「いいじゃん、ショートから許可とったんだしさ!」

「そうだよ、あたしは別に杜若がいても構わないしさ」

「……だったら勝手にしろ!」

「そんなに怒らなくたっていいじゃん!」

 

さっきはあたしがウロチョロするから怒ってたのかと思ったけど……そういうわけでもなさそうだし、なんでてんまはこんなに怒ってるんだろう? 意味が分からない。

 

「あはは、それは違うよショート。てんまは怒ってるんじゃなくてやきもちやいてるんだよ~」

 

杜若が笑いながらそう言う。なるほど、やきもちやいてイライラしてる……ってところかな? でも、そんな相手がここにいるのかな。あ、もしかして杜若をとられたと思ったのかな。喧嘩するほど仲がいいとかいうし、てんまも素直じゃないってことか!

 

「そっかー、てんまもゆうきと似て素直じゃないってことなんだね!」

「……あのさショート、本当に理解してる?」

「うん、分かってるよ! つまりてんまはあたしに杜若をとられたと思ったってことだよね?」

 

あたしがそう言った瞬間、二人から頭をはたかれる。激痛とまではいかないが、地味に痛い。なんでこんなことをされなくちゃならないのか。

 

「そんなわけないだろ! オレは杜若には一ミリも興味ねぇ!」

「オレだっててんまに好かれたくねぇよ!」

「え~、だって状況的にそういう風にしか考えられなくて……」

 

杜若をとられたくないから菖蒲をあたしの見張りとして呼んだのかなって……そしたらすべての辻褄が合うと思うんだけど。それ以外はよく分からないし、面倒くさいからもうこの二人はそういうご関係なのだと思っておこう。あたしは一人で完結させた。

 

 

 *

 

 

あれから約数十分。さきほどと変わらずあたしは部屋で大人しくしている。そして無駄に歩き回らないことを条件にベッドから出ることを許可された。それもこれも菖蒲がくれた激マズ薬のおかげで痛みがかなり引いたからである。二度と飲みたくないが、菖蒲には感謝だ。

ふと、テーブルの下に目をやると何かが落ちているような気がした。

 

「あれ、何これ」

 

その物体に手を伸ばし、とってみると謎の葉っぱの束とメモ書きがついていた。これは何なのだろう……なんだか嫌な予感がする。

 

『毎日これをすり潰して飲めばすぐに痛みが引きますわ! 菖蒲』

 

……まさかこの葉っぱ、さっき飲んだ激マズ薬の原材料!?

 

「杜若、これってもしかしなくても菖蒲の鎮痛薬では……」

「あー、そうだな。姉ちゃんがよく作る味度外視の薬だな。オレも飲まされたことあるよ……」

「よかったな、いいもの貰えて」

 

よくないわ! ついさっき二度と飲みたくないと思ったばかりだよ! 確かに足の痛みはだいぶ良くなったと思うけど……もうあとは自然治癒力に頼りたいかな。

 

「じゃあせっかくだからてんまにあげるよ、ゆうきに半殺しにされたときにでも飲みなよ」

「そんな準備したくねぇわ!」

「その発想いいな! てんま、もらっとけよ!」

 

あたしと杜若でてんまのことを囃し立てる。てんまのほうがゆうきにボコられること多いし、てんまにあげるのが一番いいよね。なんだったら最短今日使うかもしれない!

 

「あーうるさいうるさい! いいからお前は大人しくしてろよ! ちょっと良くなったからって調子にのるな!」

 

てんまに怒鳴られながらベッドに押し戻される。なんかデジャヴ……。まぁでも、これで今日やらかして明日も休み……なんてことになったら最悪すぎるし、言うこと聞きますか。

 

「それにしてもヒマだなぁ……。杜若、ゆうきの部屋いってイタズラしてきてよ」

「なんで急に?」

「あたしは出られないし、代わりにやってきてよ。全部てんまがやったことにするからさ」

「うん、分かった! 行ってくる!」

「おいお前ら何言ってんだ!? って、ホントに行くな!」

 

ゆうきとてんま二人に嫌がらせができる……まさに一石二鳥の作戦だね! あたし自身でできないことだけが残念ではあるけど。まぁそれは仕方がないよね。

 

「まったく余計なことばっかり思いつきやがって……」

「いい人にはこんなことしないし、大丈夫だよ!」

「それオレがいい奴じゃないって言ってるようなものだろ!」

 

てんまがいい人なわけないのに、何を言っているんだろうか。ごくまれにいい人っぽくなる時もあるけど……それだけでいい人にはならない。

 

「まぁ変態ストーカーがいい人なわけないよね」

「それはお前らが勝手に言ってるだけだろ! ……って、気付いたら杜若がいねぇ! 本当に行ったのか!?」

 

そう言っててんまが部屋の外をのぞく。通路にはいなかったようで、うなだれている。あたし的には行ってやってくれるといいな。

 

「あいつがいると本当ロクなことにならねぇな……杜若のこと探してくるから、そこから動くなよ!」

「わーかってるってぇ」

「いや、分かってないし念のため……」

 

てんまがそう言いながら紐のようなものを持ってあたしのそばにやってくる。何事かと思っていると、いきなりあたしの腕をその紐で結び、反対側をベッドに括り付けた。つまり、あたしはここから出ることができなくなってしまった。

 

「何するのさ!」

「お前の脱走への信頼の証だ」

「そんなもんいらーん!」

 

別に脱走するつもりなんかなかったのに……心外だ! とはいえ、日ごろの自分の行動を考えたら致し方がないのかもしれない。

 

 

 *

 

 

「あれ、もう戻ってきた……」

「ショートごめん捕まっちゃったわ~、これからイタズラしようというところで……」

「お前らは大人しくしてろ!」

 

あらら、捕まっちゃったのか……まぁ杜若がいなくなってすぐ行っちゃったし、仕方ないか。

ゆうきとてんまへの嫌がらせは次の機会に持ち越しだね。