決算公告の方法~電子公告のメリット・デメリット~ | 士業・法務担当者のためのマニアックな登記・会社法・債権法改正情報~司法書士・行政書士大越一毅~

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「士業・法務担当者のための会社法入門」


第26回である今回は、前回の告知通り、

「決算公告の方法~電子公告のメリット・デメリット~」です。



貸借対照表等の決算公告、株式会社であれば必ず1年に1回

行う義務がありますが、中小企業であれば、実際には行っている

会社はほとんどないでしょう。



会社法上は、過料の可能性がありますが、実際に過料の制裁

を受けたケースが今までおそらくなく、コストもかかりますからね。


また、官報というマイナー雑誌とはいえ、自社の決算書を

好き好んで開示したい企業は、そう多くないでしょう。



でも、合併の場合など、必要となるケースも多々あります。

申込から公告掲載まで時間もかかりますから、

実際に必要となるケースでは、スケジュールに注意ですね!



当方であれば文案作成から公告掲載まで

一括して代行可能ですから、お気軽にご相談ください!(^^)!





1.決算公告とは


上場・非上場にかかわらず、どのような規模の株式会社であっても、

毎事業年度終了後に、貸借対照表・損益計算書等の計算書類

を作成し、定時株主総会で株主の承認を受ける

必要があります

(但し、上場会社のように会計監査人設置会社の場合には、

原則として定時株主総会での報告で足ります。

会社法435条、438条、439条。

会計監査人については、会社法入門第25回をご参照ください。)。


そして、定時株主総会後遅滞なく、計算書類(後述する通り、

企業規模や公告方法に応じて、開示の必要な事項が変わります。)

を公告する必要があります。

これを一般的には決算公告といいます(会社法440条)。

決算公告は、株主や債権者等の利害関係人に対し、

会社の計算書類を公告することにより、その内容を周知させ、

不足の事態の回避や取引の円滑、安全を確保することを目的としています。



2.決算公告の方法

決算公告は、原則として定款に定めた公告方法で行う必要があります。
会社法入門第3回でも解説しました通り、

公告方法は大きくわけて、

官報・日経等の日刊新聞紙・自社HP等の電子公告の3種類です。



通常、中小企業であれば、費用が一番安価なので、

公告方法は官報としているところがほとんどだと思います。

私のクライアントでも上場企業及びそれに準ずる規模の企業を除けば、

9割以上の会社が公告方法を官報としています。

他方で、上場企業及びそれに準ずる企業の場合は、

ほとんどが日刊新聞紙又は電子公告

(ちなみに、上場企業の場合は官報を公告方法とすることはできません。)

を公告方法としています。

但し、上場会社の場合は、有価証券報告書を提出し、EDINETで公開

されますので、別途決算公告は不要です。

しかし、自社のIRページに情報を掲載をするのが一般的です。

なお、官報の費用が一番安価と申し上げましたが、決算公告に限れば、

後述の通り調査機関の調査が不要ですので、

自社HPの電子公告の方が安価かと思います

(HPの管理費用等はもちろん必要でしょうが、

自社HPを有している会社であれば公告を行うかどうかに限らず

それらの費用は必要なので。)。


また、公告方法を官報又は日刊新聞紙としつつ、

貸借対照表の開示のみ自社HP等の電磁的方法による開示を行う

ことも可能です(会社法440条3項)。

この方法によれば、定款に定めた公告方法による決算公告が不要になるので、

トータルの費用面でいえば一番安価な方法ですが、

後述の通りメリット・デメリットがありますので、

その点もふまえて検討する必要があります。


3.電子公告(自社HPによる貸借対照表等計算書類の開示を含みます。)

のメリット・デメリット





インターネット社会である現在、自社HPを有している会社

も多くなったため、自社HPを開設している会社の場合は、

電子公告制度を採用する会社が多くなりました。

そのメリット・デメリットは以下の通りです。

(1)メリット


会社の都合に合わせて、いつでも公告の日を選ぶことができること

*官報や日刊新聞紙は申込から掲載まで1~2週間程度必要です。



②インターネットに接続された端末さえあれば、

  HPに公告が掲載されている期間は、日本国内だけでなく、

  世界中からいつでも閲覧可能であること

  *これは公告内容によっては良し悪しかもしれません。

   官報は国立印刷局が発行する新聞なので、

   一般の人が目にする機会はほとんど無いかと思います。


決算公告は調査期間の調査不要なので、特段費用がかからないこと

  *一番安価な官報の場合でも、最低額で約6万円官報販売所

   に支払う必要があります。



(2)デメリット



①決算公告を除き、公告について、調査機関による調査が必要なため、

  調査費用を支払う必要があること

 *調査機関については、法務省のHPで公開されています。
  
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji81-05.html  

(電子公告調査機関一覧)

 *調査費用は、1回20万円程度なので、

  日刊新聞紙(1回50万円~100万円程度)よりは

  安価ですが、官報(1回10万円程度)よりは高くなります

  (但し、近年は調査機関が増えたため、調査費用が安価

になっている傾向です。)。



②第三者による公告データの改ざん、ウィルス等に対するセキュリティが必要であること

  *官報及び日刊新聞紙であれば特定の日に1回掲載すれば足りますが、

   電子公告の場合は継続して一定の期間公告し続ける必要があります。
   そのため、外部の目に触れる機会も多く、

   意図しない妨害を受ける可能性も否定できません。



③決算公告の場合、その全文を5年間継続して公告する必要があること
 

  *官報及び日刊新聞紙の場合、その要旨を公告すれば足ります。
   全文とは、上場会社とほぼ同様の事項(詳細な項目・個別注記表等)を

   開示する必要があるため、手間がかかります。
   さらには、詳細な事項を開示するため、

   会社にとって他社の目に触れられたくない財務情報まで

   開示することになりかねません。




4.まとめ



現状、決算公告は株式会社であれば

会社法上の義務(会社法440条)であるにもかかわらず、

多くの中小企業が実際には決算公告を行っていないことかと思います。


それは、会社法上は決算公告を怠ると会社代表者が

100万円以下の過料の制裁を受ける旨を定めてあるものの(会社法976条2号)、

実際に過料の制裁を受けた事例が無いことが原因である

と考えられます(実際には過料の実例もあるのかもしれませんが、

少なくとも私はそのような話を聞いたことがありません。)。


しかしながら、最低資本金制度の撤廃等により、

株式会社の設立が容易になったことから、

法令順守・情報開示が強く求められるのは、何も上場企業だけではありません。

決算公告を行わないことが、今後は会社の信用や評価を下げることにもつながる

恐れもあるでしょうし、国が過料の制裁を積極的に行うことも考えられます。



そうであれば、決算公告を軽視するのは危険です。

合併の場合等、手続上必要になった場合にやむを得ず行うのではなく、

定時株主総会後の作業の1つとして決算公告を習慣づける

ようにしていただきたいと考えます。

とはいえ、費用がかからないからと、安易に自社HP等の電子公告を採用する

のも注意が必要です。

前述の通り、全文公告が必要になるなどのデメリットもあります。


したがって、電子公告を採用することを検討している企業は、

念のため司法書士等専門家に相談されることをお勧めします。


次回は、「増資よりも時間がかかる減資手続」を予定しています。