「そういえば、ショートは起きててもいいの? 姉ちゃんからショートが体調不良で休んでるって聞いたけど」

「ずいぶん今更な質問だね……。病気じゃなくて怪我だから、全然平気だよ」

 

その怪我も菖蒲の激マズ薬のおかげでだいぶマシになったしね……。きっと明日は学校へ行けることだろう。

 

「それならいいけど……って、なんか腹減ったな」

「あ、もうそんな時間なんだ。意外と時間経ってたね」

 

ゴタゴタしてたらあっという間に12時である。あたしはずっと部屋でぐうたらしていただけだし、正直そんなにお腹減ってないけど……杜若やてんまは、違うもんね。

 

「じゃあオレが昼飯が何かちょっと見てくる。お前ら大人しくしとけよ、特に杜若! 何かやらかしたらお前そのまま植物魔法学校の学生寮に追い返してやるからな。菖蒲へのチクりも込みで」

「わかったわかった、早く行けよ」

 

そう言っててんまは部屋を出て行った。おそらく学生寮の冷蔵庫を見に行くのだろう。まだそこまで暑い時期ではないけれど、食べ物を常温で保管できるような季節ではないから。

今日のお昼ご飯は何かな? なんて思っていたら、てんまが思ったより早く帰ってきた。それも顔面蒼白な状態で。

 

「……りんね、昼飯置いてかなかった」

「えーっ!?」

 

まさかの事態だ。でも考えてみればこの寮内にいる人無駄に健康優良児すぎてみんな学校休むことないもんね……。誰かが休んだ時のことを誰も考えてなかったんだろう。あたしも仮にゆうきが休んだとしてもそんなこと絶対気にしないと思う。

 

「ま、まぁないものは仕方ないだろ。他に何かなかったのか?」

「ガチで何も無かった……調味料とかしかない」

「それは……食えないな。そしてオレは何か作るとかできない」

「あたしもできないよ!」

「ここに料理できるようなやつがいると思ってねぇよ」

 

なんかヒドい発言だな! てんまだってできないのに……。まぁ料理ができても調味量しかないなら意味ないんだけどね。あ、そういえばあたしの部屋にあれがあったかもしれない。

 

「あたしたぶんお菓子を部屋の中に保管してた気がする!」

「オレとってくるよ、どこにあるんだ?」

「ありがとう杜若。確かあの引き出しの中に……」

 

あたしが指示すると杜若がその引出しの中身をとってくれた。いつ買ったものだかあまり覚えてないけど、何も食べないよりかはマシだろう。

賞味期限を確認すると、大体二ヶ月ほど前に切れていたがこれくらいなら問題ない。

 

「じゃあいただきまーす」

「おい、ちょっと待て」

 

あたしと杜若がお菓子を食べようとすると、急にてんまがストップをかけた。いったいなんなのだろう。賞味期限が切れていることへの文句だろうか? てんまだってこれくらいなら普段気にせず食べてる気がするんだけど……。

 

「これ賞味期限三年前じゃねーか!」

「え? そうなの? まぁいいんじゃない?」

「何がいいんだよ! 見た目もおかしいし! 第一なんでお前らは普通に食おうとしてるんだよ!」

「賞味期限二か月前くらいなら大丈夫かなって、杜若のは?」

「オレのもそれくらいかな。スナック菓子とかだしそれくらいなら平気だろ」

 

――つまり、賞味期限が数年前で切れているものを引いたのはてんまだけらしい。つくづく運の悪い男だなぁ。まぁそんなものを保管していたことにも驚きだけどね!

 

「お前わざとやったのか!?」

「そんなわけないじゃーん、そんな昔のお菓子があること自体知らなかったし。ただてんまの運が悪いだけだよ」

「それはそれで嫌だな……」

 

てんまがガックリとうなだれる。うーん、ちょっとかわいそうだし、あたしのお菓子少しわけてあげようかな? まぁ、てんまがここにいるのはあたしのせいでもあるわけだし……。

 

「しょうがないから少しだけ分けてあげる。感謝してよね!」

「おう、サンキュー……ていうか、食いものはちゃんと管理しろよな」

「わかってるって!」

 

これからはお菓子を放置しないようにしよう。買ったらなるべく早めに食べないとね。お金もお菓子ももったいないもん。

 

 

 *

 

 

なけなしのお菓子を食べた後、ふたたびやることのない暇な時間がやってくる。そして食べた後だからかなんだか無性に眠い。ベッドにいるからなおさらそう感じるのだろうか。

 

「うー……ん、なんだか眠たくなってきた。やることないしお昼寝しようかなぁ」

「じゃあオレもー、ショートと一緒に寝る!」

 

そう言って杜若がベッドの中に潜り込んでくる。ちょっとビックリしたけど、杜若ならまぁいいか……。なんて思っていたら、てんまがいきなり怒り出す。

 

「おい杜若、何やってんだ!」

「ただ一緒に寝るだけですー!」

 

杜若はあたしの後ろに来たかと思ったら、いきなり抱き着いてきた。普段誰かに抱き着かれたりすることがないから、少しドキドキするかも。いやでも杜若に変な意味はないんだから……せいぜい抱き枕くらいの間隔なんだろう。

 

「寝るなら別の場所で寝ろよ! 空いてる部屋あるんだから!」

「ショートと一緒に寝たいんで! 心配すんなよ、てんまと違って変なことしたりしねーからさ!」

「んなっ……!」

 

今度はてんまが一瞬で真っ赤になる。そこまで怒ることなのだろうか。そもそもなんでてんまが怒るんだろう? 一緒に寝るくらいなら怪我が悪化したりすることもないのに……。

 

「なぁショート、いいだろ? 一緒に寝ようぜ」

「別にいいけど……狭くないの?」

「やったぜ、サンキュー! 全然狭くない!」

「……じゃあ、勝手にしろ」

 

杜若が答えると、てんまが怒った様子で部屋から出て行った。一生懸命考えてもてんまが怒る理由がまったく分からない。まぁ、お昼寝してる間にてんまのご機嫌も直ることだろう。