「女の子ですね?かわいい」
女性が声をかけてきた。
「あなたに似てかわいい」
「………え。」
ー(あの時、お義兄は気がついたかもしれない。)
凡子は義兄裕太のために、ビールと軽い食事を
運んできたところだった。
そのビールを手に取って、テーブルの前に
胡座をかくと誠はコップに注ぎ、一気にあおった。
「えっ?それはお義兄さんの…。」
「いや、いい。オレは帰るから。」
裕太はやおら立ち上がった。
「えっ?お食事がまだ…。」
裕太のあとを追いかけようとした凡子の腕を
誠が掴んだ。
そして凡子は押し倒された。
男が男であることを誇示するような強い力だった。
凡子は抱きしめられ、無理矢理に唇を奪われた。
その瞬間、玄関の戸が閉まる音がした。
ー(お義兄さんは気がついたかもしれない。)
あの時の失望が胸に浮かぶ。
たしかに誠とのことは夫婦である以上致し方ないの
かも知れない。
しかし裕太に不義理をしたような、切ない想いも
胸にきたことを否めない。
「おまえ、また腹が出てきたな。」
事が済んでから誠が言った
ー商店街の人通りは午後になっても
相変わらずの賑わいだ。
凡子は赤ん坊を目ぶり手ぶりであやしている
女性に声をかけた。
「あの…妊娠したら生理が止まりますよね?
次の生理がくる前に妊娠することは
あるんですか?」
おそるおそる声をかけた問いかけに、女性は
あっさり答えた。
「ありますよ、いくらでも。」
「………。」
出産後の身体の変調については、凡子も
気がついていた。
しかし、出産後の生理を見ていなかったので
安易にたかをくくっていた。
義兄のところに行って相談するしかない。
腹は日増しに大きくなるだろう。
凡子は立ち上がると、女性に軽く会釈をした。
それから、赤ん坊を母に託して、義兄のアパートに
向かった。
⑤に続く。