第1 下線部①の行為の適法性について

  1 Pが、甲のキャリーケースを開けた行為は所持品検査に当たる。そこで所持品検査の適法性が問題となる。

    そもそも所持品検査は口頭による質問と密接に関連し、かつ職務質問の効果を上げるうえで有効な行為といえる以上、職務質問に付随して行うことができる。

    そして職務質問に付随して行われる以上行政警察活動の趣旨は及び所持人の承諾を得る必要があるのが原則である。

    もっとも、捜査の実効性の観点から所持人の承諾がない場合であっても捜索にわたらない程度の行為は強制にわたらない限り許容される場合がある。

    そしてその場合には、所持品検査による個人の権利侵害の程度を加味して考え所持品検査の必要性、緊急性 所持品検査により害される個人の権利、これによって達成すべき公益を比較衡量し具体的状況の下で相当といえる場合には適法と考える。

   これを本問についてみるとPが甲の無施錠のキャリーケースを見て中を捜索した行為は捜索に当たらない行為である。そして必要性について検討する。

   まず、PはAが覚醒剤を密売しているという嫌疑を持っておりA方を捜索している。また、甲がキャリーケースの中を開けるよう求めても拒否しており甲が覚醒剤をキャリーケースに所持していると疑われる状況がある。そして覚醒剤取締法41条の2により覚醒剤の所持、密売は10年以下の懲役と重大犯罪で有り捜索の必要性がある。

   次に、覚醒剤はトイレに流すなどして証拠隠滅が容易である以上緊急性もある。

   次に、Pは甲に直接有形力を行使しておらず、また無施錠であり鍵をこじ開けるなどの物理的手段に出ていない。

   したがって、Pの行為は適法である。

 2 次に、Pの行為はA方という場所に対する令状により甲の携帯物を捜索しているが場所に対する令状で第三者の携帯物の捜索ができるか。

  まず、第三者の携帯物は居室の備品にすぎず、またかかる場所に証拠の蓋然性があることは少ない。そこで場所に対する令状で第三者の携帯物の捜索は原則として認められない。もっとも捜索の実効性の観点から第三者が目的物を隠匿していると疑うに足りる合理的な理由があり、具体的状況において相当といえれば必要な処分(刑事訴訟法222条、111条1項)により例外的に認められる。

  本問では、甲がPからキャリーケースの開封を求められて再三拒否しており隠匿していると疑うに足りる合理的な理由がある。そして有形力を直接行使していない以上相当といえる。

  したがって必要な処分に当たりPの行為は適法である。

 

第2 Pの下線部②行為について

 1 PがZを羽交い締めにした部分について

  本問では、有形力行使の可否限界が問題となる。

   この点、人権保障と真実発見との調和から①有形力行使する必要性があり②執行の目的を達成する上で相当といえる場合に適法と解する。

   本問では、A方居室が覚醒剤の密売拠点であるという疑いのある状況でかつ乙はボストンバックを手放さなかった。また、覚醒剤所持は重大犯罪であることから有形力行使する必要性がある。もっとも羽交い締めにしており身体活動の自由や受けるダメージは大きいので行き過ぎた処分である。

  したがって、Pの上記行為は違法である。

 2 Zからボストンバックを取り上げた行為について

  まず有形力行使の可否限界が問題となる。前述の基準で判断する。

   この点、前述通り乙に有形力行使の必要性がある。そして取り上げる行為は捜査の一環である以上相当といえる。もっとも羽交い締めにした行為が違法である以上これも違法である。

  したがって、Pの上記行為は違法である。

 3 ボストンバック内を捜索した行為について

  まず、場所に対する令状により乙の身体を捜索することが認められるか。

   この点、219条は「物」と「身体」を明確に区別しており、また身体に対するプライバシー侵害の程度は大きくこれに包摂することはできない。

   そこで場所に対する令状により人の身体を捜索することができないの原則である。もっとも、捜査の実効性の観点から目的物を携帯していると疑うに足りる理由があり相当であれば認められる。

   本問で、乙は前述通り目的物である覚醒剤を携帯していると疑うに足りる理由がある。もっとも羽交い締めにするという有形力行使して捜索する行為は相当といえない。

   したがってPの行為は違法である。                                    以上

 

 

 

感想 コイツバカかよ…と思ったかもしれません。所持品検査について無関係ですね。何で関係ないのかすら他の再現やTwitterみてようやくわかりました。手続が全く理解できていないのと平成30年度の予備試験の問題と混同したですね…