譲渡制限付株式 | 士業・法務担当者のためのマニアックな登記・会社法・債権法改正情報~司法書士・行政書士大越一毅~

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「士業・法務担当者のための会社法入門」


第11回である今回は、前回の告知通り、「会社法で活用法が増えた種類株式~譲渡制限付株式~」です。


会社法下では、様々な内容の種類株式が明文化されました。これをうまく活用・組み合わせることにより、少数株主対策・事業承継・投資家向けの株式設計など、会社の希望に沿った株式を発行することが可能になります。

とはいえ、その設計は容易ではなく、種類株式の発行手続・登記手続に不慣れな専門家も少なくないことから、そこまで広く認知されている制度とはいえないでしょう。


もちろん、不毛な種類株式を発行する必要はありませんが、事業規模が大きくなるにつれて、既存の普通株式のみでは対応できなくなってきている場合には、一度、司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。

私のところでよろしければ、是非お気軽にご相談ください(-^□^-)


今回は、種類株式の基本である譲渡制限株式です。これは非公開会社化には必須の株式内容で、9割以上の中小企業が設定している規定です。

とはいえ、会社法で制度が変わったところも多々ありますので、今回記事にまとめてみました。



1. 譲渡制限付株式とは

本来、株式は、会社が不特定多数の者から資金調達を行うために発行されるものです。

株主が会社に対して出資する理由は人それぞれだと思いますが、出資したお金はできる限り配当や譲渡益で利益を得たいと考えるのが当たり前です。

そのため、会社経営に興味がある株主はともかく、株主にとっては株式が自由に売買できる方が好ましいですし、それが原則です。

しかし、現在の日本社会において、株式譲渡自由の原則が当てはまるのは、大企業のように株式上場をし、株主が一般投資家・機関投資家も含めて大多数になる会社だけの話です。

多くの中小企業においては、会社の株主をオーナー(=社長)及びその親族等人間関係が緊密な者だけで構成し、オーナーにとって好ましくない第三者が株主になることをできる限り避ける傾向にあります。

オーナーの意向に沿わない株主が多くなり、その持ち株比率が高くなると、オーナーは自由な経営ができなくなります。

したがって、株式上場をしていない9割近くの会社が、株式の内容に譲渡制限を定めており、会社の許可なしに株式譲渡することを禁止しています。

これを譲渡制付限株式(会社法107条1項1号、同法108条1項4号)といいます。



2. 会社法下での変更点

旧商法下でも、株式の内容(種類株式)の1つという扱いではありませんでしたが、株式譲渡制限規定の制度はあり、ほぼ全ての未上場企業にこの定めがありました。

旧商法下でこの定めがあった会社については、会社法施行後も、譲渡制限付株式の定めがあるものとみなされます(整備法76条3項)。

但し、旧商法下では、株式譲渡制限を設定する場合、その内容は一律で、「当会社の株式を譲渡するには、取締役会の承認を受けなければならない。」とするだけでした。

しかし、会社法下では、譲渡制限付株式の内容をより柔軟に定めることが可能になりました。

具体的には以下の通りです。

  1. 譲渡承認機関の自由(会社法139条1項但書)
    *承認機関を取締役会だけでなく、株主総会や代表取締役とすることも可能
  2. 譲渡承認の例外事由の多様化(会社法107条2項1号ロ)
    *株主間譲渡だけでなく、従業員や特定の第三者・会社とすることも可能
    譲受人だけでなく、譲渡人の制約をとることも可能
  3. 譲渡不承認の場合の買取人の指定権を特定の者に指定(会社法140条5項)
    *取締役会の承認がなくても代表取締役の判断で指定買取人を決めることも可能
  4. 種類株式発行会社(2タイプ以上の株式を発行している会社)で、一部の種類のみ株式譲渡制限を定められる
    *黄金株など譲渡制限付にしたい内容の株式のみ、規制することが可能

上記4つを定める場合の定款記載例はそれぞれ以下の通りです。
  1. 第○条 当会社の株式を譲渡により取得するには、代表取締役の承認を受けなければならない。
  2. 第○条 当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を受けなければならない。但し、譲受人が当会社又は当会社子会社の取締役若しくは従業員であるときはこの限りではない。
  3. 第○条 2.の本文+取締役会が前項の承認をしない旨の決定をするときは、代表取締役が指定買取人を指定するものとする。
  4. 第○条 当会社の甲種類株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を受けなければならない。


3. 譲渡制限付株式の内容の変更

譲渡制限付株式の内容も上記の通り定款記載事項なので、変更する場合には、株主総会の特別決議が必要です(会社法309条2項)。

なお、どのような内容に変更しても、最初の設定時と違い、特殊決議や株券提供公告等の手続は不要です(会社法309条3項、同法219条1項1号)。



4. まとめ

譲渡制限付株式は、利用しやすく、かつ有益的なので、会社法下でも規定する会社は多いと思います。

また、上記のように、自社に合わせた譲渡制限のスタイルを定めるのもお勧めします。

例えば、オーナーの権限をより強固にしたい会社の場合、譲渡承認機関を代表取締役にすれば、自分の裁量のみで株主の調整が可能です

(承認機関が取締役会だと、代表取締役が反対しても、他の取締役が賛成すると、承認されてしまうので。)。

他方で、大規模な公開会社においても、黄金株のような特殊な目的をもった株式を譲渡制限付にすることで、

万が一でも敵対的な株主に黄金株が譲渡されるリスクを防ぐことが可能です。

但し、譲渡制限付株式の内容によっては、会社の機関に影響を及ぼし、単に譲渡制限の内容を変更するだけでは手続不備となるケースもありますので、ご注意ください。

登記手続も含めて、株式の内容を変更する場合には、専門家に相談されるのも宜しいでしょう。



次回は、「会社法で活用法が増えた種類株式~取得請求権付株式、取得条項付株式~」を予定しています。