叔母はきちんと正座して、ナカに
言葉を返した。
「中村さんと言わっしゃるっちゃろ?
その人と一緒に行かっしゃるとですか?」
叔母は緑色の単衣を着ている。
長い髪を後に結い上げている。
髪のほつれ毛を気にしている様子だ。
しきりに耳元に手をあてている。
叔父の名前は関戸民夫。
叔母の名前は紀子。
三十七歳のナカの、民夫は弟に当たる。
この二人が実の親だと英里子がナカの
口から聞かされたのは、ほんの三日前の
ことだ。
それまでは「おじしゃん」「おばしゃん」と呼んでいた二人をどうして「とうちゃん」「かあちゃん」と呼べるだろうか。
それに、英里子が戻ってくるというのに、二人の反応によそよそしく冷淡な
ものを英里子は感じた。
(あたしやて、こげな家に住みとうなか。)
英里子が覚えずやった目の先には、
汲み取り用のホールがあった。
ウジが数匹這っている。
炊事場から流れる溝のおかげで、ウジは
土間までは上がってこれない。
「中村さんは義姉さんより、いくつか
年下じゃなかだそうじゃないですか?
この先どげんしんしゃあと?」
「どげんもこげんもせんばい。
どうせ,ここにはおられんとよ。」
そう言いながらナカは下駄の先で、
トントンと床を叩いた。
真新しい青色の鼻緒にすげ替えている。
(ニ)
「ケセラセラばい。」
吐き捨てるように呟いた。
ーあたしが、英里子ばここまで
育てちゃったとよ。
礼のひとつも言うてもよかろうもん。
英里子
大川蛍子…➂