8月8日、僕が親しくさせて頂いているギャラリーモリタさんにて、

大黒屋さんと現代アートについて語る会を開かせて頂きました。



この会のことを語るためには、今から2ヶ月半ほど前にあたる、

5月24日まで遡る必要があります。



その日、僕はブックスキューブリックという書店で

「客はアートでやって来る」(山下柚実・著)という

一冊の本と出会いました。

ふと見つけた路地裏のように



そこには栃木県の板室という場所にある温泉旅館、

大黒屋さんが現代アートを取り入れた独自のアートスタイル経営で、

リピーター率73%の黒字経営を続けている、ということが

書かれていました。

現代アートと旅館経営という、決して交わらないであろう二つが

結び付いているという点が斬新であり、僕は感動して本を購入しました。



6月25日、大黒屋さんにすっかり惚れ込んだ僕は、

実際に行って、自分の目で、肌で、どんなものか確かめてみたいと

思うようになり、大黒屋さんに宿泊の予約を入れました。

さらに、その大黒屋さんの16代目オーナー(※創業461年)であり、

アートスタイル経営の創始者である室井俊二さんにもお話を伺いたい、と

その旨を室井さん宛てにメールをしたら、その日のうちに返信があり、

会って頂けることになりました。



宿泊日は7月18日。

東京から電車に揺られること3時間ほどで、JR黒磯駅へ到着。

そこからバスで35分ほどで大黒屋さんの目の前のバス停に着きました。

「大黒屋」という旅館名の由来にもなった大黒橋を渡り、

僕は遂に大黒屋さんの敷地に足を踏み入れました。

ふと見つけた路地裏のように



ふと見つけた路地裏のように



ふと見つけた路地裏のように



ふと見つけた路地裏のように



大黒橋を渡った瞬間から、言葉では言い表せないような感覚、

それは何と言うか、ワクワク、ウキウキ、という心躍るような気持ちで、

初めて体験するような不思議な感覚に包まれました!

これが大黒屋さんの持つ独特の空気なのか、と僕は興奮しました!



手入れの隅々まで行き届いた美しく広大な日本庭園には、

大黒屋さんの代表的なアーティスト・菅木志雄さんの作品、

「天の点景」(1991年制作)が飾られていました。

周囲の自然風景に完全に溶け込み、作品と風景が調和しています。

ふと見つけた路地裏のように



続いて、同じく菅木志雄さんの「木庭 風の耕路」(2009年制作)。

手前に見えるのが意識の門で、石の上に不安定に置かれた木のブロックは、

常に流動していく、移りゆくすべてのものを表現されているそうです。

ふと見つけた路地裏のように






旅館でチェックインを済ませ、部屋で夕食を戴いた後、

僕は居ても立ってもいられなくなり、館内のアートを見て回りました。

とにかく館内の至る所、ロビー、フロント、廊下、部屋の各所に、

抽象的な現代アートが所狭しと並べられていました。

それらを歩きながら見て回ると、楽しくて仕方がありませんでした!

ふと見つけた路地裏のように






大黒屋さんが他の旅館とは違う点、

それは徹底した経営哲学や方針、ポリシーを貫いている点です。

下の写真の注意書きは旅館の要所、要所に貼り付けてありました。

対象となるお客様、とわざわざお客さんを選ぶような書き方をしていますが、

これがどういうことか、というと、旅館の方針をこうして明確に

お客さんに打ち出していくことで、

それにマッチングしたお客さんだけを呼ぶことが出来るようになります。

ということは、お客さんから選んで頂けたということで、

変に旅館側もお客さんに媚びることなく、

誇りを持ってサービスに徹することが出来るようになるのです。

ふと見つけた路地裏のように






「保養とアートの宿」ということですが、

保養という面でも大黒屋さんは素晴らしかったです。

夜は太陽温泉、ひのきの湯、そして韓国の黄土(おうど)という

壁で作られた「アタラクシア」というサウナに入ったのですが、

それがまたとても気持ち良かったです。

アートが心を癒すなら、美味しい料理・気持ちの良い温泉は

身体を癒します。心身を共に癒す大黒屋さんは、

まさに「保養とアートの宿」と言えますね。






翌日も朝4時半に起きて、館内や早朝の河原を散策。

室井さんとは朝食後の8時から9時半までの一時間半の間、

フロントの裏の個室にご案内して頂き、お話をさせて頂きました。

室井さんは温厚な人柄でしたが、ことアート論になると、

エネルギッシュに熱く語られるような方でした。

こちらの事前に用意していた質問にも誠実に答えて頂きました。

僕はノートに必死にメモを取りながら質問をぶつけていました。

あっという間の時間は終わり、僕は礼を言って部屋を後にしました。



「アートの精神で仕事をする」というのが、一番印象的でした。

そうすれば、自然に行なう仕草の一つ一つが美しくなる、と。

それがやがてはその場の「空気」やその人の「空気」を作る、

ということなんだ、ということがわかりました。

大黒屋さんに来た時のあのトキメキの理由はここにあったのです。






・・・と、このような僕の大黒屋さんに行った体験談を、

120枚を超える写真を紹介しながら僕の口から語る会を開いた、

というわけなんです。僕にとって実は初めてのトークイベントで、

すごく緊張もしたのですが、おかげさまで喜んで頂きました。

平日の夜、ということで参加者は8名でしたが、

皆さん熱心に興味を持って聞いて頂いていて、嬉しい限りでした。

さらに、会が終わっても色々なお話で盛り上がりました。



会へ参加された方へ渡すテキスト作り(3ページ分)から、

紹介する写真の選抜、順番、全体のタイムスケジュール(90分)管理など、

一人で全部やりましたので、これはかなり良い経験になりました。

あと、紙に書いたメモを見ながら話すと説得力が無いので、

何も見ないで当日は話そうと思い、何も見ないで話しましたが、

意外にも暗記しているもので、すらすらと言葉が出てきました。

大黒屋さんのことについては何度もノートにまとめたり、考えたり、

ずっとしていましたから、もう完全に記憶に刷り込まれていました。

声の調子、抑揚なども一本調子にならないように気を付けたり、

時には体を使って説明したり、飽きさせないようにも気を配りました。

最後に思ったのは、相槌を笑顔で打ってくれる人が一人でもいると、

救われますね。一人で説明しながら長時間話していると、途中で、

本当に皆さんに伝わっているか、が不安になるんですよね。

独りよがりで突っ走っていないかな、と。

その時に、「聞いてるよ」「伝わってるよ」という人がいると、

すごく安心しますね。だから、自分が逆の立場になった時は、

ニコニコと相槌を打ってあげようと思いました。






一冊の本との出会いから、実際にその旅館へと足を運び、

さらに、オーナーの室井さんともお会いしてお話をして、

それを自分なりに原稿にまとめ、人前で話す、という

この流れというものには自分でも驚いていますが、

これも純粋なアートの精神なんだろうと思います。

理屈抜きの情熱、というか、

理性でなく感性で動く気持ち、というか、

そういう純粋さは今後も大事にしていこうと思います。






最後に、こんな会を開かせて頂いた、

ギャラリーモリタの森田さんに感謝します。

ありがとうございました。