会社分割手続のキホン | 士業・法務担当者のためのマニアックな登記・会社法・債権法改正情報~司法書士・行政書士大越一毅~

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帝国ホテル傍で開業している32歳・キャリア10年目
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士業・法務担当者のための登記パートナー 

司法書士・行政書士の大越です。




「士業・法務担当者のための会社法入門」



第32回である今回は、
前回の告知通り、



「会社分割手続のキホン」です。


会社分割、実務では、合併よりも

よく活用されていると思います。




対象会社の権利義務をまるっと全部

承継しなければいけない合併と違い



事業ごとに権利義務の承継の範囲

を選択できる、会社分割

グループ会社の再編やM&A

でも比較的便利な手法の1つでしょう。




中でも、新設分割は、

債権者保護手続を省略して

スケジュールを大幅に短縮できる

場合もありますから、

便利です。




私も現在、いくつかのグループ再編

案件を抱えていますが、

全部新設分割絡みの案件です(^_^;)




但し、この新設分割、

脱法的な債務逃れの手法として

使われてしまうことも少なくありません。

ですが、そのような手法は、

後々詐害行為取消権などの手段により

債権者から追及されるリスクが高い

です。




安易なコンサルタントの勧めにより

会社分割の手法を債務逃れのため

だけに利用することのないよう、

司法書士にも必ず相談しましょう!(^^)!






1.会社分割とは


会社分割とは、ある会社がその事業に関して

有する権利義務の全部又は一部を分割して

他の会社に承継させる手続のことです。



権利義務を承継する会社が

既存の会社の場合は「吸収分割」、

同会社を新設する場合は「新設分割」

の手続によることになります。




そして、他の会社へ権利を承継させる会社

のことを「分割会社」といい、

権利を承継する会社は、「承継会社」といいます。


なお、以下は、両当事者の手続が分かる

ように、吸収分割を中心に解説します。


権利義務の承継という点では、

吸収合併と同様ですが、

吸収分割では、吸収分割会社は解散・消滅しません。



全事業に関して有する権利義務の

全部を承継させる吸収分割であっても、

分割会社は存続します。



したがって、吸収分割によって、

親会社が行っていた事業は全て子会社に承継させ、

親会社はホールディングスカンパニーとして

以後は存続する等、グループ内の組織再編を行う

のに適した手続といえるでしょう。


他方で、吸収分割の対価は、

吸収合併の場合と違い、分割会社自身

に交付されます。


これを分社型吸収分割といいます。

会社法施行前は、分割の対価を分割会社

又は分割会社の株主に交付するかどうかも含め、

一連の会社分割手続の対象

(分割会社に対価を交付することを物的分割、

分割会社の株主に対価を交付することを人的分割

と呼んでいました。)でしたが、

会社法施行後は原則として

分割会社に対価が交付されます。



但し、分割に際して、分割会社が対価である

承継会社株式につき剰余金の配当又は

全部取得条項付種類株式の対価として利用する

ことにより、従来の人的分割と同様の効果

をもたらすことが可能です。

これを分割型吸収分割といいます。


こちらについては、次回以降に詳細な解説

をする予定です。


一方で、吸収分割のメリットとしては、

他の類似手法と比べ、以下の点が考えられます。

もちろん他の手法にもメリットがありますので、

それらもふまえて最適な組織再編手法を選択する

必要があるでしょう。


<吸収分割のメリット>


①現物出資の場合と異なり、

 承継する事業の評価に関し、

 裁判所の選任する検査役の調査手続を要しない

 ため、事業承継のスケジュールが立てやすいこと



②吸収分割によって、当該事業に関する権利義務

 が包括的に承継されるため、承継会社が免責的

 に引き受ける債務につき、現物出資の場合

 と異なり、債権者の個別の承諾が不要なこと。

 この点は、合併同様、債権者保護手続で

 フォローしていくことになります



③事業譲渡の場合と異なり、対価として承継会社

 の株式を交付すれば足り、原則として多額の資金

 準備は不要であること



④吸収合併の場合と異なり、分割会社の一部を

 承継会社に承継させることが可能であること。

 これにより、利益の上がっている部門又は

 不採算部門のみを切り離すことも

 理論的には可能です。





⑤吸収合併の場合と異なり、吸収分割会社は

 消滅しないので、事業を空にしても、

 引き続き持株会社として存続させることが

 可能なこと。 

  前述の通り、ホールディングスカンパニー

  作成に適しています




2.会社分割手続



 吸収分割手続及び新設分割手続の

 一般的スケジュールはそれぞれ

 以下の通りです(会社法757条・762条等)。


<吸収分割スケジュール>

①吸収分割契約の締結



②労働契約の承継等に関する法律に基づく

 労働者への吸収分割に伴う通知



③事前開示書面の備置



④株主総会の承認



⑤株主・登録株式質権者・新株予約権者

 への通知又は公告



⑥債権者に対する官報公告

 (分割の内容・一定の期間内異議を述べられる旨

 ・最終の貸借対照表の開示場所)



⑦会社が把握している債権者に対する

 個別催告通知(公告と通知内容は同一)



⑧異議を述べた債権者又は反対株主等

 に対する対応(弁済、株式買取等)



⑨分割の効力発生



⑩分割会社及び承継会社の変更登記



⑪事後開示書面の備置





<新設分割スケジュール>



①新設分割計画の作成



②労働契約の承継等に関する法律に基づく

  労働者への吸収分割に伴う通知



③事前開示書面の備置



④株主総会の承認



⑤株主・登録株式質権者・新株予約権者

  への通知又は公告



⑥債権者に対する官報公告

 (分割の内容・一定の期間内異議を述べられる旨

 ・最終の貸借対照表の開示場所)



⑦会社が把握している債権者に対する

  個別催告通知(公告と通知内容は同一)



⑧異議を述べた債権者又は反対株主等に対する

  対応(弁済、株式買取等)



⑨新設承継会社の設立登記及び

 分割会社の変更登記申請



⑩事後開示書面の備置





スケジュールにすると、吸収分割と新設分割とでは、

ほとんど違いがなく、また合併で必要となる手続

とほぼ同様です。


設立登記に関する論点は合併の場合と同様です。


但し、分割会社にて債権者保護手続が不要になる場合

や、労働者への通知等が必要な点など、

会社分割固有の問題がありますので、

その点にはご注意ください。


これらの点については、

次回以降に詳細な解説をする予定です。



3.まとめ


合併と違い、後日解説するように債権者保護手続

が不要となるケースもあるため、

スケジュールの大幅な短縮も場合によっては可能です。

しかし、それを行うためには種々の制限があるため、

予め短縮したスケジュールを前提とすることは危険です。




そのため、スケジュールには余裕をもって

準備することが必要です。

また、合併同様、スケジュール作成段階から

司法書士等専門家に相談されることをお勧めします。

次回以降は、分割手続の各ポイントにつき、

詳細に解説していきます。


次回は、「分割会社の債権者保護手続の省略


と詐害行為取消の問題」を予定しています。