月下の一群第2集の3曲目はこの2集での中心的存在となる“夜曲”です。

この“夜曲”ではシリーズ初めてとなる伴奏無しのアカペラから曲に入ると

いう形を採用していますが、このスタイルはこの次の4曲目“十月の薔薇”と

3集の1曲目“唄”にも採用されてます。


ますこの曲はトップパートによる「こいびとよ~」の主旋律で始まりますが

最初のA音は前曲の“あの娘”(これもイ長調)の最後の音と同じになって

います。

この辺は前曲の最後のピアノの音で音取りをしてこの無伴奏アカペラで

入ることへの繋ぎになっていると考えられます。

実は1曲目の最後もEmの和音で終わって次の2曲めの初まりのE音

(調はイ短調)に繋がっていることを考えると、この2集の1~3曲目という

のは組曲的な繋がりを意識した調性戦略があるものとも考えられます。

もう何度も書きましたが建前は“曲集”であってもやはり5曲一体として演奏

されるときのことは考慮して作られてると思います。


話が少し逸れましたが、夜曲の方に話を戻すと前半は甘美な旋律をトップ

パートだけがゆったりと歌い上げ、他のパートはずっとハミングのままこの

旋律に絡みながらもハーモニーを演出するという形で進んでいきます。

他パートのハミングにトップが乗っかる形は“小曲”と一緒ですが音楽的な

リズム・和声のからみ、曲の展開はこちらの方がより聴き応えがあると

思います。

前半はアカペラとピアノ伴奏は分離していて合唱が一休止して官能的な

ピアノの間奏(この間奏がなんとも神秘的でまた美しいのです)が入る、

という形になっていますが、その静寂を打ち破るかのように後半のニ長調に

転調する50小節目からやっとピアノと合唱があいまみえ、テンポも上がり、

音楽が動的に動き出します。


この曲の詩は刹那的な男女の情愛を描いたものですがこの後半の、美しい

同時になんともいえない官能的な音楽の盛り上がりは鳥肌ものです。

第1集のピークは「太陽は いつも 逃げてしまう」だと書きましたが、この2集の

ピークはこの3曲目の後半、

「そうして お前の わななきをすくう」

ここだと個人的には思っています。

上記のパートで最高潮を迎えたあとはまたトップのおだやかなソロ・他パートの

ハミングに還り、美しい湖面の輝きを現したようなピアノの8分3連の音色が

曲の最後に鳴り、終わります。


この曲はトップパートの比重が大きく、良い演奏になるかどうかはトップ次第、

なところがあるかと思います。

そういうわけでこの第2集はこの3曲目がマスターピースになっているという

のが私の意見ですが、どうでしょうか?


私の独断レビューはこの後の4曲目にもつづく・・・