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今日は夜見世をいつもより早く閉めることになった。

和助さんの指示らしく、見世中が忙しなく動いている。

何か手伝えることがあれば手伝おうと思っていたのだが、和助さんに「ここ最近まともに休みも取らせられなかったからな。今日くらいきっちり休め。」と言われてしまった以上、手伝いを申し出ることは出来なかった。

それでも、皆さんが働いている中一人だけ寝る、というのも申し訳なく感じてしまい、どこか寝付けずにいた。





ちょうどその時、障子の向こう側から物音がした。

「七緒ちゃん、起きてる?入っていい?」

「倉間さんですか?どうぞ。」

ガラッと障子を開けると、いつものように柔和な笑みを浮かべた倉間さんが立っていた。

「こんばんは、七緒ちゃん。和助さんから今日は早く見世を閉めるって聞いて、たまたま時間もあったことだし来ちゃった。はい、これお土産。」

「わぁ…!」

そこには色とりどりで可愛らしい形をしたお菓子が敷き詰められていた。

「こんな素敵なお菓子、頂いてもいいんですか?」

「当然。君のために買ってきたんだから。あ、でもその代わりにこれを幸せそうに食べてる君は、僕だけに独占させてね?」

「ふふっ、またそんなことばっかり。」

「…浮かない顔してるね?何かあった?」

「え…!?」

「どこか悲しそうな顔してる。僕でよかったら聞くよ。」

…倉間さんはいつもそうだ。いつも通りに振る舞っているつもりでも、私の些細な感情に気付いてしまう。

倉間さんになら…話したら少しは心が軽くなるのかもしれない…。

そう思うと、自然と口が開いていた。

「…私は、ちゃんと皆さんのお役に立ててるんでしょうか…。」

「…何でそう思うの?」

「皆さん、いつも大変そうに動いているのに、私は何も役に立てていません…。倒幕のことだって、清菊さんや白玖さんのような手練手管があればもっと情報収集もスムーズに行くはずなのに…。」

「七緒ちゃん…。」

今まで溜め込んでいた思いが一気に堰を切ったかのように溢れてくる。

「…それに、今日だって皆さんとても忙しそうなのに、手伝いすらさせてもらえません。」

…悲しかった。

皆が動いている中一人だけ静かにしていることが、とてもつらかった。きっと私の我が儘なのだろう。

分かってはいても、私は、私をずっと支えてくれた万寿屋の力になりたかった。

「七緒ちゃん…。」

今まで私の話をずっと黙って聞いていた倉間さんが、スクッと立ち上がった。

「おいで、七緒ちゃん。」





「おいこら宝良!!飾るときはちゃんと脚立を使えって言っただろ!!」

「す、すいません和助さん!!でも、あともう少しで飾りつけが…って、おわっ!…あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「…あともう少しで飾りつけが…なに?」

「…グチャグチャ…」

「宝良ってばほんっとありえない!!!」

「…これは、また直すには時間がかかりそうでありんすなぁ…。」




「こ、これは…」

「ほらあそこ、見てごらん」

倉間さんに指差されたほうを見てみるとそこには、和助さんの雑な字で


『七緒、一年ありがとう』


と書かれていた。

「………っ。」

「君は、少なくとも万寿屋の皆にこうして祝ってもらえるくらいには、頑張ってるし、当然信頼もされてるんだと思うよ。もちろん、僕にとっても君はとても大切な存在なんだ。『信頼されてないんじゃないか』なんて考えてあんなに悲しそうな顔しないでよ。」

「倉間さん…」

ポロポロと涙が溢れてきた。




「あ!七緒!」

「…は?……お、おい!七緒!なんでこんなとこにいるんだよ!ってか何で泣いてるんだよ!」

「宝良がうるさいから…」

「俺のせいかよ…っ!」

「…倉間。あんた、図ったでしょ。」

「んー?なんのこと?」

「…ったく…。ばれちまったもんは仕方ねぇ。ほんとは明日の朝宴のときにでもやろうかと思ったが…。……よし!宴は今晩やろうが朝にやろうが変わらねぇ。ほら、お前が主役なんだからこっち来い。」

「わ、和助さん…!」

「全く…。和助も切り替えが早すぎるよ…。」

「そ、そうっすよ…!まだ飾り付けも全然終わってないし…!」

「ほんとなら飾り付けはとっくに終わってるはずだったけど。」

「ぐ…辰…。それは言わない約束だろ…。」

「宝兄がさっき飾り付け、破っちゃったんだもんね。」

「くぅ…!皆して……!」

「…というわけだ。このままやってもまた宝良に台無しにされる可能性もないわけじゃねぇしな。今日は、前夜祭だ。ほら、いいから俺の隣に座れ。」

「…はぁ…。仕方ないね…。当然俺の隣に来るんでしょ?」

「あー白玖さん!どさくさに紛れて何やってるんですか!お、お、俺だってお前の隣が」

「白玖さんや和助さんの隣は危ないし、宝良は論外。俺の隣に来るでしょ?」

「僕だって七緒の隣がいい!」

「えー皆ずるいなぁ、なら僕も君の隣でお酒を飲みたいな。」

「…男ってほんっと馬鹿ばっかり。呆れた…。」

「…七緒も厄介な男たちに好かれて大変でありんすなぁ。ほら、こっちにおいで。美味しい食事が沢山ある。」




こうして夜中の宴が始まった。

和助さんはすっかり酔っぱらってしまい、白玖さんに絡んでいるし、白玖さんは白玖さんで迷惑そうにしながらも、和助さんの話に付き合っている。

一方宝良くんは、美味しそうにお酒や食事を食べながら倉間さんと話していて、辰義くんはすっかり眠ってしまった燈太くんを膝に寝かせながら、黙々と食事を食べている。

清菊さんや鈴音ちゃんたちと食事を食べながら、もう一度、和助さんの大きく自信に満ち溢れた字を見上げた。



もうすぐ倒幕へ向けた本格的な運動が始まるのだろう。

私にも、大きな選択が迫られる日が近々来るのかもしれない。

…それでも、私は、この万寿屋の皆さんを支えていきたい。

何にも変えられない大切な言葉を皆さんから貰った。

目を閉じて、皆の笑いに溢れた声に耳を澄ます。

-願わくば、こんな日々がずっと続きますように-