デット・エクイティ・スワップ(DES) | 士業・法務担当者のためのマニアックな登記・会社法・債権法改正情報~司法書士・行政書士大越一毅~

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士業・法務担当者のための登記パートナー 司法書士・行政書士の大越です。


「士業・法務担当者のための会社法入門」


第15回である今回は、前回の告知通り、「募集株式発行の方法~デット・エクイティ・スワップ(DES)を中心に~」です。


DESの活用は、大企業だけと思われがちですが、中小ベンチャー企業でも活用方法が多いです。創業時にオーナー個人が会社に貸付をするのはよくある話ですからね。これを株式化するという手法もDESの1つです。

特に会社法下では、要件が緩和され、利用しやすくなったので、活用する機会は多いでしょう。

但し、税務リスクを伴う場合がありますから、実行する際には必ず顧問税理士にもこの点を相談することをお勧めします。

もし、顧問税理士が自社にいない場合には、私が紹介することも可能ですから、お気軽にご相談ください!(^^)!



1. デット・エクイティ・スワップとは

株式会社が増資をする場合、出資は金銭で行うことが原則であり、株式の引受人は金銭を出資することに替えて、会社に対する貸付金などの債権で相殺することは禁止されています(会社法208条3項)。

しかし、会社が、財産内容及び価額を募集事項決定の際に決議した場合には、不動産等の金銭以外の方法で出資することも認められます(会社法199条1項3号)。金銭以外の方法で出資することを現物出資といいます。

現物出資は、会社に対する貸付金ですることも可能であり、このように金銭債務を株式化することをデット・エクイティ・スワップ(以下「DES」といいます。)といいます。


2. DESのメリット・デメリット

DESのメリットは、その名の通り、金銭債務を株式化することで、貸借対照表の負債が減少し、その分資本が増加することです。
貸付金のままであれば、いずれ弁済しなくてはなりませんが、株式化をすれば、弁済する必要がなくなります。
但し、DESを行った場合、当該金銭債権者に株式を与えることになるので、債権者が経営に関与することになります。
したがって、債権者が第三者の場合、DESによって多量の株式を与えることになると、経営権を取られてしまうので注意が必要です。
ですが、社長の会社に対する貸付金であれば、社長の株式が増加するだけなので、その点も問題ありません。

DESを実行することによって、会社の財務内容は具体的に以下のとおり変更されます。

DES実行前の会社の貸借対照表
資産の部 負債の部
現金 500万円
その他資産
5500万円
社長の貸付金 3000万円
その他負債 1000万円
(社長の貸付金)
純資産の部
資本金 1000万円
利益剰余金 1000万円
合計額 6000万円 合計額 6000万円
↓社長の貸付金3000万円
↓を資本金1500万円及び
↓資本準備金1500万円に転換

DES実行後の会社の貸借対照表
資産の部 負債の部
現金 500万円
その他資産
5500万円
社長の貸付金 0円
その他負債 1000万円
純資産の部
資本金 2500万円
資本準備金 1500万円
利益剰余金 1000万円
合計額 6000万円 合計額 6000万円


従来、DESは、経営不振に陥っているが再建の見込みのある比較的規模の大きい企業に対して、金融機関が保有する貸付金を株式に振り替えることによって、当該企業の財務内容を改善して再建を図る目的で利用されることがほとんどでした。

ですが、後述の通りDESの手続が容易になったことにより、中小企業でも利用しやすくなりました。
例えば、設立当初の会社資金が潤沢ではない時期に、社長が会社に貸し付けたお金を、DESによって、貸借対照表の見栄えを良くし、銀行の追加融資の可能にすることに利用できます(実際に取引銀行から融資前のDESを要請されることもあります。)。さらには、現金の出資をすることなく社長の持株比率を増加できるので、経営面でも効果的です。

他方で、DESのデメリットは、会社の資産状況を鑑みて債権の時価が低い場合、額面(額面でDESを行うのが通常です。)でDESを行うと、債務免除益が生じ、時価と額面との差額が会社の益金扱いとなる可能性があります。
この点については、税務の専門である税理士に事前にご相談されることをお勧めします。


3. まとめ

DESは、会社法施行前から認められている制度です。
ですが、債権の額面が500万円以下など一定の場合を除き、検査役の調査又は弁護士・公認会計士・税理士(以下「弁護士等」といいます。)のいずれかによる財産額が相当であることの証明が必要でした。
したがって、通常の増資と違い、検査役又は弁護士等の報酬が別途必要なこと、検査役の調査期間が2ヶ月程度要することにより、中小企業ではあまり利用されてきませんでした。

しかし、会社法の施行によって、この点が大きく変更されました。
DESを行う場合には、500万円を超える金銭債権であっても、総勘定元帳など当該金銭債権の金額・債権者名が記載してある会計帳簿を登記申請書に添付するだけで、検査役や弁護士等の証明が不要になりました(会社法207条9項5号)。
但し、


 1.債権の弁済期が到来していること

 2.株主総会で決議した当該金銭債権の価額が負債の帳簿価格を

   超えないこと(会社法199条1項3号)


が必要ですので、注意してください。
とはいえ、弁済期が未到来であっても、期限の利益を放棄すれば登記申請は可能です。また、会社に対する金銭債権であれば、貸付金でなくても可能です。

上記の点以外の増資手続については、現金出資による増資の場合と一緒です。手続が簡便になったとはいえ、株主総会議事録以外にも作成しなくてはならない添付書類がありますし、DES検討されている方は司法書士等専門家にご相談されることをお勧めします。



次回は、「募集株式発行の方法~会社法下での新制度!総数引受契約方式~」を予定しています。