複雑な表情を浮かべる。
そうなるよね。


でも、
訊かずにいられないよ………。
あんなふうに言われたら。



「無理には伺いません。でも……
あれから私、気になってて」

「いや。このこと先に話したのは、僕の方ですから。」


うつむいて、絞り出すように呟いた。



「…………3年前に、事故で。」







全て繋がるような気がした。


そうか。それで。


初めて私を見たときの、
驚いたような顔。

いつも
何かもの言いたげで
哀しい目と、

儚く消えてしまいそうな

彼の持つ雰囲気、
醸し出しているものが全て
そこに集約されているような。


「それまで、僕は…………違う道を目指してました。」


白いグランドピアノに
どうしても、目が行く。

うん、そうでしょう。

なんだか、
そんな予感がしてた。

彼が、本当になりたかったのは


ピアニスト。

「それが、…………彼女を失って以来、全く弾けなくなってしまって。」



言葉が、出ない。



「ピアニストは無理とわかって、調律師を目指した。
どうにか、この世界で
……生きてかなきゃならなかったし。

調律で、最終調節のために演奏するくらいなら弾ける。

でもそれ以外だと、……どうしても。


前に、言ったように、
……………あなたは、その人にとてもよく似ています。

生き写しかと、思ったくらい…………」

私を見て、
それから自嘲したように笑う。

ね。
お願い、
そんな顔、しないで。


「とにかく。

こうして、こんなふうに誰かに彼女を重ねるうちは、
僕は……

誰かを愛してはいけない。

………
そんな気がして。苦しいんです。」




気づいたら、
涙が溢れ出してた。
それを見て、ハッとする彼。

でも、どうしよう。
止められない。



「…やっぱり、聞くべきじゃなかった……………ごめんなさい。私、なんてことしたんだろ…………」

「そんなつもりじゃ!…………泣かないで、」


コーヒーが冷めちゃって
涙も止まらなくて。


「ごめん…………」


もう、これは
私もどういう経緯なのかわからない。


とにかく彼は
どうにか
取り繕うつもりだったのだと思う。




私を、
包み込むように、
抱きしめた。