Chapter 18
パーフェクトハンサムスーツ

 琢郎は「紳士服のパーフェクトスーツ」にいた。
 不気味なエージェント沢田が監視するように琢郎の背中に視線を刺している。
 そしてハンサムスーツを着たハンサムな白木が机を挟んで琢郎の前に立っていた。
 「どうかしましたか?」
 琢郎は机の上に、これまで世話になったハンサムスーツを投げるように置いた。
 「お湯に濡れても平気なハンサムスーツはないんですか!?」
 白木は無言で沢田を見た。沢田は自分の足元にあった、メタリックのアタッシュケースを机の上に置いた。
 白木は琢郎にニヤリと視線を送ってから、アタッシュケースの蓋に手をかけた。
 ガチャン、ガチャンとまるで開けてはならない玉手箱を開けるような重厚な音が部屋に響いた。
 「これは今までと同じ形のハンサムスーツです! ただし」
 白本の目が厳しくなった。
 「試着用ではなく本物です。パーフェクトハンサムスーツです」
 「パーフェクト!? 弱点なしってことですね?」
 これが欲しかったんだとばかりに琢郎が手を伸ばすと、白木が右手で制止した。
 「このパーフェクトハンサムスーツ、着るには大きな決断がいります」
 「決断? 着ます着ます。はい、もう決断しました」
 白木は机のまわりをゆっくりと回って、琢郎の前で止まり、脅すように言った。
 「これは一度着ると二度と脱げませんよ」
 「二度と脱げないって……?」
 「完全に光山杏仁となります」
 「それって……、一生、光山杏仁として過ごすってことですか?」
 「言い換えれば、二度とブサイクな自分に戻ることなく過ごせるということです」
 白木はスーツの入ったアタッシュケースの蓋をガチャッと強く閉じて鍵を閉めた。
 「いかがいたしますか!? さあ、決断するときです!!」
 白木はアタッシュケースを琢郎に差し出した。
 琢郎は手を伸ばし、取っ手をギュッと握った。
 「一晩……、一晩だけ考えさせてもらっていいですか?」
 白木にはその申し出を断る理由はなかった。
 「このパーフェクトスーツを着るときは生まれたままの姿で着てください」
 
 パーフェクトハンサムスーツはスーツと自分の皮膚を同化させるために、裸で着ないといけないのだ。
 杏仁の人生を選ぶか、琢郎を選ぶか、「選択」の一夜が始まった。