地域で命を支える」~人生頑張らないけどあきらめない

諏訪中央病院名誉院長 鎌田 實


事例1脳卒中の男性

脳卒中を起こして入院され、命をとりとめ、リハビリをして杖歩行できるまで回復された。医師として、満足していたが、その方が退院されて1週間後、町で会い、睨みつけられた。喜んで退院されたのになぜ?理由は、「歩けるようにはなったが、かがめない。草取りができない。生きている限り畑に立ちたかった。」というもの。


その時、その人の夢や人生、何をして生きてきたのか聞けばよかったと思った。生かした命、生きてて良かったと思ってもらわなければ意味がない。


そこで思った。医療だけではダメだということを。35年前、制度がなかった頃、訪問看護を始めた。さらに、年間80回公民館で健康の話をするようになった。
鎌田實講演会

事例2寝たきりのおばあちゃんと介護する嫁

公民館で話をしていた時、「家には寝たきりがいる。」という話を聞き、その人の家へ行った。サービスは何も入ってない。寝かされきりになっているひどい状況であった。当時、寝たきりのお年寄りは、家の奥で隠すようにされていた。


まず、地域に寝たきりの人がいるということを知り、さらに脳卒中を起こして1年以上入浴していない人がいるということを知った。“ほっとけない”と思った。そこで、病院の医師や看護師、保健師の協力を得て、おばあちゃんに子どものプールみたいなものを使って自宅で入浴してもらった。


しかし、3回目の入浴の後、数日後風邪をひき1週間後に亡くなった。亡くなって1週間程経った頃、お嫁さんから電話があり、「先生ありがとう。垢だらけであの世に行かなくて良かった。」と言ってもらった。今の時代なら訴えられてもいいようなことだが、そうではなかった。その人のためにやったことは理解されるんだと思った。


本来、入浴介助をするのは医師やSWやPTの仕事ではないが、地域や時代を変える時、自分の仕事を限定しない。人間として応援することが大事だと思っている。


PS

感想~涙なしには聞けないお話でした。ほっとけない気持ちを持ち続けたいですね。興味のある方は本を読んでみて下さい。(SIホーム生活相談員)