グニャリと歪んだ世界を背に、反射的に妻の顔を思い浮かべた。

この歪みに呑み込まれてはいけない…!

そう思ったけれど、身体は意思とは無関係に重く何かに引きずられるようにブラックホールの中に落ちていく感覚に包まれていった。

薄れてゆく記憶のはじで、妻の寝顔を思い浮かべた。

隣で妻の寝顔をみているとき、とても安らかな気持ちになれる。

少し丸まり、安らかな顔で寝息をたてて眠る妻を愛おしいと思う。

面と向かって愛してるとか、好きだといった言葉を投げかけたことは少ない。

照れが邪魔をし言葉には出来ない。

ただ、彼女の寝顔をみていると、自分には守るべきものがあるのだと強く思う。

前髪を触り、静かに微笑む。

そう私は、カノジョを守らなければならない。

カノジョの笑顔が絶えないように。
いつも無邪気なその顔でカノジョが安心していられるように。


気づくと、節々がひどく痛んだ。

おそらく酒に何か薬を混ぜられたのだろうと、経験上認識をした。

真っ暗な部屋の中、天井近くの窓から僅かに差し込む光だけが頼りだった。

いけない、妻が心配しているだろう
今が何時かはわからないが、カーディガンを羽織って今かいまかと帰りを待っている妻の顔が浮かぶ。

機械工学、新しい科学技術の進歩

疑問を抱きながらも、そのプロジェクトに加担をしていたのは、他でもない妻であり、私の子ども達を守る為だった。

「Mr.長谷部、気づいたかね」
ガチャリと扉が開き、顔を覗かせたのはDr.アレックだった。

白髪交じりの茶色の毛髪と
鋭くそして何もかも見通してしまうような蒼い目。
機械工学の他にも、医学も修めた秀才。

「なぜ、こんな真似をするんだ…」
薬の影響か、喉がやけに乾き声もかすれる。

「その言葉は心外だな。僕だって、好きでこんなことをしたいわけじゃない。
ただ、君は私達の中で要注意人物として扱われていてね。特に最近の君の発言は目に余るものがあったので…ね」

パチパチと電気の灯りがつく。

急に明るくなった為に、目が明かりに順応できず目がしばしばした。

「申し訳ないが、このプロジェクトの方がつくまで、君にはこの部屋で生活をしてもらうよ。
なぁに、心配はいらない。食事は係りのものに運ばせるし、奥さんには君は出張で当分帰れないことにしといたからね…ククククク」

そう言い残すとDr.アレックはガチャリと扉を閉め、後には無機質な部屋に僕だけが取り残されてしまった。