8月が終わった。
終わってしまった、と書くべきかもしれない。
9月からは、またバリバリ働かなければならない。スロットを打てるのは週末だけになる。
辛い身分である。
しかし、誰かに強制されたわけではない。自分で選んだ道だ。
耐えるしかない。
人間とは、ときに自ら選んだ道によって苦しむ生き物である。
もっとも、俺の場合、その苦しみのかなりの部分は「平日にスロットが打てない」という話なので、あまり深刻に書くと怒られそうではある。
そんなわけで8月29日。
8月最後の実戦に私が選んだのは、
【スマスロ やじきた道中記参る!】
であった。
――いや。
正確には、選んだのではない。
SAO2が取れなかったのである。
抽選番号が悪かった。
ただ、それだけだった。
人は人生を自分の意思で選択していると思いがちだが、実際には抽選番号ひとつで、打つ台さえ自由にならない。
運命とは、そういうものである。
【愛した女が、変わって帰ってきた】
やじきたは、5号機時代によく打った。
俺はあの台が好きだった。
だからスマスロで復活すると聞いたときは、かなり楽しみにしていた。
昔好きだった女と、10年ぶりに再会する。
そんな気分だった。
ところが初打ちしてみると、彼女は変わっていた。
特に通常時である。
今作は、毎ゲーム「まいる」というポイントを貯めてCZを目指すゲーム性だ。
最近のスマスロではよく見る仕組みである。
レア役を引いて「まいるチャージ」に入れば、まいるが大量に貯まるチャンス。
あるいはCZのCZである「関頂チャレンジ」でCZを射止めるか。
さらにAT直撃抽選。
最近のスマスロで何度見たかわからない仕組みが、やじきたにも導入された。
私は、思った。
これ、わざわざ「やじきた」でやる必要あったか?
5号機のやじきたは、元々かなりスマスロ向きのゲーム性だった。
CZまで180里。1ゲームごとに1里近づいて小役連やレア役で大きく近づくチャンスとなる。
リプレイを引けば、次もリプレイを願う。
ただのリプレイに、意味が生まれる。
単純だが、それが熱かった。
これこそがやじきたの面白さであって、そこは変えなくてよかったのではないか。
昔好きだった女と再会したら、流行りの化粧をして、流行りの服を着て、流行りの言葉を使っていた。
似合っていないわけではない。
だが私は知っている。
昔のお前のほうが良かった。
そしてこのやじきた。
肝心の「まいる」がなかなか貯まらない。
CZまで最大で999まいるが必要。
通常時は基本的に1ゲームで1まいる貯まる。(レア役だと10や20貯まることもある)
まいるチャージも、それほど頻繁に入るわけではないし、入っても40まいるくらいしか増えないこともしばしば。
さらに天井は「CZを6回スルーしたあとのCZでAT確定」という鬼畜仕様。
つまり展開次第では、
2000ゲーム近く通常時を歩かされる可能性がある。
やじきたは、「道中記」だ。
旅をする台なのだから歩くのは当然なのかもしれない。
しかし、
こっちはそんなに通常時を歩きたいわけではない。
これがシンドい。
一度CZを外すと、
「よし、次も追うぞ!」
という気持ちになりにくい。
初打ちのときも、私はそこで席を立った。
【だが、ATは別人だった】
一方、ATはいい。
これは5号機やじきたの面白さをしっかり継承している。
さらに今作には上位ATもある。
5号機を楽しめた人なら、十分楽しめると思う。
一部では、
「やじきたはATの初期ゲーム数ゲー」
という意見も聞く。
なるほど。
何もわかっていないな。
やじきたで重要なのは、そんなものではない。
終わらない「わっしょいチャンス」にぶち込むこと。
これである。わっしょいチャンスロング、これを取れるかどうかだ。
ロング継続するわっしょいチャンスに入れば、ATは俄然面白くなる。
しかも今作では、わっしょいチャンス5回ごとに「参拝チャンス」に突入し、上位ATへのCZである「真剣チャレンジ」のチャンスが与えられる。
つまり、わっしょいチャンスを続けることの意味が、5号機以上に大きくなっている。
初期ゲーム数だけ見て一喜一憂している場合ではない。
祭りを終わらせなければいいのである。
【事件は静かに始まった】
この日の投資は、960枚で止まった。
そこからは飲まれそうになりながらも耐える展開。出たり入ったりだ。
設定もわからない。
こういう時間が一番危ない。
勝っているわけでもない。
致命傷を負っているわけでもない。
やめる理由もなければ、続ける確信もない。
パチスロにおいて、人間の判断力を最も鈍らせるのは大負けではない。
微妙な展開である。
しかし、そのときだった。
わっしょいチャンスが伸び始めた。
一回。
二回。
三回。
気がつけば、祭りが終わらない。
そして差枚2000枚を超えて有利区間を切った。
上位AT超やじきた祭りを賭けた真剣チャレンジへ。
ここから先は、設定も理屈も関係ない。
必要なのは、
己の右手だけである。
真剣チャレンジは、味方キャラのゲームで小役を引けたら勝ち、敵キャラで引いたら終わりのゲーム。
極めて単純。
そして残酷な勝負だ。
レバーを叩く。
リールが回る。
一確目を狙う。
河童さんのターンでリプレイ一確目が止まる。
――ッ!
この瞬間のために打っている。
突破。
そこからは伸びる、伸びる。
真剣チャレンジも4回突破。
気がつけば、8000枚オーバー。
収支は、
プラス14万円。
8月最後の実戦としては、あまりにも出来すぎた結末だった。
先ほどまで「通常時がつまらない」と文句を言っていた男が、8000枚出た瞬間、
「やじきた、やっぱ面白えな」
と言っている。
人間の評価など、その程度のものである。
【ただし、通常時、お前はダメだ!】
ATの初期ゲーム数を決める「あっぱれチャンス」も面白い。
わっしょいチャンスもいい。
真剣チャレンジも熱い。
上位ATへの道筋も明確で、5号機の良さを残しながらスマスロらしい出玉性能を加えた。
ATについては、かなり好きだ。
ただし。
通常時。
お前だけは話が別だ。
低設定で、まいるチャージにも入らず、関頂チャレンジもやれず、CZまで延々と歩かされる展開を想像すると恐ろしい。
設定不問で気軽に楽しめる台ではないかもしれない。
それともうひとつ。
AT中のやじきたボーナス。
今回は、これが弱い。
当たってもあまり嬉しくない。
ボーナス確定画面を見て、
「おお!」
ではなく、
「……ああ、ボーナスね」
となる。
ボーナスが当たってテンションが下がるパチスロというのも、なかなか珍しい。
そこだけは残念だった。
だが、それ以外のATは面白い。
5号機やじきたが好きだった人には、ぜひ一度打ってみてほしい。
通常時については――。
諦めよう。
人生には、自分の力ではどうにもならないものがある。
仕事。
抽選番号。
そして、
増えない「まいる」。
8月29日。
こうして私の8月は終わった。
9月から、またいつもの仕事が始まる。
次に打てるのは週末だ。
それでも私は、おそらくまたこの台に座るだろう。
なぜなら――。
8000枚出たからである。










