先日、「限界集落株式会社」(著:黒野伸一)なる小説を読みました。金融財務のプロである主人公が、限界集落の故郷に戻って、地元民と協力して農業生産法人をつくり、まちを再生するというストーリーです。

ベストセラーになっているだけあって、面白く読めましたが、そこでひとつ「おや?」と思ったことがありました。登場人物の台詞を引用しましょう。

「あなた方都会から来た人たちも、もう分かってると思うけど、食料って別に不足してるわけじゃないでしょう。輸入に頼っている一部を除けば、むしろ余ってるのよ。マスコミがさんざん、日本では食料自給率は40%で、先進国中最低とか恐怖心をあおるから、一般消費者が誤解してるだけ」
「そうでしょね。おれも田舎来て、初めて気づきました。でも、何でみんな捨てちゃうんすか。(以下略)」
「そう。日本の農作物って、本当は安過ぎるんだと思う。ポッキー4本の値段が、ご飯のお茶碗一杯分に相当するんだよ」

食料自給率40%というのは、実はカロリーベースで計算した場合でして、生産額ベースで計算すると70%になります。これ先進国と特別そん色ある数字ではありません。農林水産省のホームページによると、平成24年度で、それぞれ38%と68%です。68%という数字、実は先進国の中では米国、フランスに次ぐ世界3位です。

さらに言えば、世界各国はカロリーベースでの食料自給率の計算をしておりません。したがってカロリーベース自給率の国際比較は、農林水産省が独自に推計したものです。となると何だか農林水産省によるプロパガンダ臭がただよいますが、ひとまずカロリーベースで日本は先進国中最も低いと仮定したとします。この場合、私個人は、問題の本質は、もっと自給率を高めよう!ということではなくて、今の日本人はカロリー取り過ぎということにあるのではと思います。勿論その原因は、高度経済成長に伴う食の西洋化や菓子類の発展にあります。私たちの食生活はこれで本当に良いの?という食育的観点ですね。

また生産額ベースでの自給率は確かに他の先進国とひけをとらないのですが、ひとつ非常に劣っている部分がありまして、それは食料輸出額です。これは他の先進国に大きく劣ります。そうすると、もうひとつの本質的な問題は、日本の農業の国際競争力の不足にあります。農業ビジネスの国際化・グローバル化がきわめて遅れているということですね。

ちなみに食料自給率をもっと高めようという主張は、自民党政権、そして民主党政権と続いておりましたが、安倍自民党になってから、いつの間にかマニフェストから食料自給率を高めるという項目が無くなっております。これは東京都知事選に出馬する舛添さんが代表だった党も同様です。

農林水産省は、いつの間にかひっそりと食料自給率向上の看板をおろしはじめている、というね(苦笑)