「情と理」、情いっぺんとうでも、理いっぴんとうでも上手くいかないものです。情の裏に理があり、理の裏に情があると、効果を発揮します。

といっても中々難しいですけどね。

もう熱が過ぎ去りましたが、サッカーのW杯でひとつ気になることがありました。

日本代表のGK川島選手に対して、「試合に出すな」という世論が中々熱いものがありました。それはいいのですが、

あれはグループステージ第3戦ポーランド戦の前、ネットのコメントでこんなのがありました。

「次は川島選手は休ませて、(主に精神面で)リフレッシュしてもらおう。それでダメならその次も出さない」

これ読んで、

「リフレッシュなんてできるわけないやん!

そんなん人の気持ちわからなさすぎるわ!!」

って思っちゃいました。

試合に出さないってことは、選手にはダメ出しですからね。そりゃへこみますよ。それで気分一新するなんて、まずありえない。

もし試合に出さないなら、事情を説明して、どういう意図があるのか、そして決してあなた(=川島選手)に期待していないわけじゃなくて、次は頼む! みたいな事をいってはげます場面ですが、まあそれでも難しい。まして、次に試合に出すかは、あなたの実力次第なんて言ったら、かえって怒らせかねないでしょう。

実際に西野監督がどうしたかというと、

前日の記者会見は、監督+選手ひとりが出るのですが、この選手に川島選手を選びました。

記者会見に出る選手は、慣例として、次の試合にスタメンで出る選手を監督が選びます。

「ポーランド戦もお前を出すよ」という西野監督から川島選手へのメッセージであり、周りに対して川島選手への信頼を示すものでした。

そして試合本番で川島選手はスタメンだっただけでなく、キャプテンにも選ばれました。

さすがやなー! 人心掌握をよく出来る監督なんだー! と、僕は西野監督にほれましたね。心の中で絶賛の嵐でした(笑)。

情の裏にある理の良い例だと思います。

試合に出す出さないって、サッカーゲームだとボタンクリックひとつで何とでもなること。プレーヤーは独裁者なので、そこに工夫は要りません。

でも現実の我々はゲームプレーヤーのごとき独裁者では無いので、「誰も言うことを聞いてくれない」ものです。

アルゼンチン代表なんて、グループステージ第2戦の後に、世界最高のサッカー選手といわれるエースのメッシ選手が、わざわざサンパオリ監督に、

「何があろうと、僕ら選手はもう、あなたを信用していない」と主張する事態に。ボタンひとつで人間を支配できるゲームと違って、現実はこんなもんです。

だから、信用を得るために、あーだこーだ工夫する。

西野監督は、川島選手への信頼を示すことで、川島選手からの信頼をがっちりつかみました。

川島選手の信頼をえれば、川島選手と仲の良い選手も協力してくれます。チーム最年長でW杯出場3回目の川島選手は、きっとチームの中で影響力あるひとりだったでしょう。

「士は己を知る者のために死す」

志ある人は、自分のことをよく理解してくれる人のために、死力をつくすという意味です。

士とは現代でいえば、プライド高きプロフェッショナルです。

川島選手にとって、西野監督は「己を知る者」だったことでしょう。本番直前に監督を引き受けた中で、よくあそこまで結果を出せたと感心した人は多いでしょうけど、その要因のひとつは、

「人心掌握」

に西野監督が優れていたからではないでしょうか。

僕にとって学ぶ所多い人物でした。