こんにちは!

 

今日から大テーマの、公務員の労働権です。

 

公務員の争議権の禁止規定は憲法28に対して合憲だが、一律禁止か、ある制約の範囲内なら違法性が阻却されるのかで判例が変遷しています。

 

整理すると、以下のとおりです。

第Ⅰ期:争議権禁止規定合憲、公務員の争議権を全否定。
第Ⅱ期:禁止規定は合憲だけど制約の範囲内なら違法性は阻却される。

第Ⅲ期:再び全否定


今回は、第Ⅰ期と第Ⅱ期までをみていきます。

 

 

公務員の労働基本権

(1)公務員労働者の権利の制限
   警察職員・消防隊員・自衛隊員・海上保安庁職員など

       ⇒ 三権とも禁止
   非現業公務員・地方公務員

       ⇒ 団体交渉権の制限及び争議権の禁止
       ⇒「スト権をもとめるスト」の争議行為が繰り返され、

        現行法制の合憲性があらそわれてきた。

   現業公務員・公共企業体の職員

       ⇒ 争議権の禁止

   *現業公務員は国が行う事業で非権力的なものに従事する職員。独立行政法人化や民営化によって段階的に規制対象から除外されてきている。

 

判例の展開
 第Ⅰ期
 公務員の労働権制限に関し、最高裁は当初は「公共の福祉」論・「全体の奉仕者」論で安易に合憲としてきた。
 第Ⅱ期
 次に、公務員の労働権の制約は必要最小限でなくてはならないことを原則として、刑罰の謙抑主義・違法性相対論が採用された。刑事罰や懲戒罰からの解放が目指された。
 第Ⅲ期
 しかしその後、第Ⅱ期の判例が否定され、「国民全体の共同利益」論や勤務条件法定主義=議会制民主主義論を根拠として、労働基本権制約を合憲とする判例理論が展開された。「公務員の地位の特殊性」「職務の中立性」を根拠として争議行為全面一律禁止が正当化され、公務員の労働基本権や政治活動の制約が判例上定着した。(第Ⅲ期)

第Ⅰ期の判例群;
 政令201号事件判決
 三鷹事件判決
 国鉄檜山丸事件判決
 地方公務員についても争議権を全否定する判例


第Ⅱ期の判例


①公労法適用化にある公務員等の労働基本権(全逓東京中郵事件)

(憲法判例百選Ⅱ―139) 「第Ⅱ期」の判例
 被告人(全逓信労働組合の役員ら)は、春季闘争の際、勤務時間にくいこむ職場大会に参加するよう従業員によびかけ、実際に38名の従業員を職場から離脱させたので、郵便物不取扱罪(郵便法79-1)の教唆罪にあたるとして起訴された。なお、公共企業体等の職員は公労法により争議権を否定されている。
 最高裁は、憲法28の労働基本権の保障は私企業の労働者だけでなく公共企業体職員、国家公務員・地方公務員にも原則として及ぶとし、憲法15(全体の奉仕者の規定)をもって労働基本権をすべて否定することは許されないとした。公務員等は、その職務の内容に応じて私企業の労働者と異なる制約を内包しているにとどまるとし、第Ⅰ期の安易な合憲論を否定した。(原則適用論)
 そのうえで、公務員等の労働基本権の制約は以下の場合に合憲となるとした。
①労働基本権を尊重確保する必要と国民生活全体の利益を維持増進する必要とを比較衡量して合理性の認められる必要最小限度のものにとどめられなくてはならない。
②職務または業務の停滞が国民生活に重大な障害をもたらすおそれがある場合にこれを避けるために必要やむをえない場合
③違反者に対する不利益に対しては必要な限度をこえてはならず、刑事罰については必要やむを得ない場合に限る。
④労働基本権を制限することがやむをえない場合は、必要な代替措置を講ずること。
 以上の諸点から、公労法の争議権禁止規定は憲法28に違反しない(この点につき結論においては第Ⅰ期と同じとしつつ)が、正当な争議行為にはおいては刑事罰の違法性が阻却されるとした。(合憲限定解釈)
 本件については、労働組合法1条2項の正当な争議行為であれば郵便法79―1の郵便物不取扱及び遅延の罪の違法性が阻却されるが、これについて審理されていないため、原審破棄差戻しとなった。
 整理すると、
 ・公務員・公共団体職員も原則として憲法28の労働基本権の保障は及ぶ。
 ・ただし、その職務の内容に応じた制約を内在的制約として内包する。
 ・その制約が憲法28に照らし合憲であるためには上記①から④の4条件がある。
 ・法律で争議行為が禁止されていても、それが正当な争議行為であれば、労組法1-2により違法性が阻却される。
 となる。


②地方公務員の労働基本権

(東京都教組事件)(憲法判例百選Ⅱ―140)(第Ⅱ期の判例)
 東京都の教職員組合(都教組)が、教職員に対する勤務評定制度導入の施策に反対して東京都の教育長との交渉を要求したがこれを拒否されたので、加盟組合員に一斉に有給休暇をとって集会に参加するよう指令し、実際に約24,000名の教職員がこの集会に参加した。都教組の幹部らが同盟罷業(ストライキ)の遂行をあおったとして地方公務員法違反で起訴された。地方公務員法のあおり禁止規定が憲法28に違反するかいなかがあらそわれた。
 最高裁は上記①判例を踏襲しつつ、4条件に照らして地方公務員の行為禁止規定が憲法28に違反する疑いがあると初めて言及した。ただし、法律の規定は、可能な限り、憲法の精神に即して、これと調和するよう合理的に解釈されるものであるという、いわゆる「合憲的限定解釈」をし、本件の地方公務員法の規定についていうと、法律の文言上は争議行為・あおり行為が禁止されていても、争議行為自体の違法性が強くあおり行為も違法性が強い場合にのみ刑事罰がかされるとした。(二重のしぼり論)このような限定を前提として、地方公務員法の争議禁止規定は合憲としつつ、違法性を相対化することで地方公務員の争議行為の一律禁止の制約を緩和した。そのうえで、被告人らのあおり行為は争議行為に通常随伴する程度の違法性しかないことから、処罰の対象とならないとした。
 これに対しては、5裁判官が第Ⅰ期の判例の立場をとり、合憲的限定解釈は一種の立法行為にほかならず法解釈の域を逸脱しているとし、地方公務員法の争議禁止規定は文言通り一律禁止で合憲とすべきであって、被告人を有罪とすべきとした。

 

 

ここでいったん区切ります。

 

次回は第Ⅲ期になります。

 

お楽しみに!!