうにかしてふりほどこうと暴れるが、大人の腕力に押さえつけられては流石に動けない。


「し、雫ちゃん、どうしたんだい」




半狂乱になって雫は叫ぶ。


「お前が!お前がお父さんとお母さんを殺したんだ!」


呪いの声があたりに響いた。






人のいい駐在はこう言った。




「どうやら、蚊取り線香の火が、蚊帳に火が燃えうつったらしいんだ。

天井のほうにも燃え移って、もうどうにも出来なかったらしい。」


駐在は、元気に生きるんだよ、とか妹と支え合っていくんだよ、などを言っていた気がする。

しかし、とうに耳には届いていなかった。




蚊取り線香は、妹のつけたものに間違いなかった。
前にも一度、同じことがあった。最近マッチで火をつけれるようになった妹は、しきりに火を点ける役をしたがっていた。

蚊取り線香もその一環だ。


普段は雫が見ながら火を点けるが、目を離すこともあった。

一度、雫が見ていない時に妹が蚊取り線香に火をつけた時の事だ。
蚊帳の近くに置きすぎてぼやを出したことがある。

それ以来、一人で火をつけちゃだめだよ、そう言っていたのに。

妹は繰り返した。
今度は、雫の居場所まで奪っていった。


あいつのせいで、お父さんが。


あいつのせいで、お母さんが。


あいつが、全てを私から奪っていったんだ。






妹に向けていた愛情は、全てが憎悪に変わっていた。