私は死んだ。
死んだらどうなるのかしら?と思っていたが、それはなんとなくイメージした通りだった。
真っ白い世界。そこに真っ直ぐな道がある。
歩いて行くと大きなゲートがあってそれをくぐると関所のような場所に差し掛かった。
そこにはいかにもイメージ通りの神様らしき人が立っていた。
「よくきたな。お前は死んだのだ。その自覚はあるかね?」
「はあ。死んだことは分かってます。」
「そうか、なら話は早い。たまに死んだ自覚がないものが居て揉めることがあるのでな。」
神様らしき人は長いヒゲを撫でながら続けた。
「お前には2つの選択肢を与えよう。どちらか一方を選ぶが良い。
1つは生まれ変わること。誰になるか、どこに生まれるかはお前の運次第。
また新しい人生を0からスタートするわけだな。」
これもなんとなくイメージした通りだった。
が、もう1つ選択肢があるという。なんだろう。天国で暮らすというたぐいか?
「もう1つはなんです?」
私は我慢できずに聞いた。
「ふむ。もう1つは死ぬ前の人生を途中からやり直すことじゃ。
この選択肢は普段はあたえんのだがな。
今日は気まぐれで与えてやってもいい気分なのだ。」
「途中からやりなおす?」
「そう。誰しも"あの時に戻ってやり直したい"という瞬間がいくつか思いつくじゃろう。その瞬間に戻してやろうというのだ。」
「ほほう。」
これは意外な選択肢だった。そんなことが可能なのか。
つまり自分だけが過去に戻るということ。ある種のタイムトラベルということになる。
私の人生にはこれといった山場がなかった。
だから戻りたい瞬間は思い当たらない。
しかし、漠然と高校時代に戻りたい気持ちがあった。
高校時代に戻って、もっとしっかり勉強すればきっとより良い人生になっていたに違いない。
良い大学に行って、良い会社に就職して、たくさん金を稼ぎ、いい女と結婚する。
そんな人生に憧れた。
「ただし、じゃ。」
神様らしき人が続けた。
「当然といえば当然だが、戻った瞬間以降の記憶はすべて消える。今こうして話している内容もすべて忘れてしまうということじゃ。」
「なるほど。」
つまり高校時代に戻ったとしてもなんらアドバンテージはないということになる。
むしろまったく同じ人生をなぞるだけ、という可能性すらある。
そんなことに意味はあるのか?
「ふふふ。みんな同じように考えおる。」
こちらの気持ちを見透かしたように神様らしき人が笑った。
「さっき記憶を消すと言った。
だが、1つだけ記憶と似て非なるものがお前の中に残る。
それは意思だ。
お前が強い意志を持っていれば戻った先の世界でその意思を継続することができる。」
「意思?」
「そう、意思。
今度こそ必ず、と強く思いながら戻ればその意思だけはお前に残る。
記憶が消えていてもお前がやり直したいような人生にすることは可能なのだ。」
「なるほど。」
そうか。意思か。
俺は大学受験に失敗し、それから失敗ばかりの人生だった。
そんな悪い人生ではなかったが、誇れるようなものでもなかった。
できればやり直したい。
そう思ったことが何回もあったことを思い出した。
「さあ、どうするかね。
わしの気まぐれも気分次第じゃ。早く決めないと通常通り生まれ変わらせるぞ。」
「いや、戻して下さい!高校時代に!
私はもう一度やり直したいのです。この気持を持って戻れば必ずいい人生を歩めると思うのです!」
「ふむ、そうか。いいだろう。では高校時代にもどしてやる。」
そういうと神様らしき人は杖をふるった。
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おっといけない。
気づいたら寝ていたらしい。
明日は大事な大学の模試なのに。
まあしかし、模試の前に無理してもしょうがあるまい。
今日は寝るとしよう。
私は布団に入った。
その様子を見下ろしながら神様らしき人はつぶやく。
「まったく。何回おなじ人生を繰り返しているのかも知らずに。
少しでも意思を強く持たすために自ら選択させる形式にしているだけで、そもそも生まれ変わりなどという選択肢はないのだ。
すべての人が同じ人生を何回も何回も繰り返している。
その度にあの頃に戻りたいと後悔する。そして戻してやっても同じことを繰り返す。
今その瞬間は、お前が戻りたいと熱望したその瞬間であるとも知らずに・・・。」
