母の書付③ | showbabaのブログ

showbabaのブログ

ブログの説明を入力します。


どなたかがひまなときに読んでやってくださったら嬉しいなと思い載せてみます。



 よく失敗する。鍋を焦がした、風呂の湯のオーバーフロー、鍵のかけ忘れなど、そのたぐいは数えればキリがない。
 自分では生来の気楽な性分のなせる業で小さな失敗だと開き直ってはいるが、周りからみれば「ボケたんと違うか」ということになるらしい。

 二男の住むマンションで非常ボタンを押す大失敗をやらかした。出かけていた息子たちが「鍵を開けて」と受話器越しにいうので家と同じ調子で「ハイ、ハイ」と玄関の鍵を外して呑気に続きの本を読んでいた。
 二度目の催促で、エレベーターに乗る前のロックだと言う。私はすっかり慌て、並んでいるボタンをこれかあれかと探しているうちに非常ベルに触れたというわけだ。
 どういう仕掛けになっているのか、とたんに頭上から噛みつくように非常ベルがものすごい音で鳴り始めた。

 戦争中、学校で抜き打ちに非常ベルが鳴る、空襲に備えての避難訓練があった。私達は一斉に総立ちになり、定められた行動に移ったものだった。けたたましく鳴るマンションのベルも、その時と同じ音がした。
 息子は電話口で私を横目で睨みながら、管理人室や警備会社に平身低頭して謝っていた。それでも規則だからと、警備会社からふたりも調べにこられた。その制服が警察官の制服に似ていて私は余計にちいさくなっていた。

 今、我が家には非常ベルはないが、半開きのドアの冷蔵庫や炊飯器、洗濯機などから代わる代わるピーピーと発信音が送られる。それらの音を心構えへの警鐘と受け止めねばと、思いつつ、なんとも心もとない感じになってくる。長寿社会を生き抜くことは、嬉しいとも哀しいとも言い得ない複雑なものだと思うこのごろである。




可愛そうに
この事件は
母が70歳くらいのときのことだったろうか。

長寿社会といいながらも母は72歳で逝った。

度忘れの重なる憂ひ更紗木瓜

な〜んていう句も残していた。



9月に母が亡くなってから届いた春燈10月号に

七夕やインターネットで繋ぐ恋
死ぬことはやっぱり淋し梅の実落つ
羅の女なで肩夢二の絵


の三句が掲載されていた。


私よりは上手い。