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日経トレンディ

「嵐とファン」に見るソーシャル時代の新しいつながり方


一般的によく言われる嵐のアイドルグループとしての特徴は、「5人は本当に仲がいい」いうことだ。その5人の存在に自分の感情を移入できるという点に、ファンが嵐にはまっていくポイントがあるという。

 「嵐のファンが“熱心”なファンになるケースとしてよくある状況を1つ挙げると、大変な現実に直面している時ですね。人間関係でうまくいかなかったりして精神的に疲れていたり、勉強や仕事で頑張らなくてはならない、そんな現実が背景にあります。

 現実から一時的に離れさせてくれる何か、現実を乗り越える元気をくれる何かを求めている時、たまたまテレビや雑誌などのメディアで嵐に触れる。

5人の夢の世界に加わることで、ほっこりして癒やされ、現実の大変さを少し軽減できる。こうしたきっかけで、ファン活動に熱心になり、嵐が生活の大切な一部となっていくのです」と射場氏は語る。

 長年、嵐をウォッチしているとわかるのだそうだが、TVなどで細く見ていても、仲がいいことに疑いがわく場面がないという。仲の良さを確信できるから、ファンは嵐にはまっていくというのだ。

 ただ、マーケティング戦略の観点で重要なことは、この“仲の良さ”という顧客価値が完成されていくにあたっては、運営者側に意図的な打ち手が存在するということだ。

 「嵐のメンバーは5人ともそれぞれ絶大な人気を誇っていますが、実は2004年頃までは、個人のメディア露出が櫻井翔さんと松本潤さんの2人に偏っていました。言い換えると、他のジャニーズグループ同様、“グループ内格差”のあるグループだったのです。

 ところが、嵐の場合、2004年以降、他のメンバーのメディア露出を増やし、ドラマや映画などを通じて、認知度を上げていく運営者側の努力が功を奏します。他のメンバーもヒット作や人気番組に恵まれ、グループ内での人気格差が小さくなりました。

 この結果、『本当に仲が良い』というイメージが広く定着し、グループ内格差のなくなってきた2008年頃から、嵐の本格的なブレークが始まったのです」(射場氏)


 このようにして、嵐のファンたちがさらにはまりこむ仕掛けが出来上がってきたという。

 濃いファンほど、自分を6人目の“嵐さん”であることを認識しているため、他のファンの行動を支援しようと動くのだそうだ。

 具体的にはこのようなエピソードがある。

 「事務所が発表する前に、タワーレコードなどからCD(初回盤)の予約が発表されたことがあったのですが、瞬時にツイッター上でその情報がファンの間で拡散され、事務所が発表する頃には、全てのオンラインの予約サイトでの初回盤の定価での予約が終了していました。

 しかも、6人目の嵐さんたちは、ネット上で、他の嵐ファンのサポートを始めたのです。予約ができなかったファンに対して『紀伊國屋の店舗にはまだ在庫がある』といったオフラインでの販売状況が共有されていきました。

 やがて、都心部で売り切れになると、『大宮はまだ大丈夫』とか『津田沼は残りわずか』といった形で、他の嵐ファンをサポートする情報が飛び交っていくのです。このときは予約開始1日で、初回盤のオンライン、オフラインの全国での予約は完売していました」(射場氏)


 このように6番目の嵐さんとしての活動が日常になる濃いファンに対して、射場さんの分析によれば、さらに嵐の世界に引き込む『ツンデレ』という仕掛けが施されているという。


ファンになり始めると、コンサートのチケットの購入を試みるけれどなかなか当たらない、グッズも長蛇の列に並ばないと入手できないなど、さまざまな苦労を体験することになります。

 実はこの苦労があることで、そのあとで体験する嵐のコンサートでのメンバーからの愛情表現が、非常に効果的に女性ファンの心をつかみ取るのです」(射場氏)

 嵐のファン同士の交流が始まると、コンサートへの参加が重要な接点となる。ファンクラブ会員でなければチケット入手はほぼ不可能なため、コンサート参加希望ファンが必然的にファンクラブに入会する。


 嵐のファンクラブ会員数は、新規の会員番号を基にファンが推定した数字によれば、約140万人ぐらいだという(現在の会員番号は165万番台)。