2017年11月15日

 

PET-CT検査からすでに1週間経っていた。

 

私は、再び市立病院の外科の診察室の前の長椅子に座っていた。

 

それも最前列に。

 

これから私の運命が決まる。

 

正直、この1週間は生きた心地がしなかった。

 

オレンジ色のオバケに追い回される夢を何度も見た。

 

判決を待つ被告人も同じ気分なのだろうか。

 

ただ普通の被告人と違うのは、私の場合有罪であれば判決は「死刑」と決まっていることだった。

 

「裁判長!どうか無罪を言い渡してください」・・

 

もし遠隔転移していた場合、PET-CTの画像にその部位がオレンジ色で表示される。

 

オレンジ色がどこにもなければひとまず無罪ということになる。

 

もっとも無罪を勝ち取ったとしても、手術が待っている。

 

手術となればあの医師が執刀するのだろう。

 

それだけは御免被りたい。

 

 

そろそろ私の名前がアナウンスされる時間だ。

 

あの医師は大きく「4」と書かれた診察室の扉の向こうにいる。

 

が、なかなか呼ばれない。

 

「やっぱりすぐに呼べない理由があるのか?」

 

理由と時間は本来無関係のはずだが、ろくでもない思いが次から次と頭をめぐる。

 

立ったり、座り直したりを意味なく繰り返す。

 

気分転換のスマホを見ることはすっかり忘れている。

 

「もう結果なんかどっちでもいいから、早く呼んでくれ!」

 

私の精神状態はもはや崩壊寸前であった。

 

不安といらだちががMAXに達したその時だった。

 

 

突然「4」ではなく、隣の「5」と書かれた扉が開き、

 

「松竹一郎さ~ん」と私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

てっきり「4」の扉が開くと思っていた私は「エッ!」と思いながらも、立ち上がって「ハイ」とその声に応えた。

 

すると見たことのない角刈りの医師が、私に向かって名前を呼びながら「こっち、こっち」と手招きした。

 

事態が飲み込めないまま、とにかく「5」の扉の中に引き込まれるように入った。

 

するといきなり

 

「松竹さん!心配だったでしょう!」

 

「大丈夫ですよ!」

 

「手術できますよ。」

 

開口一番、そのがっしりした角刈りの医師は、私が椅子に座るのを待たず大きな声でそう言ってくれた。

 

不意に目頭が熱くなった。

 

この1週間私はその言葉だけを待っていた。

 

角刈りの医師が天使に見えた。

 

 

「・・・ん、にしても、この人誰?」

 

と怪訝な顔の私に向かって、

 

「始めまして、松竹さん。」

 

「今日から私が担当します。山田です。」

 

と自己紹介してくれた。

 

続けて「執刀も私がします。」

 

「もう心配いりませんよ。」とまで言ってくれた。

 

心の中を見透かされていたような気がした。

 

そう、この角刈りの天使こそ、もう一人の外科部長山田玲医師であった。

 

「捨てる神あれば拾う神あり。」

 

ことわざに間違いはなかった。

 

「ヤッター!!」

 

「これで助かる!!」

 

「先生!よろしくお願いします。」

 

うれしさのあまり、私は思わず握手を求めた。

 

「がんばりましょう!」

 

先生は私の手を握り返しながら応えてくれた。

 

それはまさに、拾う神が目の前に現れた瞬間だった。

 

 

 

本文ここまで、明日に続く。

 

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◎「脳」を制する者が「がん」を制す

医薬の進歩、医療技術の進展により、もはや「がん」=「死」ではなくなりました。

しかしながら、それはあくまでも初期のステージに限定されます。

もちろん初期のステージであっても死亡率の高い部位もありますが。

今後、遺伝子療法や、ゲノム治療のようないわゆる第4の治療の進歩により「標準治療」と呼ばれる現在の「がん」に対するアプローチ手法が大きく見直されると思われます。

それでも全員のがん患者を救えるはずなどありません。

 

しかし「脳」をうまくコントロールすることができれば、あきらめている人の半分は救えるのではないかと私は本気で思っています。「脳」をコントロールする方法は時間をかけてお話しします。

 

本文の進行上、「がんを消し去るメソッド」だけ先に進めるわけにもいかないのでその点ご容赦願います。