今回の作品は、太宰治「女生徒」(12年4月5日放送)。
朗読は桜井玲香。番組最初期の最初の朗読。
ストーリーテラーは深川
今日紹介する作家は、太宰治
太宰が最も得意とする、女性の告白体で書かれた
昭和14年の作品です。
桜井による作品紹介:
この作品は女性読者から送られて来た日記を基に描かれ
た作品で、14歳の女性を主人公に、その年代特有の不安
や心の移ろいを、朝起きてから夜眠る迄を独白対で綴る
という太宰治の代表作のひとつです
BGM:ぐるぐるカーテン(オルゴール)
私たちみんなの苦しみを、ほんとに誰も知らないのだもの
いまに大人になってしまえば、私たちの苦しさ侘びしさは、
可笑しなものだった、となんでもなく追憶できるようになる
かも知れないのだけれど、けれども、その大人になりきる
までの、この長い厭な期間を、どうして暮していったらいい
のだろう
誰も教えて呉れないのだ。ほって置くよりしようのない、
ハシカみたいな病気なのかしら
ハシカで死ぬる人もあるし、ハシカで目のつぶれる人だって
あるのだ
放って置くのは、いけないことだ
私たち、こんなに毎日、鬱々したり、かっとなったり、そのうち
には、踏みはずし、うんと堕落して取りかえしのつかないからだ
になってしまって一生をめちゃめちゃに送る人だってあるのだ
また、ひと思いに自殺してしまう人だってあるのだ
そうなってしまってから、世の中のひとたちが、ああ、もう少し
生きていたらわかることなのに、もう少し大人になったら、
自然とわかって来ることなのにと、どんなに口惜しがったって、
その当人にしてみれば、苦しくて苦しくて、それでも、やっと
そこまで堪えて、何か世の中から聞こう聞こうと懸命に耳を
すましてしていても
やっぱり、何かあたりさわりのない教訓を繰り返して、まあ、まあ
と、なだめるばかりで、私たち、いつまでも恥ずかしいスッポカシ
をくっているのだ
明日もまた、同じ日が来るのだろう
幸福は一生、来ないのだ。それは、わかっている
けれども、きっと来る、あすは来る、と信じて寝るのがいいので
しょう
わざと、どさんと大きい音たてて蒲団にたおれる
ああ、いい気持だ。蒲団が冷いので、背中がほどよくひんやり
してついうっとりなる
幸福は一夜おくれて来る。ぼんやり、そんな言葉を思い出す
幸福は一夜おくれて来る。幸福は、――
眠りに落ちるときの気持って、変なものだ
鮒か、うなぎか、ぐいぐい釣糸をひっぱるように、なんだか重い、鉛
みたいな力が、糸でもって私の頭を、ぐっとひいて、私がとろとろ
眠りかけると、また、ちょっと糸をゆるめる
すると、私は、はっと気を取り直す。また、ぐっと引く。とろとろ眠る
また、ちょっと糸を放す。そんなことを三度か、四度くりかえして、
それからはじめて、ぐうっと大きく引いて、こんどは朝まで
CM②:ぐるカー
メイキング:
本編が長いので、この笑うシーンだけ
初期作品なので、作品紹介の部分などが後の回とフォーマット
が異り、出版社と書籍名の表示がなく、映像も桜井の周りを
パンする撮り方をしている。
メイキングも極端に短い。
その分、文学を伝えようとしていたのだろう。
この放送は12年4月初旬だが、時を半年遡ろう。
乃木どこの第1回にVTR出演した秋元康は、乃木坂46に
ついて、「コンセプトのないのがコンセプト」と言った。
早い話、予定は未定、コンセプトは
暗中模索だというわけだ c(^、^ )ヾ(--:;)...
そして、ようやく決ったのがリセエンヌ(lycéenne)即ち「女学生」
である。
#18(13年2月5日)で暫定キャプテンに指名されて程ない時期の
撮影(正式キャプテン就任は、#37のサードシングル選抜発表時)
でもあろうから、コンセプトを映像化するのは桜井以外なかった
といえよう。
幼稚園からカリタスという「キャリア」が大きいか c(^、^ )ヾ(--:;)...
解説どおり、元々が女学生の(何ヶ月分かの)日記を、一日の
出来事に再構成しているので
文章自体に大した内容はないが ヾ(^^:;)...
本作についての川端康成の
作者は「女生徒」にいわゆる「意識の流れ」風の手法を、
程よい程度に用いている
それは心理的といふよりは叙情的に音楽じみた効果を
おさめてゐる
という評は正鵠を射ていて、どこか音楽的な流れを感じさせる。
ぐるぐるカーテンあたりをBGMにして朗読するのにちょうどいい、
などと言ったら、日記の著者は憤慨することだろうがね。
乃木坂より、欅坂の曲の様な文章である(一番近いのは、
サイレントマジョリティより大人は信じてくれないだろうか)。
眠りにつくところで朗読は終っているが、原著では最後にもう
一文ある。
そして太宰が気に入ったのは、恐らく、ここでは省略された、
その一文、
おやすみなさい。私は、王子さまのいないシンデレラ姫
あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?
もう、ふたたびお目にかかりません
という「捨て台詞」ではなかろうか c(^、^ )ヾ(--:;)...
(続く)